評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。5月ぶんの優秀録音をお届けしています。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
『passage パッセージ - ショパン: ピアノ・ソナタ第3番』
藤田真央
2017年のクララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールで優勝した現在19歳のピアニスト、藤田真央(ふじた まお)の3rdアルバム。大袈裟でなく史上最高のピアノ録音ではないか。これほど音場が透明で、ピアノが持つダイナミズムが巧みに表現された音を、これまで体験/聴いたことがない。
第1曲のリスト・ハンガリー狂詩曲第2番。冒頭の和音からにして圧倒的だ。センターに定位したピアノから衝撃的な、そしてボディ感のある、深い音が放出される。透明感がありながら、味わいの濃い音。切れ味がシャープで、音が上質、弱音から強音までのレンジが広く、微小音に込めたニュアンスの変化もこと細かに聴き取れる。ナチュラルさと表現の幅が大きい音楽的な魅力が両立するのは、ピアニストの力量であるのと同時に、日本が誇る巨匠的録音家、深田晃氏の録音術の成果だ。過剰にホールトーンが入り込まないのも、明瞭さを意識した深田録音の美技。録音は2018年1月29-31日、アクトシティ浜松中ホール。352.8kHz/24bitのDXD記録。ピアノはヤマハコンサートグランド「CFX」。
FLAC:192kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit、WAV:352.8kHz/24bit
ナクソスジャパン、e-onkyo music
『If the Moon Turns Green』
Diana Panton
ダイアナ・パントンの歌声は聴く人を幸せにする力がある。上品で、気品がある清楚で可愛い声。気持ちが静まり、心が豊かになり、気分も爽快になる。カナダはダイアナ・クラール、エミリー・クレア・バーロウ、ホリー・コール、ソフィー・ミルマン……と女性ジャズシンガー王国だが、中でも、ラブリーでコケティッシュな質感、爽やかで豊かな感情表現では、ダイアナ・パントンの右に出る者はいない。本コンテンツは「月と宇宙」をテーマにした。
素晴らしいマスタリング芸だ。ダイアナ・パントンの潤いのあるラブリーーボイスが、DSD5.6MHzのヒューマンな表現力に乗って、とても快適に気持ち良く奏される。5.6MHzらしく、粒子がひじょうに細かく、ヴォーカルの声色がブライトで、音色も華麗。ヴォーカルはセンターに正確に定位し、ベース、ギターというシンプルなバックとのバランスも好適だ。
私は本CDを初めてリリースされた2007年にいち早く購入し、これまでさまざまにイベントで再生してきたが、それはすべてCDであり、今回、DSDにマスタリングされたバージョンを聴き、DSDの艶感と粒立ち感は、ダイアナ・パントンの質感にひじょうにフィットし、彼女の魅力をさらに引き出したと感じた。
FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit、5.6MHz/1bit、2.8MHz/1bit
2xHD、e-onkyo music
『And Then There Was You[Live At Ronnie Scott's]』
ノラ・ジョーンズ
ロンドンの老舗ジャズクラブ「Ronnie Scott's Jazz Club」でのライブだ。ドラムにブライアン・ブレイド、ベースにクリストファー・トーマスを迎えたトリオ編成。BD作品のプロモーション的位置づけの「And Then There Was You」一曲のみハイレゾリリース。
明確なピアノ、くっきりとしたヴォーカル。、豊かな響きからは現場にいるような感興が得られる。ハイファイ調ではなく、会場のPAで拡声したような現場的な音調がユニークだ。音自体は、ハイレゾ的な伸びの良さと明瞭さを持つが、雰囲気はまさにロンドンの老舗ジャズクラブで、スコッチを傾けながら聴いているような、グロッシーで、色気のある音場感。これほどクオリティが高い、ライブ的な臨場感音は聴けるものではない。
BDの画質も実はなかなか凄い。イーグルロックグループ制作の本作品は、四月に4K映像をフランス・カンヌで取材した。ロニー・スコッツの現場では撮影のための特別なライトを使わず、照明は会場にある常設のライトだけで、ライブの雰囲気をそのままカメラで捉えた。シャドウとライトが結構ハッキリと分かれており、全体的に暗く、ローキーでスポットライトで奏者が浮き出る、ジャズクラブに相応しいライティングだ。ノラ・ジョーンズの肌はオイリーだ。メイクの影響かもしれないが、オイルが浮いたような肌の質感だ。それが会場のライティングと4Kで撮ると、いい意味で生々しさがにじみ出ていた。そんなビジュアルを想像しながら、聴くのが愉しい。
FLAC:96kHz/24bit
Capitol Records、e-onkyo music
日本コロムビアは日本人作曲家と西洋の定番名曲をカプリングする「BEYOND THE STANDARD」をスタート。
バッティストーニ得意の「新世界」と伊福部作品という超ユニークな組み合わせだ。まさにバッティストーニならではの、ひじょうに剛毅で元気いっぱいの超前傾姿勢の「新世界」だ。でも歌うべきところはアゴーギクし、たっぷりと感情を込める。第2楽章ではオーボエの叙情性も聴ける。
バッティストーニは、東フィルとサントリーホールでライブ録音したレスピーギの交響詩『ローマ三部作』で一躍有名になったが、この時の音はオフマイクな遠方での鳴り方であり、熱血演奏にふさわしいダイレクトさ、明瞭さ、明確さが欲しいと思ったものだ。演奏はたいそう熱いのに、音場が遠かった。今回の東京オペラシティ コンサートホール録音は、そんな不満が払拭され、演奏ばかりか、音もヴィヴットで、生命力に溢れる。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
日本コロムビア、e-onkyo music
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