“音”はリアルだが、“音楽”はどこだろう?
今回聴いたN5005の印象は「現代のAKG」。ハイレゾ時代に入って好まれる強いフラット傾向と、あらゆる部分で押し出しの強いパワフルなサウンドをどの音源でも感じた。これは僕が2月のポタ研でほんの数分試聴をした印象そのままだ。どこを切り取っても身が詰まっており、どんな音源でもそつなく鳴らす、そんな“失敗をしない”イヤフォンというのが、今回の試聴の結論である。もっとも、多ドライバーということもあり、しっかり鳴らすには相応のドライブ力が求められるわけだが。
ではこのイヤフォンが欲しいかと問われると、僕はちょっと考え込んでしまう。何故かと言うと、かつてのK701やK3003で感じた、身悶えするような色気、音楽に引き込まれる感覚というものを、N5005の音からは感じなかったからだ。良いイヤフォンであることに間違いはない、だが、好きなイヤフォンではない。僕が好きなものは必ずしもフラットではない、音と音楽に個性を感じる人間的なものだ。単なる音声情報ではなく、時に熱狂し、時に涙する、正しいのではなく愉しい、そんな音楽を僕は聴きたいのだ。
それでも僕は、N5005の登場を心から歓迎したい。何故ならK3003と併売されるからだ。ある程度の一貫性を確保しつつ、オーディオブランドとして異なるサウンドのモデルを同時にラインアップする、これは素晴らしいことだと僕は主張する。もう少し踏み込んで言うと、N5005は正確無比なフラット音、K3003は熱狂や感涙の音楽だ。
次回はK3003を試聴して、AKGが両者を併売する意味を考えたい。今回と併せて、お目通しいただければ幸いだ。