子育てや家事に忙殺されるワーキングマザーの1日をVRで体験する。こんなユニークなマネージャー研修があるということで、リクルートジョブズに取材に行ってきた。臨場感の高いワーママ体験はマネージャーたちにどう響いたのだろうか?
VRだから体感できるリアルなワーママの1日
今回、マネージャー研修を主催したのはリクルートジョブズの経営企画部で、ダイバシティマネジメントを学ぶため、介護や育児といった切り口で実施した。コンテンツの1つとして研修で用いられたVRコンテンツは、マネージャーがワーキングマザーの1日を疑似体験することで、自身のマネジメントに活かすのが目的。リクルート人事統括室のダイバーシティグループと認知症VRなどを手がけてきたシルバーウッドと共同開発したという。
リクルートグループのワーキングマザー率(女性正社員のみ)は2017年4月時点で22.7%になっており、10年前に比べて3倍近くにまで上昇している。しかし、リクルートワークス研究所が実施した調査(「マネジメント行動に関する調査」2017)によると、育児と仕事を両立するメンバーをマネジメントするにあたって、「職務の設計・割り当てが難しい」「業務上の指示や命令が難しい」「部下の抱える事情への一般的知識を持っていない」などの結果が出ていたという。そこで、ワーキングマザーの1日を擬似体験することで、育児と仕事を両立しているメンバーの事情を理解し、強みを活かしたマネジメント(組織設計や仕事のアサインなど)を考えるのが今回のダイバシティマネジメント研修の目的だという。
VRコンテンツのモデルは、3人の子育てをしているリクルートのスタッフ職の女性で、パートナーの助けが得られない。一方で同社の制度でリモートワークは可能という設定だ。使い方の説明を聞き、約100名の参加者が全員VRゴーグルを装着し、コンテンツを再生。記者もさっそく体験してみた。
コンテンツは夕方の会議に間に合わせるため、主人公のママが社内で資料を作成しているところから始まる。しかし、会議に参加するつもりだったのに、子どもが熱が出したという電話が保育園からかかってきて、迎えに行かなければならなくなる。上司に資料を送るものの、チャットには「せっかくここまでやったのに」という気持ちがにじみ出る。そんな苦労で、いざ保育園に迎えに行ってみると子どもはすでにけろっとしている。「なんだ、元気じゃない」という心の声が聞こえるようだ。
夕方から夜までも休み時間はない。買い物に行き、夕食をみんなで食べる。食事が終わった頃に上司から電話がかかってきて、明日の朝までにどうしても資料を作り直してほしいという依頼が入り、子どもを寝かしつけて夜に作るしかないと残業の許可をとる。とはいえ、子どもといっしょに寝てしまい、気づくと深夜11時。ママはそこから資料の作成に入る。つらい。
次の日の朝もやっぱり忙しい。朝食を作り、自分の支度もして、子どもを送り出す。コンテンツはここで終わりだが、ママの忙しい日はエンドレスで続く。司会が参加者に聞くと、「お母さん、忙しいですよね」といった感想のほか、「突発的な発熱など、自分がコントロールできないことが多かったり、業務への焦り、物理的に睡眠時間が足りないなど、高ストレスな環境にあることがわかった」などのコメントが出る。2人の子どもが大きくなった今となってはわりと落ち着いているが、確かに5年前はうちもこんな感じだった。
VRコンテンツに仕掛けられた3つの気づきポイント
今回のVRコンテンツは、事前に社員にヒアリングをし、上司に知ってもらいたい項目を選定して構成しているため、意図的にいくつかの気づきポイントが用意されているという。たとえば、17時からの会議。普通の会社員であれば当たり前の時間だが、保育園の送り迎えをするワーキングマザー・ファザーからすると、17時からの会議は参加自体が難しい。リクルートホールディングス サステナビリティ推進部パートナーの伊藤 綾氏は、「延長保育の時間も6時や6時15分など保育園によって異なるため、部下の事情を、マネージャーがきちんと把握することが重要」と指摘する。
また、子どもが元気なのに熱があれば迎えに行かなければならないという事情や、買い物、夕食の準備、お風呂、食事、宿題や明日の準備の手伝いなど、夕方から寝るまでの家事の忙しさも気づきポイント。「学校や保育園からいろいろな課題が来て、困っている親御さんも多い」と伊藤氏は語る。
子どもと寝入ってしまい、深夜に布団から起きてきて、仕事しなければならないというのも重いシーンだ。リモートワークが可能になったことで、いつでもどこでも仕事が可能になってしまったわけだが、深夜残業申請も必要になるし、なにしろ体に負担がかかる。逆に早朝に会議をやると、ワーキングマザーはお弁当を早めに作り、子どもも早めに起こさなければならない。こうした事情を理解していないと、適切なマネジメントは行なえないだろう。
「ダイバシティとはあなたのこと、私のことである」
一方、ワーキングマザーは生産性が高いという強みがある。「育児と仕事を両立しているメンバーはつねに時間を意識している。短い時間の中で、どのようにアウトプットしていくかを考えている」(伊藤氏)。そのため、子育て中や介護中の部下に対して、一律に軽い仕事をアサインするのは、こうした強みを活かせないことになる。「本人がどう成長したいのか、どこまで任せたらよいか、会話していくことが重要だと思う」(伊藤氏)。
では、マネージャーとしてどうすべきか? 最後、マネージャーたちはグループ内で話し合い、意見を共有する。
伊藤氏は、「このVRを見ると、『こんなに大変なんだ!これじゃあ無理ですよ』という反応と、『ワーキングマザーだけ、ずるくないですか?』という反応に分かれる。でも、明日自分や両親が倒れたら、同じ立場になる。つまり、ダイバシティはあなたのことであり、私のこと。ずるいと言う人に対しては、組織としてダイバシティを考えることは、あなたのためでもあるとコミュニケーションしてはいかがでしょうか?」とアドバイスした。
リクルートグループには、ワーキングマザー・ファザーの多い組織をマネジメントしている管理職が多く、「コミュニケーション」「仕事のアサインや評価」「組織・チーム設計」の3本柱をきちんと抑えているという。たとえば、コミュニケーションに際しては、部下の現状をきちんと把握することが重要で、「何時まで働けるのか、家族の応援はあるか、聞きにくいことだが、把握しておいた方がよい」(伊藤氏)という。また、仕事のアサインに関しては「フェア(公平性)とケア(配慮)を両立させる」、組織作りに関しては「生産性向上とコミュニケーション強化」と「チームの相互理解」が重要だという。
リクルートでは第2弾として「介護」の制作を検討中。今後もダイバシティを意識したマネジメントを実現すべく、テクノロジーを活用したプログラムを推進していくという。