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遠藤諭のプログラミング+日記 第42回

イノベーションの「A+B」

VTuber(バーチャルYouTuber)革命——それは、メディアや教育までも変えるコミュニケーションの新しい扉かもしれない

2018年04月13日 17時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

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次のA+Bを考えよう!

 ナレッジキャピタル大学校で1コマ講義をさせていただくことになりました。今年、5周年を迎えるナレッジキャピタルが、4月18日(水)、19日(木)に開講するもので、私なりのイノベーションのお話をさせてもらうつもりだ。「次なるネットデジタルのA+Bは?」と題した内容である(前回のコラムでも少し触れた)。

 テクノロジーの最新ニュースをずっと追ってきた私からすると、画期的にイノベーティブな製品は、2つ以上の技術トレンドの組み合わせの結果生まれることが本当に多い。たとえば、

 といった具合だ。もちろん、世の中には1つの技術から1つの製品が生まれることもある。あるいは1つの新しい技術をいままでの製品に組み込むことで生まれる。たとえば、自転車にエンジンを付けたらオートバイが生まれた。とくに昔はこういうパターンが多かったと思う。

 珍しい例として、1つの技術から何かを引き算することで生まれる製品もある。ポータブルカセットデッキ(デンスケ)から録音機能を取り去ることで「ウォークマン」が生まれた。機能を取り去ったことで小さくできて新しいニーズに答えることができたわけだ。

 しかし、いちばん楽しいのは新しいトレンド「A」と「B」が組み合わさったときに生まれる製品である。古くは、トランジスタラジオとカセットテープレコーダーを組み合わせた「ラジカセ」だろう。

 ラジオが、真空管からトランジスタになって個人向けメディア機器となった。次に、オープンリールだったテープレコーダーが、幅12センチのコンパクトカセットで気軽にやりとりもできるようになった。この2つがAとBとなって「A+B」で「ラジカセ」が生まれた。

 しかし、ここで注意してほしいのは、ラジカセは単純に技術が足し算されて世の中に受け入れられたのではないことだ。背景に「受験戦争」とそれによって盛り上がった「深夜放送」という文化がある。つまり、「A'」と「B'」の連鎖反応が、ラジカセの「A+B」の裏側には読み取れる。

ラジカセは単純な複合商品ではない。アーリーアダプタやレイトマジョリティなどという言葉を使うマーケティング理論は負け惜しみの理屈である(少しずつ広がるのは数学的に当たり前)。まったく新規の商品が受け入れられるのは人々の心的エネルギーが同期した瞬間である。

 有名な『イノベーションのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン著)という本には、モバイル端末用の超小型HDDの失敗の話が出てくる。私はその超小型HDD(キティホーク)の現物を入手するほど魅力を感じていたが、だからといって自分のモバイルギアにそれが入ったらいいなとは微塵も感じなかった。クリステンセンが書いているようにニーズはなかったのだが、テクノロジーが先行して新しいジャンルを生み出すこともある。だから、経営判断として前に進めることもあってよいと思う。しかし、ラジカセにおける受験勉強や深夜放送のような、A'やB'がなかった。

 モバイル機器に、超小型HDDが入ったイノベーティブな商品というのなら、2001年のアップル「iPod」だ。CDからリッピングすることがすっかり流行して、それをCD-Rに焼くよりもハードディスクのまま持ち歩けばいいじゃんという分かりやすい商品だった(日本と英国、香港だけはMDがあったのでピンとこないかもしれないが)。これで、はじめてモバイルとHDDのA+Bが成立した。

 音楽配信で印象的だったのは、2004年にauが「着うたフル」を開始したきっかけである。「着メロ」の延長といえる「着うた」をユーザーがどう使っているか調査したら「聴いている(鑑賞している)」と答えた人が多かったからだそうだ。それまでにも、モバイル向け音楽配信はあったのに(1999年のM-Stageなど)、なぜ「着うたフル」は受け入れられたのか? これの背景には、着メロやストラップで個性を出したいというケータイ文化との関係がある。

チャンネル登録者数が250万人、VTuberにイノベーションの本質が隠れている

 ところで、ここ数カ月の間に盛り上がってきている「VTuber」(バーチャルYouTuber)というコンテンツ形式をご存じだろうか? 顔認識やモーションキャプチャーを使って、演者の表情や動作をリアルタイムに反映するバーチャルキャラクターだ。iPhone Xのアニ文字(Animoji)にも似た技術で、いまいちばん新鮮な「A+B」ではないかと思っている。

 PANORAの広田稔氏と話をしていたら、彼は、「ユーチューバー」と「VR」などバーチャル環境の周辺技術によってVTuberは可能になったと説明してくれた。ホリプロの伊達杏子(1996年)以来、CG技術(リアリティの追求)では遅々として進まなかったといえるバーチャルキャラクターが、いま風雲急を告げている。

 VTuberによって、何が可能になるのか? 広田氏によれば、たとえば地方の「ゆるキャラ」に代わるコンテンツになる可能性がある。広報活動のためにアニメ動画をいちいち制作していたらお金もかかるし時間もかかる。VTuberなら、いちどシステムができれば学内放送なみの気軽さで情報提供できる。子どもたちに受け入れられやすいキャラクター設定ができれば教育分野での利用も期待されるという意見もある。

 ちなみに、広田氏が早くから注目していた「キズナアイ」は、YouTubeのチャンネル登録者数が合計で約250万、累計の総再生数は約1億4400万まで伸びている。日本の10代後半から20代前半の主要コンテンツが二次元(テレビ番組表を見てほしい)であることを考えれば、VTuberが、人間のユーチューバーを超える存在になる可能性もある。4月初旬には、GREEが、この市場に100億円の投資を行うと発表して注目された。

※VTuberに関しては、4月26日(木)にPANORAの広田稔氏と「バーチャルYouTuberの導入実践と展望 ?メディア、ビジネス、教育までをも変えるVTuber革命を知り尽くす3時間?」というセミナーを開催させてもらうことになったので、ご興味のある方はぜひご参加ください。

 話を戻して、ナレッジキャピタル大学校の私のコマ「次のネットデジタルのA+Bを考えよう」では、受講者のみなさんに、次の「A+B」について考えてもらいながら、最新のトピックも交えて熱いディスカッションができたら楽しいと思っている(おかげさまで満席なのだが)。VTuberの場合は、VRという技術のための道具をふざけてひっくり返して試しているようなところもあり、ユーチューバーに対峙する萌えキャラという図式ももちろんありますよね。

ナレッジキャピタル大学校

■日時:2018年4月18日(水)2018年4月19日(木)
■会場:グランフロント大阪北館 地下2階
   「ナレッジキャピタル コングレコンベンションセンター」
■参加料金:無料
■主催:一般社団法人ナレッジキャピタル
■公式サイトhttps://kc-i.jp/activity/daigakko/

バーチャルYouTuberの導入実践と展望 〜メディア、ビジネス、教育までをも変えるVTuber革命を知り尽くす3時間〜

■日時:2018年4月26日(木)
■会場:角川第2本社ビル(東京都千代田区富士見2-13-3

■主催:株式会社角川アスキー総合研究所
{太い文字 ■募集人数}:60名(予定)
■参加費:8,000円(税込)
参加登録はコチラから!
==>https://lab-kadokawa49.peatix.com/(Peatixの予約ページに遷移します)。


遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。月刊アスキー編集長などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。著書に『ソーシャルネイティブの時代』、『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著、アスキー新書)、『NHK ITホワイトボックス 世界一やさしいネット力養成講座』(講談社)など。

Twitter:@hortense667
Mastodon:https://mstdn.jp/@hortense667


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