韓国で開催された対戦型コンピューターゲーム「スタークラフト」の人工知能(AI)競技会で、プロゲーマーがAIシステムに圧勝した。しかし、現時点のAIにはゲームに関する訓練用データが少ないという制約があり、今後も人間が優位を保てるかどうかはわからない。
対戦型コンピューターゲーム「スタークラフト」に関しては、人間はまだ人工知能(AI)より優れている。
この事実は、プロのスタークラフトプレーヤーであるソン・ビョンギュが10月31日、4つの異なるボットを打ち負かしたことで明らかとなった。スタークラフトの生試合で、AIシステムが初めてプロと戦った競技会でのことだ。ボットの1つである「CherryPi」は、フェイスブックのAIリサーチ・ラボが開発したもの。そのほかのボットは、オーストラリア、ノルウェー、韓国で開発されたものだった。
競技会は韓国ソウルの世宗(セジョン)大学校で開催された。世宗大学校は2010年以降、スタークラフトAI競技会を年1回開催してきた。これまでのイベントではAIシステムを人間と競わせるのではなくAI同士で競わせており、一部は米国を拠点とする電気電子技術者協会(IEEE)が主催していた。
アルファベット(グーグル)の「アルファ碁」と人間の碁のチャンピオンが対局した2016年3月のトーナメントほど世界的注目を集めなかったものの、最近の世宗の競技会は重要な意味を持つ。というのも、AI研究のコミュニティは、スタークラフトをボットが習得するには特に難しいゲームだとみなしているからだ。昨年のリ・セドルに対するアルファ碁の一方的な勝利と、チェスやアタリのビデオゲームでのAIの偉業に続いて、スタークラフトのようなリアルタイムのゲームでも、ボットが人間を打ち負かせるのかどうかに注目が移ったのだ。
ボットと人間のプレイヤーが盤面を見て、時間を費やして戦略を立てる碁とは異なり、スタークラフトでは、プレイヤーは、制約が多いシミュレーションの世界の中で記憶に基づいて戦略を考案し、同時に今後に備えて計画を立てる必要がある。研究者がスタークラフトはAIの進歩に役立つ有効なツールだと考えているのはそのためだ。
数多くのプロのスタークラフトゲーマーが、ボットとの対戦という挑戦を受けて立つと言っている。今年5月、MITテクノロジーレビューに対し、2人の一流プレイヤーが、依頼があればアルファ碁の対戦のようにテレビ放送で喜んでボットと戦うと語った。アルファベットのAI子会社であるディープマインド(DeepMind)の幹部は、将来的にはスタークラフトの競技会の開催に興味があるとほのめかしている。
アルファベットがそうしたイベントを今開催しても、大した争いにはならないだろう。世宗大学校の競技会で、世界最高のスタークラフトプレイヤーであるソンは、参加した4つのボットすべてを合計27分以内に大差で打ち負かした。試合時間は最長でも10分半、最短はたった4分半だ。ボットは、人間よりもずっと速く動けて、同時に複数のタスクをコントロールできるにもかかわらずだ。ある時点で、ノルウェーで開発されたスタークラフトのボットは、1分につき1万9000のアクションを完遂していた。プロのスタークラフトプレイヤーのほとんどは、1分間に数百以上の動きをすることはできない。
29歳のソンは、ボットは人間とは異なるアプローチでゲームに取り組んでいたと言う。「プロのゲーマーは、自分の軍とユニット制御スキルで勝つ見込みがある場合にだけ戦闘を開始します」と、ソンは競技後、MITテクノロジーレビューのインタビューで語った。対照的に、ボットは大胆な決定はせずに、自分のユニットを温存しておこうとしていた。スタークラフトでは、プレイヤーは、敵の領地を偵察したりパトロールして、戦闘戦略を実行することにより、相手の資源をすべて破壊しなくてはならない。
ソンは、ボットにはいくつか見るべき点があったと言う。「私の攻撃を防御する際に、ボットが自分のユニットを扱う方法は、いくつかの点で驚くべきものでした」。
世宗大学校での競技会を主催した、コンピューター工学科のキム・ギョンジュン教授は、スタークラフトに関する幅広く利用可能な訓練データが不足しているため、ボットにはある程度、制約があると語った。「アルファ碁は、(碁の試合についての) データから学習することで、競争力を高め、進歩しました」とキム教授は指摘する。
しかし、そうした状況はまもなく変わるだろう。ディープマインドとゲーム会社のブリザード(Blizzard Entertainment )が8月に、スタークラフトIIで使える、待望のAI開発ツール一式をリリースしたのだ。スタークラフトIIは、プロプレーヤーの間で最も人気があるバージョンだ。
他の専門家は今や、ボットを適切に訓練しさえすれば、プロのスタークラフトプレーヤーを打ち負かせるだろうと予測している。「AIボットがアルファ碁のような(ハイレベルの)意思決定システムを備えるようになったら、人間はかなわないでしょう」と、韓国科学技術大学のコンピューター科学・工学科の教授であるジョン・ハンミンは言う。