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検索エンジンと設計思想の違うチャットボットはどのようにして生まれたか?

キャラクター作りの試行錯誤を味わった「おしゃべり らいよんチャン」の舞台裏

2017年10月23日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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目的は途中から「2017年版のらいよんチャンを作ろう」になった

 スムースだったシステム開発に引き替え、らいよんチャンらしさを出すためのキャラクター作りは困難を極めた。おしゃべり らいよんチャンをキャラクターとして育てるには、らいよんチャンが「言いそうなこと」「言わないこと」や、炎上を避けるような受け答えを継続的に登録する必要があった。しかし、どんなワードやフレーズを登録すればよいかは当初から手探りだった。

 長らくらいよんチャンのクリエイティブを担当してきた阪上寿満子氏は、「水野さんからは、『らいよんチャンが言いそうなワードを作ってほしい』というオーダーが来たのですが、それって何語くらいって(笑)。50なんかじゃ全然足りへんし、100?1000? とまどいながら、週1の会議に参加したら、cloudpackの方から概要を聞いてなるほどと思いました」とプロジェクトの立ち上げ時期をこう振り返る。

ピースリーピース クリエイティブ プランナー 阪上寿満子氏

 こうして阪上氏はチャットボットに登録すべく、おしゃべり らいよんチャンのキャラクターに似合ったワードやフレーズをスタッフと分担して作っていった。「らいよんチャンは暇があれば『ガオー』って叫んでるし、ボケ倒すとか、絵文字にするとか、いろいろな案を出しました。声優やキャラクターデザイナーも今までの台詞をリストで出してくれて、その中からピックアップしたりしていったら、だんだん『言いそう』「言わなそう』がつかめた感じです」と阪上氏は語る。

 たとえば大阪弁の扱いは、音声とチャットでは大きく印象が異なるという。「らいよんチャンって大阪弁めっちゃ話しているイメージなのですが、実際はイントネーションだけ。『儲かってまっか』とか絶対言わないんです。でも、音声ならすっと入ってくる大阪弁でも、テキストで書くとベタベタな感じになります。なので、ベタベタな大阪弁を話さず、でも大阪のかわいいキャラクターになるよう、語尾とかすごく気をつけています」と阪上氏は語る。

 キーワードに対して適切な回答を戻す検索エンジンやコンシェルジュ型のチャットと、キャラクターを活かしつつ、目的に合わせたレスポンスを戻す今回のチャットボットでは、設計思想が大きく異なっていた。cloudpack側も、同じ質問をしても同じ回答を返さないよう、言葉の優先順位を決め、ランダムに返すなどの工夫をプログラムに埋め込んだ。比企氏は、「コンシェルジュみたいなボットであれば回答の範囲も狭いので、それほど大変でもないんです。その点、今まで好き勝手やってきたらいよんチャンらしい受け答えを作らなければならないので苦労しました(笑)。だから、途中からは『2017年版のらいよんチャンを作りましょう』という話になりましたね」と語る。

「そっけない」のに「なんとなく会話が成立する」絶妙なレベル

 キャラクター作りの模索はサービス開始以降も続いている。水野氏は、おしゃべり らいよんチャンのやりとりを元に、必要なフレーズを書いて、阪上氏に渡す。依頼を受けた阪上氏は、らいよんチャンだったらどう答えるかを考え、表現を調整している。「チャットボットでのやりとりを見て、ボットで答えられなかったことやユーザーの反応がしぶいものを抽出して、阪上さんにチェックしてもらって、kintoneに再度入力しています。あとは番組表見て、オススメ番組を入れるとか、とにかくkintoneを1日中使っている感じです」(水野氏)ということで、すでに1000近いワードを登録している。短いPDCAサイクルを回しつつ、まさに手塩にかけて、キャラクターを作っているわけだ。

 こうして育ててきたおしゃべり らいよんチャンだが、キャラクターの性格上、レスポンスは「そっけない」(阪上氏)ものに仕上がった。ちぐはぐな返答を返すけど、なんとなく会話が成立するかもと思わせる絶妙なレベル。「変な答えが返ってくるんだけど、3回目くらい続けてると、『ちゃんと答えてるやん』って錯覚します」(阪上氏)、「偶然出てくるような言葉でも、並べていくとなんだか会話として成立しているように見えるんですよ」(比企氏)。当事者はおしゃべり らいよんチャンの使用感をこう語る。局の事情や視聴者を理解する水野氏、キャラクターを作る阪上氏、テクノロジーを操るcloudpackチームのタッグが、この絶妙なレベルを実現させている。

 意外なことにおしゃべり らいよんチャンには番組の宣伝はほとんど入れておらず、オススメの番組を聞いたら、それに応える程度。これは直接的な番組宣伝はさせないというキャラクターのポリシーから起因することだ。「開発途中で精度をすごく上げて、頻出キーワードで的確に番組のことを答えられるようにしたら、らいよんチャンじゃなくて、MBS専用の検索エンジンみたいになってしまったんです。じゃあ、らいよんチャンってどんなキャラクターだっけと調べてみたら、コスプレしてキャラクターになりきることはあっても、直接的な番組宣伝をしていなかったんです」と比企氏は振り返る。

アイレット(cloudpack) セクションリーダー 比企宏之氏

今後は音声にもチャレンジ?キャラクターを介した視聴者との対話を加速

 TVでもインターネットでも宣伝をしていないため、現時点(2017年10月)での登録者数は720ユーザー程度にとどまっているが、チャットのやりとり内容はどんどん拡大している。「明らかにボットの中身を調べるための質問を送ってくる人もいますが、キャラクターとして接している人は『晩ご飯食べた?』と気遣ってくれたり、『まだ会議終わらへんねん』とぼやいてくれたりします(笑)」。15年来続く老舗のキャラクターだけに、ユーザー側も接し方を理解しているのかもしれない。

 今後の課題と展開について水野氏は、「検索エンジンのような精度の高さとキャラクターっぽさをどうやって両立させるのは、今後も課題。ユーザー数自体が増え、視聴者との新しいコミュニケーション手段として認知してもらえたらいいなと思います」と語る。

 一方、阪上氏はらいよんチャンが本当におしゃべりするような音声コミュニケーションを妄想する。「『肉球が邪魔でスマホ打たれへん』って、音声で言われたらかわいいと思うかもしれないけど、テキストで書いても別にとか思うじゃないですか(笑)。だから、子供とかも楽しめるように、音声や動画をうまくからめたらいいなと思います」(阪上氏)。これに対して、比企氏は「AmazonのAlexaやLINEのWaveなども出てきたので、らいよんチャンスピーカーとかあって、声で答えてくれるモノできたらいいなと思います」と語る。りんなが切り開いた新しいチャットボットの世界をさらに拡げていくものとして、次の展開も期待できそうだ。

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