10月12日、ゼンハイザージャパンが「IE 800 S」「HD 660 S」などの新製品発表会を都内で開催した。会場では同社マーケティングマネージャーの大澤広輔氏が登壇し「製品がもたらす体験・楽しさ・歓びを含めて、ゼンハイザーの商品」と語り、オーディオ体験に関する新たな取り組みを新製品と同時に披露した。
VRにおける音声表現の可能性
近年賑わいを見せるVRだが、同社ではVR開発の専門メーカー「DVERSE」との共同プロジェクトを発表。今年2月に発売されたVR向け3Dマイク「Ambeo VR Mic」を使い、8K 360度 3D撮影の映像と「Ambisonics」という形式の360度音声を公開した。
「PROJECT OMNIVERSE(プロジェクト・オムニバス)」と名付けられたこの実証実験は、VR空間での立体音響シミュレーションと、ハイエンドな音響システムによる没入感の向上が目的。その第一弾として、京都建仁寺 両足院副住職を務める伊藤東凌氏の協力により、非公開の阿弥陀如来本堂と名勝庭園指定の大書院でVR映像と立体音声の同時収録を実施したという。
普段はビジネス向けソフトウェア「SYMMETRY」の開発をしているDEVERSE、登壇した同社代表の沼倉正吾氏は「VRの課題として、視覚の次に聴覚へ取り組む」と宣言。日常生活にあふれる木々のざわめきや都会の喧騒などを立体的に再現することで、臨場感や没入感を向上させることを目指しているという。
ただしその方針は、「その場の雰囲気をそのまま伝える」という従来的なものにとどまらず、現地の音声と“その場になかった音”をミックスし、エフェクトを加えてさらに没入感を高めるというもの。沼倉氏は「実地収録にインパルスレスポンスと3D CADによる空間シミュレーションを加えて、より没入感を高める」と、プロジェクトの特徴を語った。
これに加えて大澤氏は、3Dオーディオによる表現の可能性を指摘。空間の広さ調整や、意識を向かせたい場所の音声強調、さらにカラスや虫、風の音といった、収録現場には無い音の意図的な追加により、VR映像と立体音声の組み合わせに新たな価値観を導入すると意気込む。原音に忠実なのはもちろん、面白みを増やすために意図を持って制作者が手を加える/改変する。映像/ゲームコンテンツの今後の動きとして、こうした方向性を提案してゆくという。
「今回収録した映像はYouTubeで公開いたしますが、これはただ単に8K 3Dカメラに360度音響を乗せただけのものではありません。製作者の意図をより深く伝えられる音とは? エンタメとして愉しい音とは? より没入感を高める音とは? VRマイクを世に出したメーカーとして、360度+3Dオーディオの可能性を探り、そのあり方を提案・先導していきます」(大澤氏)