さくらインターネットは大阪オフィスを関西の一等地とも言えるグランフロントに移転した。オープンなイベントスペースや壁のない執務室、そしてフロア半分におよぶ空きスペースなどいろいろ突っ込みどころのある新オフィスについて、さくらインターネットの田中邦裕社長に聞いた。(以下、敬称略 インタビュアー アスキー編集部 大谷イビサ)
「オフィス」「社員・組織」「プロダクト」は直結する
大谷:先日、新しい大阪オフィスを見学させていただいたのですが、すごくおしゃれで、働きやすそうでした。イメージ的には秋葉原のDMM.makeみたいな感じ。田中さんの意図みたいなのをすごく感じたので、今回お話しを伺おうと思いました。まずは大阪オフィス移転の背景を教えてください。
田中:さくらも最近は少々マンネリ気味という感じもあるし、売り上げが劇的に伸びるという状態でもありません。でも、「プロダクトは組織の通りにできあがる」という法則があるので、ハコ(オフィス)、組織と社員、サービス・プロダクトは直結しているとつくづく感じています。そういった中、改めてハコを見直してみようというのが根底にあります。
大谷:大阪は今でもさくらインターネットの本社ですよね。
田中:はい。でも、大阪オフィスは長らく停滞していたというのが、私の印象です。さかのぼれば、2007年に債務超過だったさくらインターネットに私が社長として復帰して、効率化を進める過程で大阪本社から東京に本社機能を集約することになりました。
西新宿のオフィスは机もきれいにならんでいるし、90年代後半から作られてきたようなオーソドックスなオフィスです。そして、このオフィスから「さくらのクラウド」や「さくらのVPS」のような新サービスも生まれました。でも、先にお話ししたように、新しいモノ、ワクワクするようなサービスが出てこなくなりました。だから、この数年は効率化への追求をいったんリセットし、オープンでクリエイティビティを高めていく方向に会社をシフトさせています。こうした活動の一環が、今回の大阪オフィス移転のきっかけです。
大谷:いいオフィスで、いいサービスを生み出そうという意図があるのですね。
田中:もう1つ言っておきたいのは、今回の大阪オフィスの具体的な設計について、私はほとんど口を出していないということです。まあ、トップダウンでやるのも社風じゃないしね。だから実際に行くまで、エントランスにバーカウンターがあるのも知りませんでした(笑)。
ただ、「オープン」や「コミュニティ」といったキーワード、われわれのブランドメッセージである「やりたいことをできるに変える」「すべて完成させない」などのフレーズは出しました。
あと「壁を作らない」というのは口酸っぱく言いましたね。会議室が少ないので、執務室にあるプロジェクターの付いたカウンターで打ち合わせするようになっています。こうすると、みんなが打ち合わせに注意を払うんですよね。
年間200回以上のイベントでなにが生まれるかは未知数
大谷:エントランスにあるイベントスペースも広いですね。
田中:イベントは年間で200回くらいやろうとしています。今度、Stripeの小島さんもイベントやりますし、JAWS-UGやSORACOM-UGもうちでやりますね。
大谷:年間200回だと、平日ほぼやってるくらいのレベルですね。
田中:休日は2本やったりしていますね。同じ棟にはcloudpack(アイレット)さんやGMOさん、エックスサーバーさんもいますし、ほかの会社とつながれるのも楽しみです。
大谷:イベントスペースにはどういう狙いがあるんでしょうか?
田中:基本的にはつながりを重視しています。でも、それによってなにが起こるかは実はよくわかってなくて、まずはやってみようと。自分自身はコミュニティでいろいろなモノを得ているので、社員にも行ってほしいのですが、なかなか難しいじゃないですか。だったら、イベントに来てもらおうという狙い(笑)。実際、帰り際に社員もふらっと参加してくれてるみたいです。だから、コンテンツ自体をリターンと考えています。
あとはスタートアップとのつながりですね。起業して、さくらを使ってくれるスタートアップはやはり多いので、インターネットのインフラだけではなく、出会いのインフラも提供したいなと。利害関係もあまりないので、いろいろな方に使ってもらいたいなと。
大谷:オフィスのエントランススペースもiPadがあるだけで、セキュリティも厳しくない。フラッと立ち寄れますね。
田中:コワーキングスペースとして使えますからね。コワーキングって本来は他の人といっしょに仕事できるということなので、そういう目的でも使ってもらっています。
大谷:私も先日イベント見学したあと、仕事させていただきました。たまたまいた鹿児島のスタートアップの方ともお話しできましたし。外も暑かったので、快適すぎて動けないというのが本音でしたが(笑)。
田中:まさしく私たちが想定している用途ですね。今後は管理者を置いて、特定の多数の人に利用してもらえるようにしたいなと。
大谷:サイボウズの日本橋オフィスがまさにそんな感じですね。kintone関連だと地方の方も多いので、エントランススペースが東京での仕事場になっていますね。
田中:そこらへんは(サイボウズの)青野社長の影響を受けてないと言えば嘘になります。その点、昔の中央省庁はけっこうオープンでふらっと話できましたが、この10年くらいはすごくセキュリティが厳しくなってしまいました。でも、新しい大阪オフィスではふらっと集まった人同士で暗黙知を共有できます。