「究極のアナログサウンド」という思想 このブランド、ただものではない!
「あ、この音は“愉しい”」そう心から言えるプレーヤーに久しぶりに出会った。あまたのハイレゾプレーヤーがひしめく今、“良い音”のプレーヤーはあっても“愉しい音”のプレーヤーはなかなかない。
Questyle(クエスタイル)というオーディオブランドをご存知だろうか? 中国の電脳都市、新センに本拠地を構える新興のブランドで、プレーヤーのほかにヘッドフォンアンプを販売している。そのいずれにもブランドの核となる特許技術「カレントモードアンプテクノロジー」が搭載されているが、これは中核的な信号増幅機能に、一般的な電圧増幅ではなく電流増幅を用いたアンプ回路技術だ。フルディスクリートで組まれる回路は特別なパーツを必要とせず、高エネルギー効率で歪が少ないという。
この技術は創業者のJason Wang氏がゼンハイザー「HD 800」の魅力に取りつかれたときに、ヘッドフォンを鳴らし切るアンプがなかったため「それなら自分で作ってしまおう」として開発したものだという。以前お話を聞いた時に語っていたWang氏の音の目標は「究極のアナログサウンド」。音に対する明確な理想を持っているという点が、近年増加している一般的な新興メーカーと違う。確たる技術を持っていて、しかもそれを音作りの柱に据え、それらが一貫しているのだ。
それなりの技術があれば“音”を出す機械はつくれる。しかしそれが“良い音”、ましてや人の心をつかむ“愉しい音”となると、作り手に確たる信念と哲学がなければにじみ出てこないのである。
持てる全てを音に注ぎこむメーカー
新製品「QP2R」はそんなWang氏のこだわりをギュギュッとポケットサイズに凝縮したプレーヤー。その開発姿勢は「あらゆるリソースを音へ」と表現するに相応しい。まず、商品タグに付いた数字は15万9800円。前モデル「QP1R」よりも3万円弱の値上げだが、シャーシやインターフェースは前モデルとほぼ変わらない。
さらにイマドキのガジェットにも関わらず、Wi-FiもBluetoothも付いていない。操作さえディスプレーは非タッチパネル、クリックホイールは回すだけで真ん中以外ボタンとして機能しない。ワンクリック分のボリューム調整といった細かい操作の場合は、物理的なクリック感が伝わる前にソフト的な反応があることも。加えてデュアルmicroSDスロットの1基削減という、前モデルから明白に“退化”した部分さえある。
欠点ばかりを指摘したが、一般的なプレーヤーで注力されるだろうこれらの開発リソースは、すべて音の改善につぎ込まれている。音質向上を常に至上命題とし、開発費もマンパワーもパーツの実装スペースも、あらゆるモノが音をよりよくするために振り分けられるのが、Questyleというブランドの特徴だ。QP2Rでの分かりやすい点を挙げると、DACチップはシーラス・ロジック「CS4398」から旭化成「AK4490」へ変更され、前モデルではDSD 5.6MHz、PCM 192kHz/24bitまでだった対応フォーマットがDSD 11.2MHz、PCM 768kHz/32bitへと進化した。近年増えつつあるハイサンプリング音源をネイティブで再生できるのは歓迎すべきことだ。
それ以上に重要なのは、アップデートの目玉である2.5mm 4極バランス駆動への対応である。正確に言うと、フルバランス駆動のために“アンプ基板が新規に書き起こされた”ことだ。つまり外見はほぼ変わらないが、中身はほぼ別物レベルで更新されているのである。
パッと見のカタチが変わると、目新しさで注目を集めやすい。だがしかし、Questyleというブランドは見かけで人を引きつけるのではなく、その分をすべて音に注力した。日本の代理店S’NEXTもそれをよく理解しており、日本初公開となった「ポタフェス 2017 名古屋」では「とにかく音を聴いてもらうことが重要」として、開発途中の試作機を試聴用に持ち込んでいた。