フェンダーミュージックは4月28日、インイヤー型のイヤーモニター「FXA9」(BA×6基)と「CXA1」(ダイナミック型)を発表した。販売は5月から開始する。ともにNashvilleの自社工場でハンドメイド生産する。価格は14万8000円+税(米国では1299ドル)/1万4800円+税。
主な仕様は、FXA9のインピーダンスが21Ω、再生周波数帯域が12~22kHz、感度が121dB、MMCX対応、ノイズ減衰率は22dB。CXA1はそれぞれ16Ω、14~22KHZ、110dB、ケーブル交換不可、22dBとなる。
会見の冒頭、フェンダーミュージックのエドワード・コール社長が挨拶した。
「フェンダーはギター、ベース、アンプにおいて世界最大のメーカー。71年前からずっと創立者レオ・フェンダーの“すべてのプレーヤーの理想のサウンドを作り続ける”という思想を守り続けてきた。アーチストの頭の中にある理想の音を“TONE”として実現することに取り組んでいる」
TONEはプレーヤーにとって極めて重要な要素だが、創業者のレオ・フェンダーは入り口であるギターだけでなく、出口となるアンプまで開発し、可能性を広げた。これがジミヘンやエリッククラプトンといった世界的なギタリストはもちろん、国内を含め、フェンダーのブランドが支持されている理由だという。
イヤモニに関しては、昨年から市場投入しているが、コール氏自身がレディオヘッドやR. E. M.とツアーを回った際にモニターが重要であることを実感したためだという。多くのアーティストがステージ上でイヤモニを使用しているが、アンプと同様不可欠なツールとして昨年イヤモニを発表した。
新モデルのポイントは、すべてのプレーヤーに理想のサウンドを届けるためのサポートをする点だという。同時に、音楽はライフスタイルと切り離せない。となると音楽を実際に演奏する人だけでなく、いつか引きたい、純粋に愛しているという人も潜在的な需要があるはずだと語った。
そのうえで 一般的なユーザーからアリーナを沸かせるアーティストまで、自分を表現する楽しみを感じてもらいたいとした。
一方、グローバルマーケティングのジム・ニーズニング上級副社長は以下のように語る。
フェンダーのミッションに「すべてのプレーヤーのすべてのステージにフェンダーがある」(accompany every player at every stage)というものがある。コードを覚えたばかりの若者から、世界的なミュージシャンまですべてをサポートしていく。さらに通勤・通学時に音楽を聴く人まで取り込んでいくというのが製品のコンセプトだ。
CXA1は初めてリモコン搭載モデルで、iOSとAndroidの両方に対応する。DXA1、FXA7はプロバージョンだが、CXA1は最初のコンシューマー向けモデルで、カラーやマイク搭載などより音楽を楽しんで聴ける点に自信を持っている。
FXA9はフェンダー初のハイエンドモデルで10万円を超える。内蔵するドライバーは6基すべてがBA型だが、FXシリーズで培ったハイブリッド技術(BA型+ダイナミック型)を利用し、BA型でも迫力ある音質が確保できるという。すべてBA型としたのは、本国のアーティストの意見を強く取り入れたためだという。
製品は米国のNashvilleでハンドメイド生産する。その過程を5分にわたるビデオで示されたが、どれだけの回数、職人の指が製品に触られるかをみてほしいと言われた。
今回ターゲットにするのはプロのアーティストやオーディオファイル(愛好者)だけでなく、高価なブランド物のバッグと調和する洗練したデザインの製品を好むコンシューマーも含まれる。楽器を演奏する人はもちろん、演奏しない人にもフェンダーの理念を伝えていきたいとのことだ。
発表会で具体的な製品は出なかったが、そういう考え方を延長するために、この夏Bluetoothスピーカーの販売も検討しているという。
片側6基のドライバーのうち、実に4つが低域用
開発担当バイスプレジデントのデール・ロッド氏は、もともとカスタムIEMを手掛けるAurisonic社の出身。Aurisonicをフェンダーが買収したことで、開発に加わった。同社がこだわりを持って開発してきたのは、BA型とダイナミック型を組み合わせたハイブリッド型のイヤモニだ。
「FXA9は私にとって難しいものだった。もともとハイブリッド機の開発をしてきたためだ。広い音場、クリーンでパンチのあるバス、そしてサブベースを実現するための工夫があった。取り入れたHEXADという技術は、6個のBA型ドライバーを組み合わせ、設計し、チューニングし、BAでは実現できなかった音を実現するもの。そのポイントが低音で、サブベースという重低音を得るための技術だ。3ウェイで6基あるドライバーのうちベース用に4基を使うが、そのうちの2つがベース、別の2つがサブベースと呼ばれる」
サブベースにはベースとは異なるBAドライバーを利用する。専用のチャンバーに収納されており、ポートで低域をコントロールするそうだ。サブベースの開発のためにハイブリッドの技術を応用した。仮にドライブするアンプがプアなスマホ内蔵アンプでも十分な品質で鳴らせるようになっているという。
最小限にしつつもクロスオーバーを搭載した点も特徴だ。フェンダーのイヤモニでは、これまではクロスオーバーを敢えて利用しない点をポリシーにしてきたが、高域と中域、中域と低域の間に回路を挟んでいる。詳しくは音質に関わるノウハウのため語れないそうだが、カット&トライを繰り返して最適なものを開発したという。
音を作るのではなく、あるべき姿で鳴らす。そのコンセプトの実現を目指したのがFXA9だが、トップクラスのギターと同じように、完全なハンドメイド製品であり、製造が許されるのは、デール・ロッド氏のお墨付きを得た、熟練した職人だけだという。そのため製造数は限られてしまうのだが、品質には自信があるという。ちなみに現在この製品を作れる職人は1名だけだという。
一方、3Dプリンティングを利用した生産の特徴としては、ドライバーの位置やポートやシェルの形状などが理想に近い形で製造できる点だという。位相差や歪みを最小限にできるし、無駄なスペースがない小型のハウジングの実現ができるとした。
ケーブルの制作も難しいが、OFCをコアに3層のシルバーコーティング。芯線はプラスマイナス分離していてノイズに強いとする。端子に関しても、銅に24金を配合(メッキ)したノズルを使うことで腐食を防ぎ、硬くならず音のエネルギーが耳に届くようにした。
デール・ロッド氏は最後に「強調したいのはフェンダーのスタイルで作ったオールBA型のモデルであること」というコメントを残して製品の説明を終えた。