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サービスの成長には広告よりもカスタマージャーニー最適化戦略が必要だ

2016年11月24日 23時00分更新

文●Ehsan Jahandarpour

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行き詰まるサービスの成長に本当に必要なのは? グロースハッカーが教える、カスタマージャーニー最適化について

グロースハックのことになると、訪問者を固定客にするために起業家はありとあらゆる戦略を試します。新規のカスタマー1人1人をセールスページに誘導し、商品を購入、少なくとも試用するように後押ししたいと考え、美しいデザインのWebサイトやトラフィックを増やすための広告に大いに投資します。

どこがいけないのか

2つのシナリオがあります。それはよく分からないまま行動している場合と、いわゆる「危険な綱渡り」に踏み出そうとしているかどうか認識していない場合です。

実のところ、すばらしいユーザーインターフェイスでWebサイトを美しくすれば運営しているサイトやアプリに人々を引きつけられるとしても、収益の増加やカスタマーエクスペリエンスの付加価値を高めるのにはさほど貢献しません。

問題は、成約率を上げカスタマーをより多く獲得する目的でペイドメディア(有料メディア)や広告に投資しようとする起業家がいることです。彼らのデジタルマーケティング戦略はビジネスにとても役立つものかもしれませんが、なによりも、しっかりとした基礎を作り、ユーザーエクスペリエンスを最適化して、ユーザーの再訪を促す必要があるという事実を見逃している人がいるのです。

成長率の改善にもっとも不可欠な要素は、CJO戦略としても知られるCustomer Journey Optimization(カスタマージャーニー最適化)によるユーザーエクスペリエンスの向上です。この記事は、コンバージョン率向上とユーザーエクスペリエンス最適化ができる、CJO戦略のもっとも重要なステップを紹介します。

コンバージョン最適化が重要な理由

オンラインビジネスを成功裏に運営するとは、収益をアップし、ビジネスを拡大し、カスタマーを満足させ、コストを削減できるということです。簡単に聞こえるかもしれませんが、あらゆる細部に落とし穴が潜んでいるので、多くの起業家にとって期待以上の成功を収めるのは大変なことです。

マーケティングや広告に多額の資金を費やし、トラフィックを増やすためにいろいろな戦略を使う目的は、あらゆる訪問者に購入行動を起こさせサービスを購入するように促すことですが、そう思いどおりにはいきません!

現実的に言って、固定客を別にすればWebサイトの訪問者が全員すぐにサービスを試用・購入しようと思っているわけではありません。だから、訪問者を引きつけてサイトに長くとどまらせるようにWebサイトを設計し、訪問者に提供しているサービスについて詳しく知ってもらえるように促す必要があります。成功の秘訣はカスタマーの好みを把握することです。カスタマーのペルソナに注意を払い、カスタマーの関心事を見極め、カスタマーがWebサイトにとどまっている間にエンゲージメントの確立に努めなければなりません。

主な課題は、カスタマーの関心事をどうやって把握するかということです。ここでまさにCRO(Conversion Rate Optimization:コンバージョン率最適化)戦略の出番となります。CROとは、ランディングページの弱点を発見しカスタマーの好みに合わせてチューニングするのに役立つ、一連のデータ主導型グロースハック施策を指します。

CROの実験には4~6週間程度かかります。最終的に訪問者とのエンゲージメントの質が向上しはじめ、訪問者を固定客に変えられるはずです。

Conversion rate optimization

出典:Conversion Rate Optimization(コンバージョン率最適化)

カスタマージャーニー最適化とは

CROがさまざまなカスタマーセグメントに個別のデザイン、背景色、ボタン、フォーム、テキストなどを試してランディングページの最適化に焦点を当てるのに対し、CJOはカスタマーエクスペリエンスの向上に役立ちます。

カスタマージャーニーでは、ユーザーエクスペリエンスが大切な要素となります。調査によるカスタマーの反応の把握から戦略化・コピーライティングまで広範にわたるため、UXの範囲を限定することは不適切でしょう。

WebサイトのUXがより多くの訪問者を潜在顧客に変えるように設計されているかどうかを把握するためのもっとも良い指標は、カスタマーの反応です。これを把握すれば、証明済みの事実に基づき、カスタマーのニーズに合わせてランディングページを設計・再設計でき、不要な設計要素を削除できます。たとえば、無料のトライアルの提供に、カスタマーにあらゆる詳細な個人情報の入力を求める必要はないでしょう。

カスタマージャーニー最適化は、購買行動をして「カスタマー」となるまでにカスタマーセグメントがたどる所定の経路に関連しています。簡単に言えば、さまざまな顧客セグメントに対してさまざまなランディングページ、個別のリードマグネットや特別オファーを用意する必要があるということです。

起業家がする最大の誤りはマーケットセグメンテーションの力を甘く見ることです(『バズっただけで満足しない! 7ステップで書くコンバージョンライティングのコツ』参照)。すべてのトラフィックを同一のトライアルオファーやセールスレター、トップページなどに割り当てるなら、コンバージョン率がひどく低下する危険性が高まります。

種類の異なるランディングページの準備はほんの始まりに過ぎません(『全部書きます!コンバージョンを最大化するランディングページ制作のコツ15連発』参照)。実際、コピーライティングのトーンはカスタマーのニーズにマッチし、カスタマーを夢中にさせて、さらなる行動に駆り立てるものでなければなりません。たとえば10代の男女にアパレル製品を販売する場合、性別に合わせてトラフィックを絞り込めばコンバージョン率の大幅な向上が見込めるでしょう。一方使い方が少し複雑な製品を販売するときは「ビギナーズガイド」「上級者向けガイド」といった個別のブログ投稿を2つ設けて、異なるカスタマーセグメントをそれぞれのページに誘導します。カスタマーの需要に合った方法で、カスタマーセグメントとエンゲージします。

カスタマーエクスペリエンスのベストプラクティス

多くのユーザーエクスペリエンス実験が失敗する主な理由は、UXデザイナーと起業家がカスタマーのペルソナの把握に十分力を入れていないことです。オンラインビジネスの成功の背後にある秘訣は、カスタマーの要望、欲求、必要、関心事、好き嫌いなどを把握することにあります。

オファーの機能面に焦点を当て、機能的な問題点ばかり注意を向けてしまうことがあります。しかし、人はだれでもいくつもの感情を持っているので、感情的欲求の探索に焦点を当て1人1人をいっそうよく知るようにするのは、良いことです。競合相手ではなく自社を選んでもらえる選択肢を提供して、カスタマーが望みのものを得られるようにサポートするだけではなく、カスタマーとより良い関係を築き、カスタマーの心を動かせます。

エンパシーマップ(Empathy Map)は、カスタマーのペルソナを見分ける点ですごい力を発揮する可能性があります。エンパシーマップとは主に新しいビジネスアイデアを生み出すために使われるコラボレーションツールで、広告や顧客開拓活動などに投資する前に使っておくべきもっとも実際的な「訓練」と言えます。

エンパシーマップのテンプレートは、見込み客の態度、疑念、関心、痛み(pain)、欲求についての深い理解をはぐくむ助けとなります。結果としてビジネスに高収益をもたらす適切な「ジャーニー」でカスタマーと関わり合うために力を発揮する鮮明な青写真も描けます。

The empathy map

出典:Innovative Business Model(革新的なビジネスモデル)

カスタマーセグメントを定義し、ペルソナに基づいてカスタマーを分類したなら、次は顧客獲得戦略に焦点を当てられます。そうすれば、すばやくユーザーが問題だと思っている点(pain point)に注意を向け見つけ出せます。

コンバージョン率の向上を目的に、新たにCRO実験を始める前に次の質問を検討する必要があります。

  1. 無料サービスを利用してきたカスタマーに対するROI(投資対効果)はどうなっているか
  2. オプトアウト率はどうなっているか
  3. オプトアウトまで、カスタマーはどれほどの期間とどまっているか
  4. eメールマーケティングキャンペーン送信後の登録解除率はどうなっているか
  5. フリーユーザーとどのくらいの頻度で積極的に関わっているか

上の質問に対する答えが将来有望でなければ、分析に立ち戻って別の成長戦略を練る必要があります。マーケティングの成功とは芸術と科学のコンビネーションであることを忘れないでください。これら2つの要素のどちらが欠けても、ビジネスにトラブルを招きかねません。

とはいえ、最善の解決策は有料カスタマーセグメントの調査です。分析データを使って既存の有料カスタマーを抽出し、商品をどれくらいの期間にわたって使っているか把握します。収入源が定額料金制か利用回数料金制のどちらかの場合、顧客生涯価値(LTV)を分析できます。簡単に言うと、登録解除や競合商品への乗り換えの前に、1人のカスタマーが自社商品にどれほどの期間支払いをするかを調べるということです。

継続課金制をとっておらず、ビジネスにおいて一回限りの取引による収入が大半となっているなら、カスタマーの購入履歴を調査して購入回数に注目して、購入の間隔を確実に拾い出します。口コミやソーシャルシグナルはビジネスの成長に大きな役割を果たすため、既存のカスタマーのコメントを参照して購買行動をとった新規カスタマーの割合に注目することが必要です。

なんでも「バンドル」してはならない

ビジネスオーナーとして、商品提供にかかるコストを計算に入れる必要があることは明らかです。実際、多くの場合、それほど人気のない商品とベストセラー商品をセットにした販売、バンドル販売は興味をそそるアイデアですが、バンドル販売はユーザーエクスペリエンス向上の良い方策とならない場合もあります。

カスタマー視点で物事を観察する能力が必要です。カスタマーはサイトの運営やメンテナンスにかかる費用、いわゆる固定費のことなど考えていません。実のところ「このWebサイトでのオファーから得られるもののために、お金や時間をかける価値があるだろうか?」ということが、買い手側の関心事のすべてなのです。

提供されている主力商品は使いたいが組み合わされている商品を使うつもりがない、というカスタマーセグメントにバンドル商品を提供すると、コンバージョン率、ひいては収益がひどく落ち込むおそれがあります。商品と価格設定モデルは確実に適切なカスタマーセグメントに合うようにしてください。適切な商品の販売を促進するなら、アップセルやクロスセルのプロセスがスムーズになります。

カスタマーとの継続的なエンゲージメント

話はこれで終わりではありません。運営しているビジネスにもっとも強い愛着を持つカスタマーでさえ、どうすれば商品からもっと多くのメリットを得られるか知りたいと強く願っていることでしょう。「カスタマーや見込み客とエンゲージし、インフルエンサー・マーケティングを通じてブランド力を高めれば一石二鳥の効果が得られる」というのは耳寄りな情報です。

コンテンツマーケティングとeメールマーケティングという2つのテーマについて多くの人が執筆しているのに、カスタマーエクスペリエンスが向上するとても重要なテクニックについて言及しないのは間違いなく不公平だと考えます。運営しているのがSaaS企業か、インテリアデザインや家具販売関連のビジネスかということにはまったく関わりなく、改善し、生産の限界を押し広げる余地はいつもあります。

訪問者が直面しているもっとも難しい問題について把握しているなら、データを活用したステップ・バイ・ステップ ガイドやビギナーズガイド、ハウツー記事などをうまく作成し、カスタマーが無料で問題を解決できるようにサポートします。

競合との差別化を図れるだけでなく、カスタマーに自社のビジネスとの一体感を抱かせることも可能です。

説明してきたようなデータをこれまで収集していないのなら、簡単な調査をして、結果を購読者やカスタマーと共有することからいますぐ始めます。一番の早道は、カスタマー、訪問者、潜在顧客に率直なフィードバックと引き換えに無料サンプルを提供していることを知らせることです。お互いにメリットが得られ、スピーディーにデータベースを構築して調整の必要な点を把握できます。適切な参考情報が集まったら、すぐにエンゲージメント戦略を計画できます。

なによりもビジネスを長続きさせ競合に勝つためには、「カスタマーこそもっとも貴重な宝」という点を理解していなければなりません。確かな事実に基づくカスタマージャーニーエクスペリエンスを設計すればカスタマーは満足し、より多くの潜在顧客や紹介客を動かしてくれること請け合いです。

(原文:How to Improve User Experience with Customer Journey Optimization

[翻訳:新岡祐佳子/編集:Livit

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