VRおじさんの「週刊VRかわら版」 第32回
「anywhereVR」や「Mikulus」をピックアップ
未来は「ながらVR」が当たり前? リアルよりバーチャルの世界が快適になる可能性
2016年11月20日 10時00分更新
VR業界の動向に日本一詳しいと自負するエヴァンジェリスト「VRおじさん」が、今週のVR界の出来事をお知らせします!
どもども。VRおじさんことPANORAの広田です。秋といえばお出かけの季節。今週はJapan VR Summit 2が開催されてVRに関する知見がシェアされたり、InterBEE2016にて各社が360度カメラを出展したりと、VR系でもイベントものが盛り上がっていました。
コンテンツに目を向けると、HTC Vive向けにGoogle Earthがリリースされたのが大きなトピックでした。そうしたニュースとは全然関係ないですが、今週はまた新しいVRの使われ方である「ながらVR」について語っていければと思います。
遊ぶまでのハードルが高いVR
Oculus RiftやHTC Vive、PlayStation VRといったハイエンドよりのVRヘッドマウントディスプレーをかぶったことがある方なら、その体験のスゴさを体で理解しているはずです。
いきなり余談で恐縮ですが、筆者もよくイベントでVRコンテンツを展示していまして、初めてVRを体験する人で驚きすぎて極端に語彙力が落ちてしまうという光景をよく見かけています。「すごい」や「こわい」を連発するように、体験中やその直後には感情をストレートに表した言葉しか出てきません。ある意味、人をバカにする装置というのが面白いですね。
そうした気持ちを大きく震わせるVRですが、一方でかぶっている間はほかのことが何もできないという弱点もあります。
業務用途ならまだしも、娯楽という観点でライバルと比べるとVRは若干不利です。例えば音楽なら何かをやりながら聴くことで、ちょっといい気分になることができます。ネット閲覧やゲーム、テレビ視聴、読書などは、気楽に初めて、何かあったらすぐにやめることが可能です。
そこからハードルが高くなるのが、どこかにいく必要があるという出先のエンターテインメントで、カラオケやゲームセンター、ネットカフェといったまだ気軽なものから、コンサートやスポーツ、映画、演劇などの鑑賞といった「今日はこれを楽しむぞ」と時間を占有してしまうものまで様々です。
VRがどこに当たるかといえば、VRヘッドマウントディスプレーをかぶることが必要なうえ、さらにコンテンツを体験しているときにほかのことが何もできないので、出先でのエンターテインメント並みにハードルが高そうです。
わざわざ「VRをやるぞ」と時間を割くというのは、VRが大好きな人にとっても「今は仕事が……」と難しい一面もあります。だからVRはアミューズメント施設やネットカフェとの相性がいいわけですね。
バーチャルがリアルの世界より楽しく快適に
コンテンツを作る側もそんなことは承知の上で、わざわざ時間をつくってでも遊びたいほど進化させる方向とは別に、日常にVRを溶け込ませるための仕掛けも用意しています。要はHMDを外さないまま、あちらの世界でVRをしながら何かができるようにしてしまえばいいわけです。
PlayStation VRでいえば、2016年冬にリリース予定のソニー・ミュージックエンターテインメントの「anywhereVR」が該当します。手持ちのAndroidスマホに専用アプリをインストール。PS VRをかぶって花畑や星空といったリラックスできる空間にダイブした上で、スマートフォンでTwitterやミニゲームを楽しめます。
この連載でも以前取り上げた、Oculus Riftで初音ミクに会えると最近話題のアプリ「Mikulus」も、「ながら」の方向で進化しています。バーチャルデスクトップ機能を実装し、VR空間にリアル世界にあるディスプレーを表示させて、隣に初音ミクにいてもらいながら、ウェブブラウズしたり、ゲームに興じたりできます。
ヘッドマウントディスプレーをかぶってあちらの世界にずっと居続けるというと、ディストピアなイメージに引いてしまう人もいるかもしれません。しかし、冷静に考えてみれば、テレビやパソコン、スマートフォンといった平面ディスプレーを見ているときであっても、コンテンツに集中して「心ここにあらず」というのはよくある話です。VRヘッドマウントディスプレーは、その平面が360度に広がって、より没入しやすくなっただけという見方もできます。
実はこの「ながらVR」は、どちらかといえばAR的な使い方です。マイクロソフトのMRヘッドマウントディスプレー「HoloLens」において、便利だといわれているのが、部屋の特定の場所に特定のオブジェクトをおいておけるという話です。
HoloLensはスキャンした部屋の構造を記憶しておき、例えば、リビングの壁にYouTubeのウィンドウをおいて大画面で動画をさせたり、トイレの壁にカレンダーを貼っておいて、トイレに来ると常に表示しているといった利用スタイルを実現してくれます。
より空間デザインが自由なVRなら、ソファーや机の前などを起点に、それこそフィギュアやガジェットなどのお気に入りのアイテムを自分の周囲に並べておいたり、仕事に使う情報や道具をおいてすぐに取り出せるようにするといった使い方が実現できそうです。
現状では、VRヘッドマウントディスプレーをかぶるとスマホやキーボード、マウスといった機器が見えなくなる問題があります。コーヒーカップやビアマグも含めて、位置トラッキングできる周辺機器が増えてくれば、もっと快適に「ながらVR」を楽しめるようになるでしょう。また、レアケースですが、長時間かぶっている間に天災に見舞われたり、部屋に誰かが侵入してしまったりといった危機的な状況が起こることも考えられます。筆者もVR体験中に電話を取り逃がしたことがありますが、そうした外界の状況を知らせる仕組みは必要そうです。
しかし、危険を承知で「歩きスマホ」してしまうように、「ながらVR」のジャンルがブラッシュアップされてその魅力が十分に伝わっていけば、かぶったままのほうが楽しい──といった方々も増えてくるでしょう。案外、数十年後の世界では自宅に帰ったら、寝るまでヘッドマウントディスプレーをかぶっているというライフスタイルが当たり前かもしれませんね。
広田 稔(VRおじさん)
フリーライター、VRエヴァンジェリスト。パーソナルVRのほか、アップル、niconico、初音ミクなどが専門分野。VRにハマりすぎて360度カメラを使ったVRジャーナリズムを志し、2013年に日本にVRを広めるために専門ウェブメディア「PANORA」を設立。「VRまつり」や「Tokyo VR Meetup」(Tokyo VR Startupsとの共催)などのVR系イベントも手がけている。
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