最近始めたばかりのInstagramは、手作りの衣装を着た「よなよなエール缶人間」が各地を周った写真を投稿している。
もともと『よなよなエール』のファンも、Instagramのユーザーも女性比率が高い。Instagramを始めたのは女性社員だ。「ファンはもう『よなよなエール』をただのビールとは見ていません。機能的には飲み物ですが、一緒に楽しむ友達や仲間みたいな感じになっている」と井手氏は話す。前回紹介した、「どんぐりがえし」裏ページの擬人化が、今でも脈々と息づいているかのようだ。
「ヤッホーブルーイングはビール製造サービス業です。単にビールという飲み物だけではなく、ビールを通してお客さまにエンターテインメントを届けている、そこに魅力的に感じてもらえているんだと思います」(井手氏)
徹底的にターゲットを絞り込んで差別化するのが、生き残る鍵
ヤッホーブルーイングのコアターゲットは、知的好奇心が高く、新しいものが好きな人、他の人と違うものを好む“知的な変わり者”だ。その層にピンポイントで刺さる施策を重ねることで、ファンの数を増やし、親密度を高めてきた。“知的な変わり者”を狙った活動を続けているうちに、コアターゲットとは違う若者や女性の支持も得られるようになってきた。
しかし、ここで安易にターゲットを広げてはいけないと井手氏は強調する。
「コアターゲットを狙ったコンテンツに惹かれて、他の人たちもファンになってくれるようになります。万人受けを狙ったら絶対にダメ。みんな勇気がなくて、レンジを広く取ろうとして、差別化できなくなるんです」
大手ビール会社の新製品は、年間50〜60種類発売される。しかし、コンビニエンスストアで3カ月以上残る商品はほとんどない。商品寿命が短いなかで発売から18年経つ『よなよなエール』がコンビニエンスストアで置かれるのは、異例中の異例だ。「それは、マスを狙っていないからなんですよ」と井手氏は戦略の正しさを確信している。
創業時に比べれば『よなよなエール』は世間に知られてきてはいるが、いまだに認知度は高いとはいえない。認知度を高めることを2020年の目標にして、全国ドームツアーの開催を宣言している。
「誰も成し遂げていないような世界観を作りたい。全国縦断ドームツアーをやりたいなんて宣言するのは、一般企業ではヤッホーブルーイングが初めてのはず。店頭やインターネットで『よなよなエール』を普及していきながら、リアルなイベントを通してファンにたくさん楽しんでもらいたいんです」(井手氏)
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井手社長がユニークなのは、お客さまとの心理的な距離がとても近いことだ。インターネットだからといって、顔の見えないアノニマスな存在だとは考えていない。競合サイトとの差別化なんて、今さら難しいとあきらめるのではなく、特定のお客さまの顔を思い浮かべることから始めてはどうだろうか。