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編集者の眼第65回

バズフィードの居場所は日本にあるのか?

2016年01月21日 18時03分更新

文●中野克平/Web Professional編集部

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1月19日にオープンした分散型メディア「BuzzFeed Japan」の記者会見が1月20日にあったので行ってきました。12時30分開場、13時開始なのに、12時57分まで100人以上いる記者と関係者の目の前で会見のリハーサルをしており、報道陣向けにWeb 2.0風の「永遠にベータ版」を演出しているのか、単に準備不足で間に合わなかったのか、よく分からない印象で始まった発表会でした。

開始直前までリハーサルをするスタッフ

BuzzFeedは、昨年8月に日本法人設立が、10月に元朝日新聞記者・古田大輔氏の創刊編集長就任が発表されました。大型メディアの日本上陸は、サイトオープン前から注目を集めており、会場には(私の目視で)ほぼ満席の約90名の記者が訪れていました。Facebookでバズらせることをビジネスにするメディアの日本上陸に、ビジネスモデルの転換にもがく従来型メディア自身が強い関心を持った側面もあるでしょう。

では、日本版の記事はバズったでしょうか。Facebookでどれだけ話題になっているかをPTAT(People Talking About This)機能で調べてみました(1月21日16時ころ計測)。

※BuzzFeedの方針により、ユーザーや閲覧時間によって見出しが異なります

はっきり言えば、あまりバズっていません。TechCrunch Japanが19日に公開した「分散型メディアの黒船がやってきた、「BuzzFeed Japan」が正式ローンチ」のPTAT値は76ですので、バズらせる力はBuzzFeedと同等です。Webメディア関係者に話を聞くと、どうすればバズるのか、すごいノウハウがあると思っていたのに肩すかし食らった印象でした。

どうしてこうなったのでしょうか? ヒントは2つの記事にあります。まず、BuzzFeed本体のURLではPTAT値が58の『「手術まで受けたのになぜ男扱い?」性別適合手術受けた女性は訴える』は、配信先のYahoo! JAPANのURLではPTAT値が93あり、それなりにバズっています。また、「BuzzFeed編集・倫理ガイドライン」のPTAT値が記事並みに75あります。つまり、オープン3日目の段階では、多くのユーザーに記事を届けて、語らせる力としては、当然Yahoo! JAPANが大きく、BuzzFeedそのものに関心があるのは、編集・倫理ガイドラインを読んでコメントを書くような、メディア関係者だけに見えるのです。

会見で古田氏は、本社のあるニューヨークでオーストラリアなど、各国坂の編集長とともに研修を受けたと述べており、移籍から4カ月間を、必ずしも日本サイトの準備に専念できなかったのかもしれません。たとえば、動画マーケティングのアンルーリーは、日本進出に先立って、日本人がシェアする確率は世界平均よりもずっと低いこと、日本人がシェアする動機は欧米とは異なることを見いだし、日本市場向けには日本人の特性にあった動画を制作しなければならないことを理解していました。ニューヨークで世界最先端のメディア企業の風に当てられ、日本向けに見出しや記事の作り方をローカライズする時間がなかったのでしょう。

BuzzFeedは日本に居場所があるでしょうか。記者会見ではハフィントン・ポストを競合として意識しているかが質問されていましたが、本当に競合しているのはNAVER まとめと2ちゃんねる系まとめサイトを運営するネイバージャパン/ライブドア(ともに現在はLINEの事業)でしょう。会見でBuzzFeed米国版のベン・スミス編集長が述べた「真面目なネタからバカな話まで取りあげる」というコンテンツの守備範囲は、政治からネコ画像まで扱うまとめサイトと驚くほど重なります。独自取材のあるなしで言えば競合はハフィントン・ポストに見えて、本当に奪いにいくべきは、まとめサイトのユーザーではないでしょうか。ユーザーにとって、取材なのかまとめなのかは関係ありません。福島第1原発を初日に取りあげてジャーナリズム精神を見せるより、もっと目線を下げて、通勤通学時のちょっとした息抜き用途に徹し、日本人向けの「バズらせのロジック」を用意してからスタートすべきです。

会見終了後の撮影時間の前にも入念なリハーサルがあった

とにかく準備不足な様子のBuzzFeed Japan。日本語サイトのランキングに英語記事が表示されるなど、改善の余地は大きそうです。資産はあっても展望を描けない日本の従来型メディアは、ネット時代のロールモデルをBuzzFeed Japanに期待しているのです。

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