日本マイクロソフト(日本MS)、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所(YRP UNL)および札幌市は、今年(2016年)1~2月に札幌市内で開催される「さっぽろ雪まつり」「FISジャンプワールドカップ2016」の来場者に対し、観光オープンデータを活用したモバイルアプリサービスの実証実験を行う。スポーツイベントに関連したオープンデータ活用の実証実験は、全国でも初めてだという。
観光地やスポーツイベント会場などで多言語の情報発信を実施
同実証実験は、国内/訪日観光客向けに「ココシルさっぽろ」アプリを開発し、現在地に対応した施設案内や観光名所の解説文、交通機関の利用方法といったさまざまな観光客向け情報を、機械翻訳で多言語(日本語/英語/韓国語/中国語 簡体字/中国語 繁体字/タイ語)翻訳して提供するというもの。
たとえばさっぽろ雪まつり会場では、同イベントの歴史や意義、各雪像の説明といった情報を、ユーザーの現在位置に合わせてプッシュ配信する。またFISジャンプワールドカップでは、出場選手の情報を滑走順に提供するほか、会場となる大倉山ジャンプ競技場の施設案内、札幌ウィンタースポーツミュージアムの展示案内、観光バスの待ち合わせ情報(集合時間や場所)などを、アプリを通じて提供する予定。
そのほか、市内の観光看板に近づいた観光客のスマートフォンに、観光地の地図や解説文などを多言語でプッシュ表示し、観光客自身で検索することなく観光地の情報を取得できるサービスも提供する。
「30秒に1回、電車やバスの位置が更新される。時間と位置を連動させたリアルタイム情報を提供し、観光バスの集合時間が近いことなども告知できる」(YRP UNLの坂村健所長)
アプリの開発においては、高精度位置情報サービスの基盤としてYRP UNLの「ココシル」が、オープンデータの流通基盤として「Microsoft Azure」が、自動翻訳サービスとして「Microsoft Translator」が、それぞれ利用される。日本マイクロソフトとYRP UNLは、オープンデータやIoTの分野で2014年から提携している(関連記事)。
また、高精度な位置情報を取得可能にするために、ucodeを発信するビーコンを屋内や地下街に設置していく。このビーコンはBLE(Bluetooth Low Energy)規格の無線通信を利用したもので、スマートフォンを持った人が10メートル範囲に近づけば、その場所の案内などを自動的に発信する仕組み。現在、札幌駅地下街に11個、さっぽろ雪まつり会場(大通公園)に11個のビーコンを設置している。
観光/交通/スポーツ団体が参加する「札幌オープンデータ協議会」を設立
「インバウンド観光客の受け入れ環境整備に関する社会的課題を、オープンデータを活用した情報通信サービスにより、解決するモデルケースを構築する」(プレスリリースより)
今回の実証実験は、総務省の平成27年度オープンデータ・ビッグデータ利活用推進事業のひとつである「オープンデータシティの構築に向けた実証に係る請負」を、日本マイクロソフトとYRP UNLが受託して実施するもの。2020年の東京オリンピック/パラリンピック、2017年の冬季アジア札幌大会、2019年に開催されるラグビーワールドカップなどの国際的スポーツ競技大会の開催を念頭に置きつつ、最先端ICT活用による「おもてなし」を、日本を訪れる人たちに発信することを目指す。
また日本マイクロソフトとYRP UNLは、同日付で「札幌オープンデータ協議会」を設立。札幌市をはじめとして、観光、スポーツ、公共交通関連など札幌市内の16の協力団体を含む22団体が参加し、札幌にまつわるオープンデータの収集と活用基盤整備に取り組む。
同協議会では、アプリコンテスト、アイディアソン、ハッカソンなどを通じて、アプリの開発を促進するとともに、民間でのデータ活用やサービス創出も支援していく計画。なお、同協議会の会長には東京大学大学院情報学環の越塚登教授が就任する。
「札幌でうまくいかなかったら、東京五輪でうまくいくはずがない」坂村氏
日本マイクロソフトの樋口泰行会長は、今回の実証実験の狙いについて「外国人観光客の増加に対して、通訳の人たちの絶対量が足りないという問題もあり、ICTを活用したおもてなしが必要。先進的な技術をインフラに取り入れていくことを示すという意味もある」と語った。加えて、オープンデータ活用については次のように述べている。
「観光情報やスポーツイベント情報といったオープンデータの収集、加工とともに、利用環境を整備するだけでなく、それを活用するための事業を促進するイベントを開催する。そこにポイントがある。アイディアソン、ハッカソンを通じたアプリ開発、さらに開発されたアプリに対する評価というフィードバックも行うことになる」(樋口氏)
総務省北海道総合通信局・安井哲也局長は、「2020年の東京オリンピック/パラリンピックに向けて、最先端のICTを活用することで、おもてなしをテーマにした取り組みを行う今回の実証実験は、時機を捉えたものである。各自治体のオープンデータ活用のモデルケースになるように期待している」と語った。なお、今回の札幌市での実証実験には約4000万円の予算がついているという。
札幌市・秋元克広市長は、「札幌市には外国人観光客が多数訪れており、今年は過去最高だった昨年の141万6000人を上回るペース。そうした人たちに、札幌の魅力をもっと楽しんでもらいたいと考えている」と述べ、札幌市の各団体や民間事業者の協力を得て“オール札幌”で提供するオープンデータを活用し、札幌観光をより楽しめる新サービスを提供したいと語った。
YRP UNLの坂村健所長は、「こうした実証実験を行うためにはある程度の都市の規模が必要であり、札幌はやりやすい環境にある。札幌でうまくいかなかったら、東京オリンピックでうまくいくはずがない」と語った。さらに、オープンデータの活用促進については、次のように述べている。
「今回の実証実験では、第1ステップは開発者に対してオープンデータを活用することを知ってもらいたいと考えており、第2ステップとして一般ユーザーへの活用をやっていく。APIを提供することで開発者がアプリを開発しやすい環境をつくることが大切である」(坂村氏)
なお、今回提供するサービスを告知するために、観光案内所、ホテル・旅館、観光バスなどで、実証実験のパンフレットを配布するほか、雪まつりのパンフレットを通じても告知する予定だ。