日立製作所は、2016年1月から、「Transformation支援サービス」の提供を開始する。日立グループで取り組んでいる構造改革プロジェクト「Hitachi Smart Transformation Project」で培ったノウハウを活用。売上高1000億円以上の国内製造業を対象に、プロジェクト体制や改革の進め方に関する上流コンサルティングから、コスト分析手法、改革施策、SCMソリューション、グローバル調達ロジスティクスサービス、グローバル会計など、バリューチェーンに関する各種ソリューションサービスやプロジェクトマネジメントサービスを提供。グローバルにビジネスを展開する日本の企業の抜本的構造改革を支援する。
日立自身の構造改革プロジェクトをノウハウとともに外販
Hitachi Smart Transformation Projectは、社内では通称「スマトラ」と呼ばれ、2011年度から2015年度までの累計コスト削減額4200億円を目指す構造改革プロジェクト。サプライチェーンにおける引き合いから受注、製造、サービスまでのエンドツーエンドでの業務プロセスの見直しなどを通じて、コスト競争力を高めるとともに、キャッシュ創出を強化。2014年度までの累計で、間接コストで1500億円、生産コストと直接材コストで1700億円の合計3200億円のコスト削減実績を持つ。2015年度には、さらに1000億円のコスト削減を達成する見通しであり、さらなる上積み成果を目指している。
「日立製作所は、リーマンショック後、製造業として過去最大赤字を計上し、まずは止血からの取り組みを開始し、その後2桁の営業利益率確保に向けて歩んでいる段階にある。従来は、積み上げによる改善を図ってきたが、スマトラでは、現状をベースに改善するのではなく、あるべき目標を定めて、それを達成するための施策を推進。部門、個社単位ではなく、グループ全体の最適化を目指し、業務の背景やプロセスをゼロベースで考え、根本的に変えることに取り組んできた。その成果が表れている」(日立製作所 Smart Transformation Project強化本部プロジェクト・マネジメント推進室・村山昌史室長)。
6つのプロセスを見直し、海外企業のポジションに近づける
日立グループには、量産や中量産、プロジェクト型、受注設計といった事業ごとに異なる体制を持つほか、最終製品だけでなく、素材や部品までの幅広い事業タイプを持つ。今回のサービスでは、これらの幅広い分野での改革ノウハウや、日立製作所および日立コンサルティングが持つ社内外を含めた豊富なコンサルティング経験による分析力およびプロジェクト推進力、スマトラで構築した各種ソリューションサービスの利用が可能だという。
日立製作所 社会イノベーション事業推進本部ソリューション・ビジネス推進本部インダストリープロジェクト本部・権守直彦本部長は、「スマトラでは、標準化、集約化、IT化、外部化、リードタイム短縮化、機能強化という6つの視点でのプロセスを見直し、グローバル視点でのプロセスの確立、標準業務の高効率化とアウトソーシング活用、高付加価値業務の高度化という3つのプロセス視点での改革推進を行なっている。日本の企業は、営業利益率やキャッシュフローマージンという点では、まだ海外企業のポジションには追いついていない。今回のTransformation支援サービスにより、海外企業のポジションに近づくことを支援したい。各種テンプレートやアプローチ方法を採用することで、短期間での改革実行を可能とするほか、日立グループが持つスケールメリットを享受したり、成功や失敗の経験をもとに確実性の高い改革を進めることができる」と語る。
効果実証済みの施策をテンプレートで提供
全体計画フェーズでは、企業の改革ポテンシャルを試算し、本格検討への意思決定を支援する「簡易アセスメントサービス」、スマトラの事例やテンプレートをリファレンスとして活用しながら、プロジェクトの目標や課題設定、全体構想設定を支援する「全体改革計画策定支援コンサルティングサービス」を提供する。
「全体改革計画策定支援コンサルティングサービスでは、スマトラでの80を超える効果実証済み施策を、テンプレートなどを通じて提供する。スコープ設定や他社ベンチマークなどを踏まえた目標設定を行い、これをもとに、KPIに落として目標設定へのシナリオを策定。さらに実現する目標と現状とのギャップを、組織、人、業務プロセスから分析。これをもとに投資概算を見積もり、全体計画を策定することになる。これまでは外部には提供できなかった日立グループのノウハウを、共創という観点から提供していく」(日立コンサルティング・久保年弘取締役)という。
改革構想具体化フェーズでは、SCMおよびロジスティクス改革、調達改革、生産改革などの個別テーマごとに改革構想具体化支援を行なう「個別テーマ改革構想支援サービス」を提供。さらに、改革実行フェーズにおいては、各種ソリューションサービスを提供。ここでは、IoT技術とクラウドを活用して、バリューチェーン全体の最適化を図る「Hitachi Total Supply Chain Management Solution/IoT」、スマトラで構築した基盤をベースとして上流コンサルティングからITサービス、調達代行、物流アウトソーシングまでをワンストップで提供する「グローバル調達ロジスティクスサービス」、グローバルに拠点を有する企業を対象に、会計システムの構築から複数拠点への導入支援、運用・保守までをワンストップで提供する「グローバル会計ソリューション」を提供する。
さらに、プロジェクトマネジメント支援サービスを提供。多種多様なステークホルダーの管理など、改革におけるプロジェクトの円滑推進支援を行なう。
経営トップの意思で実現した改革を日本の製造業に
価格は個別見積もりになるが、コンサルティング部分が数百万~数千万単位で、ITサービスやオペレーションのアウトソーシングなどについては、数千~数億円の単位になるという。2020年度には、同サービスで年間300億円規模の売上高を目指す。
今回のTransformation支援サービスは、日立と同じ製造業に対してノウハウを提供することになるが、スマトラは、日立ならではの経営トップの強い意思によって実現した改革であったのも事実。日本企業が、この成功ノウハウをうまく生かすことができるかという点も注目される。