あっというまに最重要人物に
グーグルのためになら、なんでもする覚悟がマリッサ・メイヤーにはあった。しかし、二〇〇一年初頭、シンディ・マキャフリーの頼みには応える気になれなかった。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙のテクノロジーコラムニストとして知られるウォルト・モスバーグが、グーグル本社にやってくる。グーグルマーケティング部長のマキャフリーは、モスバーグの前に座って、会社について話す人物を必要としていた。
マリッサ・メイヤーほど、この役にうってつけの人物はいない。
一九九九年に入社して以来、メイヤーは一目散に出世の階段を駆け上り、あっというまに社内で最も重要な人物の一人になった。UIミーティングを率いるのは彼女だ。あらゆるプロダクトが、彼女の審査を通過しなければならない。ラリー・ペイジのプロダクト会議を支配しているのも彼女だ。加えてメイヤーは「リリースカレンダー」という新しいプロセスも導入した。毎週、メイヤーが社内の各部署(マーケティング、法務、エンジニアリング、広報など)から代表者を集め、その週に提供開始をする(リリースする)予定になっているプロダクトを確認する。全員が青信号を出さない限り、プロダクトの提供は開始されない。しかし、メイヤーの前で製品のリリースを遅らせたいと意見するには、確固たる理由を説明しなければならない。プロダクトをリリース予定の週までに完成させられなかった者たちへの圧力はものすごいものがあった。
ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンを除けば、メイヤーほどグーグル製品のロードマップをよく理解している者はいない。マキャフリーはそう信じて疑わなかった。
だから、マキャフリーはウォルト・モスバーグとの会談に応じるよう、メイヤーに頼んだ。メイヤーは断った。その日は予定が立て込んでいる、が理由だ。複数の会議が続く。ごめん、ほかの人を探して。
その日忙しいというのは本当だ。しかし申し出を断ったもう一つの理由は、やはり彼女の内気さにある。彼女にとって、それは初めてのメディアインタビューだった。
マキャフリーは粘った。もしやってくれるなら、パロアルトにあるスパリゾート「ウォーターコース・ウェイ」の招待券をあげるわ。
メイヤーは納得した。モスバーグの相手をすると約束した。
当日、二人はメイヤーのオフィスで会談した。メイヤーはモスバーグを圧倒した。数字やエピソードや議論の数々が、彼女の口から洪水のように、ものすごいスピードであふれ出てきた。ときおり、「フフフ」が入る。驚くほど雄弁で、思慮深く、自分の仕事と会社に誇りをもった女性。モスバーグはメイヤーをそう評価した。
マキャフリーが知る限り、このインタビューは大成功だった。