クラウド専業のインテグレーターとしてエンタープライズを中心に高い実績を持つcloudpack(運営:アイレット)。その強さは、新しい技術に果敢にチャレンジする社風とそれを支えるスキルに長けたエンジニアにある。アイレット執行役員の後藤和貴氏にcloudpackへの参画に至るまでの経緯と、同社の強みについて聞いた。
AWSと出会い、cloudpackが生まれるまで
「cloudpack」というブランド名でクラウド構築・運用を手がけるアイレット。cloudpackのビジネスを牽引する後藤和貴氏は、Amazon Web Servicesの日本進出前からクラウドに注目し、エバンジェリストとしてクラウドの真価を語り続けてきた。
もともと後藤氏は日本オラクルの出身。米国から帰国後、当時SIPSと呼ばれていたようなWeb制作会社に転職し、プロジェクトマネージャや営業、グループ会社のCTOを経て、2008年にフリーランスになる。「WebのCMSや小規模なメディアを立ち上げるといったプロジェクトの実装や技術面でのディレクション、運用の手伝いを担当するのがメインでした」と後藤氏は振り返る。
その後、技術で食べたいと考えた後藤氏は、勃興したクラウドコンピューティングに出会い、パブリッククラウド向けのサービス開発を考えた。「北米のように自動化や運用管理ツールを作っても、日本のお客様は直接それらに触れる機会が少ないと考えた。だったら、開発・運用まで行なって直接デリバリするサービスを提供すれば、日本のお客様に喜ばれるのではないかと考えた」(後藤氏)。
こうした最中、後藤氏が携わったプロジェクトがパナソニックのブランディングサイト「ECO Ideas」だった。「白物家電をヨーロッパに展開するためのサイトで、日本の会社と契約し、ヨーロッパ向けのインフラを作りたいというのもあったし、ECほど負荷のかからないブランディングサイトだったので、北米で流行っているクラウドはどうでしょうか?と提案した」(後藤氏)とのことで、無事OKが出たことで、AWSを使ってWebサイトを構築したという。
このとき当時参加していたフットサルチームのつてで、アイレットと付き合い始める。「当時は20人くらいの会社だったので、社員がみんなフットサルに参加して、そのまま呑みに行ってという感じだった。クラウドも使いこなせるし、 Webシステム開発もできるという話だったので」と語る後藤氏。アイレット社長の齋藤将平氏、CTOの鈴木宏康氏とともに、クラウドビジネスの立ち上げに携わることになる。
後藤さんたちがAWSを使い始めたのを機に生まれたのが、クラウドをレンタルサーバーのように提供する現在の「cloudpack」のサービスだ。cloudpackはAWSに24時間365日の保守を付けたパッケージサービス。米ドルでのクレジットカード支払いが必要だった当時のAWSを、日本円・請求書で支払えるようにし、日本語でのサポートも付けた。構築から運用までまるごとパッケージ化されているcloudpackは現在も同社のメインサービスになっており、クラウド導入の敷居を大きく下げているという。
年間50回以上の講演でAWS SAMURAIを受賞
2009年はADSJ(Amazon Data Services Japan)の小島英輝氏をはじめとした、初期AWS界隈の人たちとの出会いもあった。「確か2009年12月にmixiのコミュニティで集まった、Amazon EC2の勉強会でのことでした。勉強会やオフ会などへの参加は初めてだったので、おっかなビックリでしたが、日本法人の設立が発表されたり、すでにさまざまな案件が動いているのを知った」(後藤氏)。今となっては驚きだが、プレゼンなどもこなれておらず、当時は資料も文字だらけだったという。
その後、2010年にジョインした玉川憲氏や当時まだ小さかったAWSのパートナーとともに、JAWS-UGの勉強会やセミナーなどに積極的に参加。「営業は社長の齋藤、テクノロジーはCTOの鈴木がやっていたので、重ならないようエバンジェリストの肩書きをもらって、イベントや勉強会で講演していました。週に1回くらいのペースで登壇してた年もありました」(後藤氏)とのことで、国内はもとより、シンガポールまで講演しに行ったこともあったという。こうした経緯もあり、2011年・2012年には、AWSの普及に貢献した人に贈られる「AWS SAMURAI」を受賞している。
もう1つの契機は、やはり2011年の東日本大震災。予定していたイベントや勉強会が中止になる中、チャットしながら、ダウンしたサイトを復旧していく「タイガーチーム」に参加。後藤氏は「ボランティアで大学や救援・募金サイトなどをAWSで復旧していった。齋藤と鈴木と僕とでログインして、インフラとDB、アプリケーションなどを担当で治していったケースもありました。そういった濃厚なお付き合いの中で、やるべき方向性も決まり、お客様のクラウドを見る目も変わってきた」と振り返る。実際、ケンコーコムのようにクラウドへの移行を前倒しするため、cloudpackに発注してきたユーザーもいるという。
(次ページ、難しい案件でも基本的には断らない)