AWS Summit 2015の2日目となる6月3日、エンタープライズ向けトラックで講演したのは、サーバーワークス 代表取締役社長の大石良氏。大石氏は、クラウド業界で至宝の伝統芸である「切腹トーク」を披露し、満員の聴衆に第2世代のクラウド活用を印象づけた。
「切腹覚悟のクラウド話」を披露する大石社長
cloudpack(アイレット)、クラスメソッド、野村総合研究所(NRI)などとともに、世界で約1万2000社あるAWSインテグレーターのうち上位パートナーであるプレミアコンサルティングパートナーを国内で取得しているサーバーワークス。東京リージョン上陸以前の2008年からAWSを取り扱い、今やAWS専業のクラウドインテグレーターとして、現在では280社を超えるエンタープライズ事例を抱えるに至っている。
そんなサーバーワークスを率いてきた大石社長のセッションは、「大石と言えば、大石内蔵助。ありがたくないことに最後は切腹なんです。みなさまの貴重な時間をいただき、なにも持ち帰るモノがなければ切腹する! これくらいの勢いで、必ずなにか1つ持ち帰りいただきたい」といういつもの決め口上からスタートする。
クラウドに対する偏見や誤解と長らく戦い続けてきた大石氏は、「第2世代の新しいAWSの使い方が増えている。これをみなさまと共有するとともに、これからのクラウド戦略について語っていきたい」と語り、まずはサーバーワークスがAWSと関わり始めた歴史を振り返る。
クラウド普及の端緒「日本赤十字社の事例」を振り返る
大石氏がAWSと関わり始めたのは2007年にさかのぼる。もともと同社は大学の入試システムで高いシェアを持っていたが、2月の合格発表の際は短時間にトラフィックが集中するという悩みがあった。そこで当時話題に挙がっていた、米国のAWSを試用。「時間単位でコンピューターを貸してくれるらしいということで使ったら、これはすごいということになった」(大石氏)とのことで、翌年には社内サーバー購入禁止令を出し、一気に社内システムのクラウド化に踏み切った。2009年には新規案件はすべてクラウド一本にしぼり、AWS専業のクラウドインテグレーターに舵を切ったという。
当初は「クラウドなんか使えるか!本屋がなにをしに来たんだ!と言われることがすごく多かった」(大石氏)ということで、クラウド1本でのビジネスは非常に苦労した。しかし、2011年の東日本大震災後に関わった日本赤十字社の事例で状況は一変する。被災者が支援を受けられる場所を探したり、非被災者が義援金の支払いやボランティアの受付状況を探すため、日本赤十字のサイトにアクセスが集中したため、サイトがダウンしてしまったのだ。
これに対し、サーバーワークスはサイトを短時間でEC2に構築し、キャッシュサーバーに分散。同時アクセスに耐えうる日本赤十字のサイトをわずか30分で構築した。さらに「そんなことまでできるんだったら、義援金の受付サイトも作ってくれとおねがいされた」(大石氏)とのことで、Webサーバー用の20台のEC2インスタンスを物理的に離れた2つのデータセンターに配置するとともに、1日500万通が送信できるメールサーバーをAWS上に用意。さらに「義援金情報が吹っ飛ぶなんてことがあったら、本当に社会問題になってしまう」(大石氏)ということで、データベースも2拠点で同期し、バックアップも自動的に行なえるようにした。
サーバーワークスはこのインフラを約2時間で構築し、アプリケーションは約48時間で開発。「3月14日に初めて日赤様と打ち合わせし、15日にサイト復旧、17日には義援金の受付を開始。約3年半で3200億円の義援金を集めることができたが、これらすべてはわれわれがAWS上で作ったシステムで運用している」と大石氏はアピールする。この事例を機に、災害時にもきちんと機能するAWS、そしてそのAWS上で迅速にシステムを構築できるサーバーワークスは大きく名を上げ、冒頭に挙げたような数多くの実績と認定を受けることになる。
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