KADOKAWA・DWANGO代表取締役 川上量生会長 撮影:編集部
角川アスキー総合研究所が知的財産権について考えるシンポジウム「IP 2.0シンポジウム」を11月27日に開催。パネルディスカッションで各界の代表が新たな知財「IP2.0」のあり方について議論を交わした。
パネリストはKADOKAWA取締役 角川歴彦会長、KADOKAWA・DWANGO代表取締役 川上量生会長、日本インダストリアルデザイナー協会 田中一雄理事長、SF作家の藤井太洋氏の4人。
田中理事長は工業デザインがビジネスモデルとつながった知財となっている点、藤井氏は「サルが撮った写真」をめぐるパブリックドメインの問題、そして川上会長と角川会長は著作権法の複雑さを課題に挙げた。
統一したルールを作ろうとするのが間違い
角川会長はロビー活動を通じて映画盗撮防止法の制定に関わった経験があり、同法は著作権法の本文に変更を加えることのない特別立法にあたる。だが同じく電子書籍における出版社の権利を法文化しようと働きかけた際には、文化庁が特別立法ではなく「著作権法の本文を変更する」と申し出てきたという。
著作権法は複雑に条文同士が絡みあったスパゲッティ・プログラムのような難解な構造になっており、一部を変えると全体に影響が出る。専門家でなければ法律の解釈は難しいのが現状だ。著作権法80条に電子書籍出版権を入れ込んだ結果、法律全体が「驚くほど変わる」(角川会長)ことになった。
「著作権法の権威は、ツギハギだらけの法律はやめて新しく(法案を)作ってはどうかと言っている。しかし(官庁は)アナログ対象の著作権法にデジタル対象の著作権を入れ込んでいく」(角川会長)
現行法には限界がある。では新たにどんなルールがあればいいのか。制度設計について川上会長は「統一したルールを作るのがそもそもの間違いかと思う」とラディカルだ。
「多様性を破壊する。市場だったり、いろんなものは独占・寡占の方向にしかいかない。統一されたルールの中でどうやって多様性を確保するのかという視点がないと面白い世界にならない」(川上会長)
可能性には限界がある、人間なんて大したことはない
多様性の確保という点で課題にあげられたのがコモディティー化だ。
インターネットと高速携帯通信の普及により、世界レベルで技術が平準化されてしまい、製品が多様化しても付加価値が乗せられなくなり、経済活動が厳しくなるというものだ。同様に人工知能が進化すれば、今までは人間が努力や工夫で生んできた価値が機械にとって代わられてしまう。
川上会長は現状を認める立場をとる。ゲーム産業を例に、価値の差別化には限界があるとする。
「ゲーム機は最初の3年くらいしか新しいゲーム(ソフト)は出ない。5年目になると続編ばっかりになってしまう。新たなプラットホームの可能性は有限時間で使いつくされて、新しいものが生まれてこなくなる。人間社会でも可能性というのはやはり有限。IPの対象は有限で、狩り尽くされつつあるというのが現実。手続き的に、人間の独創性というのも人工知能に代替されてしまう」(川上会長)
電王戦をたとえに、やはり人間の能力には限界があると川上会長。「将棋の世界で起きている幻想と同じ。人間なんて大したことはない」とバッサリだ。
「機械の作家」と契約してビジネスをしたい
その上で、人工知能の時代に知財を使った「IP2.0」権利ビジネスを展開するには「機械の著作権をいちはやく手に入れるのがわれわれの目指すべきところだ」と川上会長は真剣に話す。
サルが撮った写真の著作権はサルにあるとウィキメディア財団が判断したように、機械が作ったデータの著作権は機械にあると考え、従来の出版社が作家と契約し、作品の出版権を得てビジネスにしたように「機械が作った作品(データ)の著作権」を得ることでビジネスにしようというわけだ。
まるで夢物語の風情があるが、KADOKAWAではすでに芝浦工大の米村俊一教授が開発したツール「ものがたりソフト」を使って中村航氏と中田永一氏が書いた小説「僕は小説が書けない」を出版している(ものづくりソフトは、穴埋め式の質問に答えることで物語のプロットを完成させる、小説家の発想を助けるツール)。製薬業界では、機械に化学物質の組み合わせを考えさせることで新薬を開発する研究も進んでいる。
SF作家の藤井太洋氏は「知的財産は人間の営為であるという考えではなく、人も機械も含めた環境すべてによる営為ととらえ、等しく議論を進めていただきたい」と話し、経済活動の前では、人間と機械の営為の価値は等しいとする考えを示した。
人間はインターネットで「お山の大将」を作るものだ
インターネット型の人工知能では、グーグルのような米大手がビジネスとして先行する。日本や諸外国は米大手に対抗し、グローバルレベルで人工知能時代も「規模の戦い」を強いられることになる。
一方、川上会長はインターネットはグローバルだけに向かっているわけではなく、国内のローカルな世界で「お山の大将」という経済のあり方がありうるのではないかと持論を展開した。
例えば「何してけつかんねん」など関西ではごく普通の言い回しも、関西以外に住んでいる人が聞けば面白い。そうしたローカルな場で生まれる小さなやりとりを「作品」ととらえ、知財とは無関係な形で経済を発生させる仕組みがインターネット上にあってもいいのではと考える。
「誰かが言ったようなお決まりの話しをあたかもオリジナルのように話すことでおカネがもらえる。それがコンテンツとしての理想社会」(川上会長)
インターネットにはソーシャルネットワークなどサービスの中でムラのように「ウチらの中でいちばん面白い」局所の人気者がいる。人間にせよ機械にせよ、知財の仕組みが回る「マス用の作品」が社会に必要とされる一方、人々はそうした「お山の大将(人気者)」を作りたがるのではないかと川上会長。
「人間はそれ(お山)を作ろうとしている。インターネットにおいてもグローバル化に反対しようという知的行為はある。ぼくはそっちにつきたい」(川上会長)