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「SLUSH」開催間近、フィンランドのスタートアップに学ぶべきこと

2014年10月03日 16時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)/大江戸スタートアップ

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 隣国ロシアで生まれた「テトリス」の映画化に押されて話題がやや小さくなってしまっているが、フィンランドのスタートアップ・ロビオが開発したスマートフォン向けゲーム「アングリーバード」の映画公開予定日が2016年7月1日に決まった。なぜかゲームではなかった足が生えているが、まあそれはいい。

 2013年度に約210億円の売上をたたき出したロビオ、同じく売上高約914億円と報道されたスーパーセルなど、ゲーム開発会社を中心に、今やフィンランドは世界有数のスタートアップ国家となっている。


スタートアップの世界的イベントが開催

 そんなフィンランドで開催されるスタートアップの一大イベントが「SLUSH」だ。

 今年は現地時間11月18~19日に開催される。参加者は約1万人。7回目にして98カ国から2500社のスタートアップが集まる世界有数のイベントに成長した。エンジェル投資家を含め、合計資本2000億ドル規模の投資会社・投資家が集まるといい、すでに企業と投資家の間で7000回を超える商談が予定されている。

 実際にSLUSHに参加したスタートアップにいわせれば、SLUSHの効果は絶大だ。「SLUSH Tokyo」で優勝したスタートアップ・ブランドピットは、ツイッターの画像を分析して製品のマーケティングができるツール。優勝が発表されたあと、世界企業ユニリーバから問い合わせがあり、契約につながったという。

 SLUSHにはスタートアップ企業だけでなく、大企業や報道、政治家まで幅広く集まる。運営母体となるNPO団体のマルティン・タルヴァリCSOはダボス会議に参加した際、SLUSHでやろうとしていることが世界経済フォーラムの取り組みに似ているように感じたそうだ。

 「ダボス会議は経済・政治のリーダーが集まって世界経済を話し合う場だが、世界潮流はモバイル、シェアの方向に動いている。Wi-Fiがあれば世界中どこでも仕事ができる、という考えは今後ますます進化していく。新しい経済フォーラム、技術フォーラムがあってもいいという印象を受けた」

 今まではソフトウェアがメインだったが、今度は深センでウェアラブルやIoTデバイスなどハードウェアに特化した形のスタートアップイベントも開催予定という。


大企業の凋落で人材がスタートアップへ

 今でこそスタートアップのイメージも定着したが、フィンランド大使館の田中浩一上席商務官に言わせると「フィンランド人の起業家マインドが高かったかといえばそうではない」。きっかけはノキアの凋落だ。

 スマートフォンの登場以降、経営状況が悪化していたフィンランドの世界企業ノキアがマイクロソフトに買収されたのは2011年のこと。フィンランド現地では「ノキアショック」とも呼ばれる大事件だ。2008年時点でフィンランド企業およそ32万社のうち約93パーセントが従業員10人未満の零細企業。GDPの半分近くをノキアのような大企業が稼ぎだす構造だったため凋落のダメージはきわめて深刻だった。

 フィンランドの主要産業はいまだ伝統的なパルプやデザインの輸出に頼っているが、いつノキアの二の舞になるともしれない。以来、フィンランドは官民を通じてスタートアップ志向を強めることになる。フィンランド投資庁(テケス)では2011年からの4年間で70万ユーロ(約9600万円)ほどをゲーム会社に投資している。

 2011年、ノキアショックでもっとも影響を受けたとされるのは技術者・開発者だ。従来のように大手通信企業や大手メーカーの研究センターに就職し、安心して研究開発にあたるという未来像がなくなってしまった。優秀な開発者がスタートアップに集まって切磋琢磨を続けた結果、1つの黄金期を築けたのだ。

 振り返って日本を見れば、ソーシャルゲームやネットサービスのスタートアップは出てきているもの、いまだに大企業が優秀な開発者を大量に抱えこんでいる状況だ。もちろん内需中心の日本、外需中心のフィンランドで産業構造の違いはあるが、日本も「ノキアショック」に学ぶことはあるのでは。


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