【アスキークラウド2月号・特集連動ロングインタビュー】
自動運転車、ロボット──グーグルが人工知能を使った新たなデータビジネスに着手している。しかし、日本でも人工知能に関する試みは30年以上も前からあったという。なぜ当時は失敗してしまったのか。人工知能研究の草分けである慶応大学理工学部の山口高平教授に、人工知能ビジネスの発祥、日本の最先端研究、そしてグーグルの目指す世界について話を聞いた。
──グーグルを筆頭に、人工知能がビジネスとして注目を集めています。
このごろ「なぜ最近人工知能がよく出てくるのか」とよく質問されるけど、人工知能はもう57年の歴史がある。3回目なの、人工知能ブームは。最初は1956年。チェスとか定理証明とかを対象に人に、どれだけ迫れるかという感じでやってた。でも産業界からのニーズはチェスや定理証明じゃない。実際の問題が解けないから、ブームはすぐに沈滞した。
1970年代はまったく冬の時代。ただ大学で基礎研究は継続されていて、2回目の人工知能ブームは1982年、第5世代コンピューターのとき。当時の通産省が人工知能コンピューターを国家プロジェクトで作ろうとしていたことがあった。
1000億円プロジェクトの大失敗
知能はできたがデータがない
──第5世代コンピューターというと。
LSI、VLSIというのでコンピューターの世代分けを第1から第4まではハードウェアでやっていた。真空管、トランジスター、LSI、VLSI……。VLSIを使ったコンピューターを第4世代コンピューターと呼んでいて。ハードは重要じゃないから、そこに載っけるソフトウェアで次の第5世代コンピューターというのを考えようとしたわけ。人工知能を中心としたソフトウェアを載せたコンピューターを第5世代コンピューターと呼ぼうと言ったのが1982年。
──個人的ですが、私が生まれる1年前のことです。
570億円というすごいお金をかけて、そこから13年間やっていた。民間の電機メーカーからもどんどんお金を出させたので、トータルで1000億円と言われている。
──第5世代コンピューターの構想を聞く限り、現在のグーグルと同じようなことをやろうとしていたように思えます。
当時の提言書を見たら、まさに今の人工知能ブームでやっているようなことをやろうと書かれていた。何がダメだったのか──。1000億円かけて世界一速い推論コンピューターはできた。1秒間に5億回の三段論法を実行するコンピューター。人間はそんなに三段論法使わないよという話もあったけど、とにかく世界最高速の推論マシンを作った。
その点からすると成功だったが、推論だけでできるのは、たとえば人工知能ブームでの将棋とかチェスとか囲碁とか。日常生活を考えると、知識というのが非常に重要。インターネットの前だから、電子化されたテキストが非常に少ないし、大規模な知識が作れなかった。知識がなかったら何もできないだろうと。
人工知能は「知識」と「推論」が両輪だと言われる。推論はいいものができたが、もう一方の車輪である知識がなくては意味がない。まったく社会には影響を与えられなかった。
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