ソフトウェアやシステムの設計・開発者を対象にした、(株)翔泳社が主催するカンファレンス&イベント“Developers Summit 2004(デベロッパーズ サミット 2004)”が、29日と30日の日程で開催された。初日の夜にはコンサルティング会社、米アトランティック・システム・ギルド(The Atlantic Systems Guild)社の会長、トム・デマルコ(Tom DeMarco)氏による“ゆとりの法則――アジャイルな組織のシークレット”と題した講演が開かれ、会場に集まった開発者たちからの盛んな質問にも丁寧に答えていた。
“早さ”と“クオリティー”の過剰な要求は
開発者やその企業をダメにする
米アトランティック・システム・ギルド社の会長のトム・デマルコ氏 |
講演でトム・デマルコ氏は、「早く、早く、早く!! しかも低コストで、効率よく、高い品質を」と切り出し、現代のソフトウェア開発・設計者が会社から無理難題を求められ、日々忙しく過ごしている様子を“目隠しされて、手探りで新しい道を求め歩く旅人”と象徴的に言い表した。しかし、「こうした多忙さゆえに、さらなる効率化ばかりを追求して“変化すること”を厭うのは危険だ」と警告する。
多忙な日々を送る現代の開発者・設計者を“目隠しされて、手探りで新しい道を求め歩く旅人”と比喩した | デマルコ氏は「少しのゆとりを見つけて、世界を広げてほしい」と説く |
実際にデマルコ氏が1990年代に会見した日本の役人が、「2000年には日本が米国の経済規模を超えるだろう」と発言したが、日本は効率化ばかりを追求して世界が変化していることに気づかなかったため、今も米国を追い抜けないでいる、と日本の現状を冷静に分析し、変化に対応するためには「ゆとりが重要」「ゆとりから生み出される俊敏さを身につけるべき」と繰り返し述べた。
また、ソフトウェア産業がわずか30年間にゼロから3500億円市場に成長できた理由として、ベビーブーム世代による豊富な人的リソースが得られたこと、女性の社会進出が進んだこと、世界全体的で教育水準が上がったことを“3つの幸運”として挙げた。その半面、IT関連の事業に携わるナレッジワーカーの高齢化や若者の参入不足を将来の危険と指摘した。
同じく効率化による弊害の例。優先度を考えずに、時間効率だけで作業を詰め込むと、新しく重要な作業が入ってきた場合、結果的にすべての完成が先送りになってしまう |
企業が要求する品質や開発者自身が追い求める“高い品質”については、実は「相対的に欠陥の不在を確認しているに過ぎない」と、ばっさり切り捨てる。「品質が低くても(アプリケーションがハングアップしてしまうことがあっても)毎日使っている製品を思いつくだろう。そう、『Microsoft Internet Explorer』だ」と会場を沸かせつつ、「なぜそうしたソフトを使うのか。役に立つからだ。Explorerや『Adobe Photoshop』は、多少の欠陥こそあるものの、“Change the World!!”(世界を変えた)偉大なソフトだ。それこそが“真の品質”である」と説いた。
デマルコ氏は身振り手振りを交えながら、集まった来場者の質問にも丹念に答えていた |
最後に、ゆとりを生み出すための方策として、
- 変化するために、効率を落とすことを実践する
- 不要なもの(プロジェクト)を省いてプロセスを軽くし、俊敏な変化を身につける
- 不要なものを見つけるために、プロジェクトに完全な優先順位をつける
- プロダクトを作る場合は役に立つものをつくり、役に立たないものを減らさなければならない。そして世界を変革するものを作るべきだ
- 人的資源に投資する
という5つの方策を挙げた。ゆとりのない忙しい一日を送るのは、自分自身に成長のない日々を費やすこと。個人の成長がないのは、彼らに給料を与えないことと同じで、やがてそうした人材は離れていき、企業は衰退するだろう。ほんの少しだけ効率を追求しない、ゆとりを持つことを覚えてほしい、と自説をまとめた。