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VFXを武器にパッチワークで創り出した映像世界――『リターナー』の山崎貴監督にきく

2002年09月11日 23時25分更新

文● 取材・文:千葉英寿

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CM制作などで培ってきた“VFX”(Visual Effects)のノウハウに基づく卓越した映像センス、テンポよいストーリーテリングで高い評価を得た『ジュブナイル』から2年。山崎貴監督の最新作『リターナー(Returner)』が8月31日に公開された。新しい世代のクリエイターとして注目される山崎監督に本作の制作の裏側を話題の中心にしつつ、ウェブなどのメディアとの連携など今後の映画制作への姿勢についてもお話を伺った。

山崎貴監督
山崎貴監督

ストーリーは、ブラックマネーを取り戻すのを仕事とする“リターナー”ミヤモト(金城武)が親友の仇である宿敵・溝口(岸谷五朗)を追いつめた夜、空から降ってきた14才の少女ミリ(鈴木杏)と出会うことからはじまる。ミヤモトは未来からタイムトラベルしてきたミリに課せられた重要な“任務(未来を救うこと!)”の片棒を担がされることになる。ミヤモトとミリは人類の未来を鍵を握る“最初のひとり”を奪取した溝口に立ち向かっていく。

とにかくタイムマシンあり、加速装置あり、宇宙生物あり、さらには変形する飛行機、と最後まで息もつかせぬ展開で観客を映像世界に引きずり込む山崎監督に、制作におけるこだわりやクリーチャーやガジェットの類などの細かなディテールなど、興味深いVFXの裏側についてお話を伺った。

●パッチワークで創り出した映像世界

[千葉] この夏の映画には、古典SF文学の映画化作品やおバカスパイ映画にもタイムマシンが登場していますが、本作においても“戦略時間兵器”(※1)という形でタイムトラベルが大きくストーリーにかかわっています。監督が前作『ジュブナイル』に続いてタイムトラベルを題材に取り入れたのは、どのような理由からなのですか?
※1 戦略時間兵器 :ミリが2084年からタイムトラベルする際に使った装置。チベット・ラサの人類側の地下秘密基地でブラウン博士を中心としたゲリラグループが開発していたもので、時・空を超えてエネルギーチューブを張り、人間を送り込むことができる。

[山崎監督] “時間”は映画ととても相性がいいんです。異世界を作り上げるには時間の流れを利用するのが効果的なんです。
[千葉] ということは時間旅行を重視しているのではなくて、異世界を創造することがまずあるわけですね。本作はよく見ているとさまざな場所でロケが行なわれていることに気づくのですが、たとえば、筑波山が吹き飛ぶシーンなんていうのがありますが、やはり実景をロケして、それからイメージ作りがなされるのですか?
[山崎監督] シナリオにもあるしスケッチにもあるので、ある程度予測を立てておいて、できるだけイメージに近いところをスタッフが全国に散って探します。ですが、これがなかなか簡単にはいいところが見つからなくて。特に“オイルリグ”(※2)の内部は姫路にある関西電力の旧発電所を改造して使ったのですが、これを探すのは大変でしたね。
※2 オイルリグ :本編後半からクライマックスまでのアクションシーンのほとんどがここで撮影された。特に爆破シーンは実写、CGのいずれもが盛り込まれている。ワイヤーアクションもこのシーンで使用されている。

[千葉] それにしてもよくあんなピッタリのイメージの場所が見つかりましたね。
[山崎監督] そうですね。あそこも含めてフィルムコミッショナー(※3)や制作が頑張ってくれました。
※3 フィルムコミッショナー :本作では各地区の自治体が推奨するフィルムコミッションシステムが未来世界やオイルリグのような多様な撮影ロケーションを支えた。その結果、いままで国内では不可能とされた撮影が可能となり、東京・大阪・神戸・姫路・横浜・群馬・山梨・福島・茨城・千葉と広範囲にわたるロケが行なわれた。

[千葉] それにしても姫路ということは瀬戸内ですよね。ラストのオイルリグの上にあるヘリポートのシーンは瀬戸内のようには見えませんが。
[山崎監督] ええ、あそこはまた別なんです。ヘリポートは海面から60メートルで、海側がスコーンと抜けている、という設定でして、この条件にあうところが見つからなかったんです。で、タイにあるオイルリグまで行って撮ってこうようか、という話も出たんですが、ここは撮影へ制約があって、あの場面は結構芝居が多いところでしたので。 結局、千葉に屏風ヶ浦という絶壁があるんですが、そこを使いました。あそこは実は『ジュブナイル』のロケで使ったところで、プロデューサーが覚えていて。「じゃあ、作るかぁ」ということになって、ようやくああいう絵になったんです。で、反対面は東京ヘリポートというところを使って撮りました。もう、まさにパッチワークですね。
[千葉] なるほど。それで海が太平洋に見えたわけですね。でも、ああいう風に海側が抜けていないとラストのジャンボジェットが浮き上がってくるシーン(※4)は活きてきませんよね。あのシーンはほんとに違和感がないというか。でもあれは当然、実機ではないですよね(笑)
※4 ジャンボジェットが浮き上がってくるシーン :敵の宇宙生物“ダグラ”は地球上の飛行機に見せかけた“擬態宇宙船”を持っており、ラストでミヤモトとミリの眼前にジャンボジェットに擬態した宇宙船が垂直上昇(!)して現われる。

[山崎監督] あれはCGです(笑) ジャンボジェットは垂直上昇しませんし、チャーターする予算もありませんからね(笑) でも、当初はあのシーンで擬態をとく予定はなかったんです。ところが男にとってはセンス・オブ・ワンダーなシーン(※5)であっても、女性には「そういうもんなんだ」というところがあって。そのままだと宇宙船だと気づいてもらえない、ということで変形するところをちょっと入れた経緯があります。
※5 センス・オブ・ワンダーなシーン :男なんてジャンボが垂直上昇するだけでワクワクしてしまう、単純なものです。

白組の調布スタジオ白組の調布スタジオ。ほど近いところに大映スタジオがある

●ごちゃごちゃから紡ぎ出されるストーリー

[千葉] 映画の発想の話ですけど。最初から撮りたい絵が浮かんでるのですか?
[山崎監督] そうですね。例えば、決戦シーンをどこにしようか、って話になったときに日本だとどうしても、港湾施設だとか廃工場とかになっちゃうんで、それは避けたいと。でも、そういう匂いがあってカッコイイところってどこだろうなと。鉄工所だとか工場っぽいところがいいよね、ということで凄い巨大なオイルリグみたいなのがあって、そこで戦うならカッコイイよね、ということになって。イメージが浮かんじゃうとそこに行きつきたいですよね、なんとかして。やれないこともないんで、なんとかそういう方向に持っていきたいと決めたら後は覚悟してやるしかないな、ということですよね。
[千葉] ということは脚本を最初に仕上げてから映像に取り掛かるとか、絵コンテがきっちりあってとかのプロセスじゃなくて……
[山崎監督] もう、ごちゃごちゃです(笑) イメージスケッチのようなものを書きながら、これはどうやって撮るとか検証しながら進めます。その中で、これはこんな風にやって、で、こっちは「これはどうすんですか! カントク!!」とか言われて、「それはなんとかするよ……」みたいなね。そんな風にスタッフと詰めながら固めていくわけです。
[千葉] 非常にディテールが造り込まれた世界のようで、日本でありながら、「これ日本じゃない!」みたいに思えるたのですが、先ほどのお話だとすべて国内ロケですよね。
[山崎監督] ええ。海外の作家が日本を撮ると日本じゃなくなるじゃないですか。
[千葉] 『ブラックレイン(※6)』のような?
※6 ブラックレイン :リドリー・スコット監督、ヤン・デ・ボンが撮影監督を務めた1989年作品。ヤクザの抗争に絡んだ犯人(松田優作)とそれを追うN.Y.市警の刑事(マイケルダグラス、アンディ・ガルシア)と大阪府警の刑事(高倉健)のバイオレンスアクション。大阪での大掛かりなロケが話題になった。松田優作はこれが遺作となった。

[山崎監督] そうですね。ブラックレインは大阪の普通の街を撮っているのにカッコイイんですよ。もちろんいろいろと選択をしているだろうし、無茶なことを相当しているんでしょうけど。あれができないはずはないと思うんです。できるだけああいうニュアンスを含ませたいと思って、そういう姿勢で今回は取り組んだんですよ。そういう意味ではある程度いけたなというか、少しノウハウをつかんだな、とは思っているんですけど。それを突き詰めていけばどこで撮ったかわからない映画にはなるかな、と思っているんですよ。
[千葉] それで、一体どこで撮ったんだ! みたいな印象が強かったわけですね。
山崎監督は脚本・VFXも担当山崎監督は脚本・VFXも担当

●バーチャルでは役者のテンションコントロールが難

[千葉] やはりそういう異空間をセットとして作り上げるのは難しいでしょうね。
[山崎監督] オイルリグ内部のセットは大変でしたね。遮光するだけで2.5キロメートルぶんの暗幕が必要って聞いてクラクラしちゃいましたね。それだけ聞くとハリウッド映画並って感じもするんですけどね(笑) あちこちに蒸気を仕掛けたりとか、照明はどうすんだとかね。なにしろ11階建てで吹き抜けなんですね、あれ。それで各階にオペレーターがいてライティングして。でもまぁ、出来上がったら感動しましたけどね。これだけのものが自分の映画のために用意されているという状況はなかなか得がたいものなんで。
[千葉] 超大作でもないと、めったにないかもしれないですよね。
[山崎監督] 予算も潤沢にあるわけではないので。
[千葉] その辺は役者さんも感じて、テンション上がったんじゃないですか?
[山崎監督] 危険なのはバーチャルセットが増えてくると風景が見えませんから、役者さんにとってテンションをコントロールするのが難しくなってくるんですよ。ああいうところで直に撮っていることで役者さんには影響を与えていると思うんですよね。デジタルが進んでいけば、今後そういうものが少なくなっていきますからね。僕なんかは最先端を走っていかなければならないんで。
[千葉] スタントを使うシーンもかなりあったと思いますが、ミヤモトのアクションはかなり金城さん本人のような感じを受けたんですが。
[山崎監督] 金城君はスタント上手なんですよ。それでもミヤモトは10号ぐらいまでいましたよ。空中回転専門のミヤモトとかね。それでもキメのシーンは金城君本人、ということが多かったですね。
[千葉] 鈴木杏ちゃんはどんな感じでしたか?
[山崎監督] 彼女も結構やってくれて、高いところからワイヤー一本で飛び降りたりとかね。本人は怖かったらしいんですが、ヤツは女優魂があるんで、「ヘイキ、ヘイキ、ヘイキ」とか言ってて。終わった後に控え室でブルブル震えて大変だったんですよ、って言われて。実際、自分で上ってみたら「うわっ、ホント怖いわ」って、「言えよっ」と思いましたよ。もっともそれでもやってもらったと思いますけどね(笑)
[千葉] 岸谷さん(溝口)はかなり役に入ってましたよね。
[山崎監督] 相当、本格的でピュアな悪役をやってみたかったようですよ。
[千葉] 山崎さんの作品では、悪役は初めて出てきたんじゃないですか?
[山崎監督] といってもまだ2作目ですからね。それにしても悪役描けなくて大変なんですよ。ミヤモトとミリももっと嫌なヤツで出てくると後半との落差があってよかったと思うんですが。あれはちょっといい人過ぎたかなと。パブリックイメージにも引きずられるんで難しいところではありますけど。反省点ではありますね。

●白組、ロボットとしてのブランディングが課題

[千葉] 『ジュブナイル』の時から本作も監督・脚本・VFXということで一人三役をされてますが、これは当面そういう形なのですか?
[山崎監督] VFXに関しては僕が監督する上での武器でもあるし、いまのところ切り離せないですね。それと予算的な部分でできないことも、VFX使えるんでやりますから、ということで可能になることがいっぱいありますね。話の選択肢という部分で、ふつうの監督と比べてできることが多いですね。SF的な作品でなくとも、例えば、戦国時代の話で合戦シーンを撮るとしても、僕なら躊躇せずに脚本に書くことができます。そういう意味では1個の“魔法の道具”を持っているということですね。ものすっごく大変なものなんですが(苦笑)
[千葉] 魔法でもかなり大変な魔法ですよね(笑)
[山崎監督] 身を削るようなものではありますが、不可能ではない。そういう意味で、監督としては恵まれているというか、ホントにいいんだか、なんだかわかりませんが(笑) でも、日本の映画がおかれている現実より半歩は先のことをやることはできる自由度は高いですね。
[千葉] 日本映画界でのSFものの立場ってどうなんですか?
[山崎監督] SF映画、とくに僕らが作りたいような映画っていうのは、日陰者の存在なんですよ、やっぱり。SFを見たければハリウッド映画を見ればいいじゃん、みたいなね。日本でショボイもの作っていても決してお客さんは喜ばないし、僕らも報われない。
[千葉] しかし、それなりのお金がないとショボイものになりかねないですよね。
[山崎監督] お金に関してはコストパフォーマンスの高いことをやっていると思っています。しかし、ドンとお金があってもドカ~ンという脚本がくるんで、すごい大変は大変なんですよ。“ロボット”も僕ら(白組)でも(※7)スタッフの中では画面にお金をかけたいという思いは同じで、弁当がよくなるよりはセットがカッコイイほうがいい、ということですね。もっとも、そればかりだとつらいことになるんですけど、今はブランディングしていって、僕たちが作る映画はちゃんとおもしろいよ、という認識を広めることになればのちのち帰ってくるだろうし。今は畑を耕している状況ですね。
※7 ロボットも僕ら(白組)でも :ロボットは『ジュブナイル』『リターナー』の制作プロダクション。岩井俊二監督の『Love Letter』をはじめ、『踊る大走査線 THE MOVIE』、『サトラレ』など次々とヒット作を生み出している。白組は、山崎監督の所属するVFXプロダクション。

白組社内のCGルーム
白組社内のCGルーム
[千葉] どうすれば打開できるんでしょうね?
[山崎監督] スタジオジブリの変遷(※8)を見ていてもわかりますが、日本ってずーっと反発して「なんだこんなもの」と思っていても、ひとたび評価されると、諸手をあげて「いい」と言い出す国民性みたいなものがあるので。だからこそ、ロボットと白組がやれば結構なものができるんだよ、と認知されるようにがんばらなきゃ、と思っています。
※8 スタジオジブリの変遷 :アニメやマンガは長い間、子供の見るもの、低俗なものと蔑まれてきたが、スタジオジブリの作品が世界的に認められるようになったことで、アニメを毛嫌いしてきた人々が手のひらを返したように“文化”として認め、こぞって見に行くようになったのはご存じのとおり。

●次回作は小さいやつ?

[千葉] 『ジュブナイル』から感じていたのですが、かなり手の込んだウェブサイトを作られていましたが、そのあたりの他のメディアに関してはどのようにお考えでしょうか?
[山崎監督] まだ、ウェブでの口コミの力ってまだあまり信じていないんですけど、将来はネットが生活に深くかかわってくることは明らかですから、今のうちに手をつけておいて、ノウハウをためていこうという考え方ですね。いろいろな問題が生じてくるだろうし、試行錯誤するなら今のうちかな、と。
[千葉] 『スターウォーズ エピソードII』にしても『ロード・オブ・ザ・リング』にしてもかなり大きなトレーラー(予告編)を公開していますが。
[山崎監督] まだ、そんなにダウンロードされるとは考えていないんです。光ファイバーが当たり前になれば、別でしょうけど。そうなれば試写会とかもできちゃいますけどね。
[千葉] コンテンツの2次使用みたいなことはどう考えていますか?
[山崎監督] 2次使用のメリット自体はありがたいんですが、僕は映画館で観てほしいんですよ。『スパイダーマン』のスタッフがいいことを言っていたんですが、「ダウンロードやストリーミングで見るより、劇場で見た方が面白い作品を作ればいいんだ」ということなんです。否が応でも劇場に足を運びたくなる作品を作りたいですね。
[千葉] 映画館だと誰かと一緒に見て、後で話題を共有できるのもいいですよね。
[山崎監督] ええ。プレミア試写会のときに気がついたんですが、終わった後にあのシーンはこうだったとか、あれはああなった方がいいとか、議論をしている人がいっぱいていいなって思ったんです。まぁ、ツッコミどころ満載ということかもしれませんが(笑)
[千葉] さて、次回作はどんなものを考えているのですか?
[山崎監督] まだ、わかりませんね。『リターナー』次第ですね。内容とは別なところでは、もう2年もかかる作品はやりたくないな(笑) 小さいやつか、でなければうんとデカイやつかな?
[千葉] ありがとうございました。今後のご活躍に期待しています。
本社は東京・青山白組設立は1974年でまもなく30年に届く。本社は東京・青山

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