マイクロソフト(株)は、『Microsoft Windows Powered Pocket PC日本語版』のOEM向け出荷を開始したと発表した。Pocket PCは、Windows CEをベースに開発された携帯情報端末で、従来“Palm-size PC”と呼ばれていた製品。コアとなるOS部分がWindows CE 3.0にバージョンアップしたほか、GUIや標準アプリケーションが大幅に見直されている。なお“Windows Powered”は、Windows CEをベースにした情報機器全体のブランドネームで、Pocket PCがその第1段となる。
PocketPCの画面 |
敢えてWindowsの標準を外したUI
Pocket PCの改良のポイントは、携帯端末に適したユーザーインターフェース(UI)の採用とアプリケーションの追加だ。操作性をデスクトップのWindowsに近づけるという従来のアプローチが全面的に見直され、PIM/インターネット/オフィス/マルチメディアなど、広範な範囲をサポートするアプリケーションが標準搭載されている。
記者発表会では、カシオのソフトを利用した動画再生のデモが行われていた |
UIの主な変更点は、スタートメニューを画面左上にメニューを下側に配置した点、従来のダブルタップ中心の操作をシングルタップ中心にした点、スタートメニューを次々とメニューが繰り出してくる方式(カスケードメニュー)ではなく、ランチャー操作に変更した点などが挙げられる。これらの変更を通じ、携帯端末の狭い画面でも効率的に情報を参照できるほか、電車での移動中など不安定な状態でも操作しやすくなっている。
画面右上のスタートボタンをタップすると、アプリケーションのランチャーが現れる |
メニューを下側に配置することで、操作時に手が画面を隠さないようにした |
一方、標準アプリケーションには、今回から、HTML3.2に準拠し、JavaScriptや40bitSSL、フレーム表示などに対応した“Pocket Internet Explorer”、PC上で作成したWord/Excel文書の編集/閲覧が行なえる“Pocket Word/Excel”、Windows Media AudioとMP3ファイルの再生が行なえる“Windows Media Player”などが追加されている。
Pocket Internet Explorerは、横幅を縮小して小さな画面でも表示できるようにする機能やオフラインブラウズ機能を備える |
Pocket Excelの画面は小さいが、機能的にはハンドヘルドPC用のものと同等 |
また、PIMソフトの“Pocket Outlook”に関しても新着メール、スケジュール、ToDoなどの一覧表示が可能な“TODAYビュー”機能、POP3/IMAP4に対応したインターネットメールの受信機能などが搭載されている。
日本語版Pocket PCでは、英語版で搭載されていた電子ブックリーダーの“Microsoft Reader”や地図ソフトの“Pocket Street”などは未搭載となっている。その理由として、マイクロソフトでPocket PCの製品開発を担当した間中信一氏は「電子ブックリーダーに関してはフォントを見やすくする“ClearType”技術を日本語で利用する検討段階にある点、Pocket Streetに関しては地図データが異なる点が理由で搭載できなかった。後者についてはインターネットを利用するサービスなどが提供されるだろう」とコメントした。
Pocket Outlookの予定の中から、行く先の情報を自動的に抜き出して経路探索/地図表示するサービスのデモ |
なお、日本語化に伴う懸念事項のひとつに速度の低下が挙げられるが、間中氏は「日本語OSではメモリー使用量が、システムで使用する16~18MBに加え、フォントで4MB、IMEで4MBかかるのが速度低下の理由。しかし、パフォーマンスの最適化によって10%程度の速度減に抑えた」と述べた。パフォーマンス低下を招くため、評判の悪かったシステムのタスク管理機能に関しても「極端にシステムの速度が遅くなる前にメモリー内のプロセスを止めることで、パフォーマンスの低下が起きないようにした」と大きな改善が行なわれていることを強調した。これには、プロセス管理が強化されたWindows CE3.0の採用も大きいという。
HPとカシオが対応デバイスを出荷
Pocket PCのハードは、日本ヒューレット・パッカード(株)とカシオ計算機(株)の2社が販売する。両社は米国市場で複数モデルを出荷しているが、日本HPは32MBメモリーを搭載した最上位モデルの『Jornada 548』、カシオ計算機はコンパクトフラッシュスロットではなく、SDメモリーカード/MMCスロットを搭載する『CASSIOPEIA EM-500』相当の製品を出荷する予定。また、カシオは特定用途向けにカスタマイズした製品の出荷も行なうという。
いずれも発売は9月中旬を予定しており、価格などは未定。ただし、米国向けのJornada 548の価格は599ドル(約6万3000円)となっている(EM-500は未定)。また、マイクロソフトは他のメーカーに関してもハード開発について交渉している段階にある。米国では、HPとカシオ計算機の2社に加え、米コンパックコンピュータと米Symbol TechnologiesがPocket PCを出荷している。今回開発表明が行なわれなかったのは、MIPS/SH系以外のCPUに対応したOSの開発に時間がかかることが理由のようだ。
このほか会場には米TARGAS社の折りたたみ式キーボードや米ザーコム社のネットワークカードといったPocket PC対応の周辺機器が展示されていた。
カシオ計算機が発売する予定のPocket PC。SDカードスロットを搭載することで小型化を図った |
日本HPのPocket PC。ヨーロッパのデザイナーによるスタイリッシュなデザインが魅力 |
Pocket PC用の折り畳みキーボード |
Pocket PCは“.NET構想”のキーとなる製品
記者発表会には、米マイクロソフト社からBussiness Productivity Groupの副社長ボブ・マグリア(Bob Maglia)氏が出席した。同氏はPocket PCが同社の提唱する“.NET構想”のキーデバイスであるとした上で、既存のWindowsプラットフォームと連携しながら、新しいビジネスモデルと付加価値を創造していく方針であると述べた。
.NET構想でマイクロソフトは、ネットワーク全体を巨大なプラットフォームとみなし、ソフトウェアをサービスとして提供することを狙っている。マグリア氏は、そのためにインターネット上のコンテンツに時間/場所を問わずアクセスできるビューアーが必要であると説き、Pocket PCやスマートフォンの開発にも意欲を示した。
米マイクロソフト社Bussiness Productivity Groupのボブ・マグリア氏 |
Palm追撃の姿勢を前面に押し出すマイクロソフトは、Pocket PCでPDA市場の3~4割のシェア獲得を目指す。同日は、ソニーのPalm発表会と重なっており、激化してきた国内のPDA市場に対するメディアの関心は高かった。かたや自宅でも職場でも利用できる統合的なデバイスを目指すPocket PC、シンプルな使いやすさを全面に打ち出したPalm。その目指す方向は対照的で、日本市場に飛び火したPDA戦争がどういった結末を迎えるかは興味深い。