このページの本文へ

【World InfoCon Vol.4】情報処理技術の発展によって生じる“知の死角”をなくすために必要なこと(パネルディスカッションより)

2000年07月25日 00時00分更新

文● 岡田智博 coolstates.com

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

ブリュッセルで開催された“World InfoCon”。締めくくりとなる7月14日のパネルディスカッションでは、今までの発言者のほか、OSCE(全欧安保協力機構)のスペシャリスト、EUの上級官僚などが加わり、活発な意見交換が行なわれた。

パネルディスカッションの参加者。左からマイケル・ポールマン氏(アンテナ)、スティーブ・カッツ氏(カーネギー・メロン大)、マルヤ・グーティリエッツ・ディアズ氏(EU)、エリック・クライテンバーグ氏(DeBelie)、アレクサンダー・イヴァンコ氏(OSCE)
パネルディスカッションの参加者。左からマイケル・ポールマン氏(アンテナ)、スティーブ・カッツ氏(カーネギー・メロン大)、マルヤ・グーティリエッツ・ディアズ氏(EU)、エリック・クライテンバーグ氏(DeBelie)、アレクサンダー・イヴァンコ氏(OSCE)



ボズニア・ヘルツェコビナ紛争で果たしたネットの役割

まず、OSCEの“メディアの自由代表部”アドバイザー、アレクサンダー・イヴァンコ氏が口火を切った。OSCEは欧米や旧ソ連など54ヵ国が加盟する、紛争解決のための国際機関である。氏はバルカン半島をケースにして、その活動の一端を紹介した。

「ボズニア・ヘルツェコビナ紛争では、学生たちが運営する小さなラジオ局をサラエボに設立するための支援をした」、「現在は“ピース・モバイル・ライン”という名前で、サラエボやベオグラードの高校をインターネットで結んでいる。対立していた民族が5年ぶりに直接対話する場を作った」と語った。現在そのネットワークを「プリスチナ(コソボの首都)に結ぶ予定でいる」とし、「パブリックなメディアを提供することによって、紛争地帯の人々に対する融和を模索している」と述べた。

OSCEの“メディアの自由代表部”アドバイザーのアレクサンダー・イヴァンコ氏 OSCEの“メディアの自由代表部”アドバイザーのアレクサンダー・イヴァンコ氏



イヴァンコ氏の発言に対して、アムステルダムのDe Balie(政治文化センター)でニューメディア・プロジェクト・コーディネーターを務めるエリック・クライテンバーグ氏は、「今回のユーゴスラビアでの紛争を通じて、クライシス時には紛争外の人々だけでなく、その中に巻き込まれた人々もインターネットによって様々な側面から情報を得られることを再確認できたのでは」と指摘した。

しかし、イヴァンコ氏は「インターネットというが、やはり未だに国内外でのメジャーソースが“TV”であることには変わらない」とし、その上で「インターネットによって、異なる当事者間同士で様々な情報が交わされていた現実は確かであり、(その役割を)見逃すことはできない」と語った。

“学びの現場”へインターネットを導入するために

次に、EUの文化教育部門の部門長であるマルヤ・グーティリエッツ・ディアズ氏が「ヨーロッパでの新しい教育の役割として、“学びの現場”にインターネットを導入していかなければならない」と語った。更に「デジタル表現を習得する場が若者たちには必要である」として、「アーティストがインターネットを積極的に活用し、表現できることが重要」と述べた。

EUの文化教育部門の部門長のマルヤ・グーティリエッツ・ディアズ氏
EUの文化教育部門の部門長のマルヤ・グーティリエッツ・ディアズ氏



その発言に対し、クライテンバーグ氏は「オランダではエレクトロニック・ハイウエーによる国土整備を政策としている。政府はその有効な活用と意義が経済目的のみでは成り立たないことを自覚し、整備に向けて動いているという現実がある」と語った。

また、ポールマン氏は「オランダの教育現場では、インターネットによる教育に挑もうとしている。しかし、その現実は教育用ソフトウェアを使うというもので、教材がロールプレイング・ゲーム化している。教材制作に対して、新しいビジネスとして挑んでいるは大手出版社だ。中小のいわゆるトラディショナルな教材会社が取り残されてしまっている」と語った。

マイケル・ポールマン氏は、情報通信ネットワークのソリューション提供を通じて、国際規模で社会運動やNGOを支援しているNPO“アンテナ”(本部アムステルダム)のディレクターである。インターネットを通じて、教育用の情報提供や交流を提供しているアンテナ自身の立場を踏まえての発言だった。

知識を共有化するためのアライアンス作り

続いてイヴァンコ氏が「政治、行政、コミュニティーにおけるカッショングループ、情報産業、セキュリティーエージェンシーとの間で、情報化に関する議論が分断化されている」と、現在の社会一般の状態を憂慮。その具体例として「プライバシーをどのように取り扱っていくかという問題についてですら、総合的な議論がなされていない。それが時には地球規模の社会に危険な状態をもたらすことにもなるのでは」と述べた。

ディアズ氏は「メディアと社会生活が切り離せなくなってしまった現在だからこそ、メディアに対する教育が必要である」と、その意義を語り、「教育の場にメディアが必要で、メディアの意味を学ぶ上でアートが必要不可欠な存在なのだ」と答えた。

さらに、カーネギー・メロン大学ロボテッィク研究所助教授、スティーブ・カッツ氏は「タクティカルメディアの立場から発言すると、ライフサイエンスの分野など、情報処理技術の発展によって生じている“知の死角”をなくすため、知識を共有化するためのアライアンス作りが教育とともに必要である」と指摘した。

カーネギー・メロン大学ロボテッィク研究所助教授のスティーブ・カッツ氏。クリティカル・アート・アンサンブルを率いるメディアアーティストでもあるカーネギー・メロン大学ロボテッィク研究所助教授のスティーブ・カッツ氏。クリティカル・アート・アンサンブルを率いるメディアアーティストでもある



最後に、これらの議論を総括する意味として、ポールマン氏が以下の言葉を述べて、同パネルディスカッションを締めくくった。

「コミュニケーションの力を発揮するためには、今もなオープンなテクノロジーが必要なのだ」

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン