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IIJセミナー(前編) ――ソフト、ハードの販売とコンテンツ提供の両輪で、オンリーワンを目指す“シャープスペースタウン”

1999年08月23日 00時00分更新

文● 服部貴美子 

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8月20日、大阪YMCA会館においてIIJセミナー“インターネットビジネスの最新動向”が開催された。インターネットプロバイダーの(株)インターネットイニシアティブ(IIJ)は、先日、米国店頭株式市場(NASDAQ)に株式公開を果たした、業界内でも注目の高い企業である。セミナーに先だち、IIJ関西支社長の小笹俊一氏が登壇し、順調に推移する同社の株価の報告と、インターネットの本格的な普及に対する抱負について語った。

司会進行は、IIJ関西支社の天野氏。会場は、スーツ姿の男性がほとんど。長時間にわたるセミナーだったが、デモンストレーションに、身を乗り出す姿もみられ、関心の高さがうかがわれた
司会進行は、IIJ関西支社の天野氏。会場は、スーツ姿の男性がほとんど。長時間にわたるセミナーだったが、デモンストレーションに、身を乗り出す姿もみられ、関心の高さがうかがわれた



ネットワーク時代の“Easy to Use”を目指したPDA向けサービスの展開

まず、第1部のセミナーでは、シャープのSST(シャープスペースタウン)推進センター所長の谷口氏が登壇した。同社は、IIJのインテグレーションサービスとの連携により、今春からプロバイダー事業に参画した。そのマーケティング戦略について説明した。
 
谷口氏は、“インターネット白書('98年)”のデータを引用し、「インターネット人口は、今年の3月末時点で約1700万人、今年中には1800万人を超えると言われている」と説明。 

電化製品が普及する際の1つの目安である“普及率10パーセント”を超えた今年を、情報化社会へ大きく進む第一歩と位置付け、今年の3月20日にプロバイダー事業を立ち上げた経緯について述べた。

講師のSST(シャープスペースタウン)推薦センター所長・谷口氏
講師のSST(シャープスペースタウン)推薦センター所長・谷口氏



シャープは、消費者の多様なニーズに、“製品の機能追加”で答えてきた。しかし、ライフステージの変化に加え、ライフシーンの変化にも対応するためには、インターネット上に情報を提供し、利用者が必要に応じて取得する方が適している。同社が目指す“Easy to Use"とは、誰にでも使いやすいハードの提供、簡単なネットワーク接続、目的に応じたコンテンツ提供の3つを実現させることで、ユーザーが意識せずに電化製品を使えるようにすべきだという考えである。その第1弾として、'93年に誕生したヒット商品『ザウルス』への取り組みがスタートしたという。

ビジネス向けPDAとして登場したザウルスのユーザーは、30~40歳代の男性が中心。高度な機能を追加することで、既存ユーザーの満足は得られたが、新規ユーザーからは「機能の多くが使いこなせない」という声が聞かれるようになっていた。
 
そこで、逆に無駄なアプリケーションをはずし、“軽いプラットフォーム”と“低価格”に重点を置いた商品開発へと転換した結果、“igeti"(アイゲッテイ)のヒットにつながった。「購入者の内訳は、20歳代が全体の48パーセント、女性が約4割と、確実にユーザー層の拡大に成功している」と谷口氏。新機種発売に合わせるように、接続サービスを開始したが、こちらも会員約2万3000人のうち、6割を女性が占めている('99年8月20日現在)。

ハードウェアとコンテンツの連動が新しいビジネスチャンスを生む

 
ザウルスユーザー向けに展開する“シャープスペースタウン”は、2つのソリューション提案を意識して運営している。
 
1つ目は、インターネット番組表と呼ばれるホームページガイドだ。「3億~4億ページあるといわれるサイトの中から、個々の趣味に合った、旬のページをみつけるのは、もはや不可能に近い」(谷口氏)。それを、機器の性能と連動するコンテンツを作ることで、初心者、ファミリー、エクゼクティブ、ママといったライフステージ別に、テレビ番組のガイドのような感覚で選んでもらおうというものだ。
 
2つ目は、それらの情報を短時間で収集し、手元のスケジュールに書き加える形で保管したり、必要に応じて利用したりできるようなウェアラブルな使用感を実現しようとする“クイックパス”機能である。利便性の向上はもちろん、通信時間を短縮することで、ユーザーの金銭的な負担を軽減した。

これらの機能も、充実したコンテンツを持たなければ、力を発揮できない。コンテンツの例としては、リアルタイムでニュースが確認できる“毎日モバイル新聞”や、学生向けのアルバイト情報や就職情報(いずれもリクルートから情報提供)などがあるが、他にも「定期検診の日程や、そろそろ腹帯を巻くころ――などというタイミングを知らせる“母子手帳ザウルス”なども考えられる」と新しい分野への可能性を語った。

電子書籍、オンライン証券……etc. キラーコンテンツ候補が続々と登場

6月末からサービス提供がスタートした光文社の“ザウルス文庫”では、場所を選ばず書籍が購入でき、すぐに読める。しかも、ユーザーが開発したシェアウェアにより、縦読みや文字サイズの変更が可能で、ザウルスの辞書機能との連動により、英文にも気軽にチャレンジできるところが、紙の書籍との大きな違い。「応用次第では、教育分野での活用も可能のはず」と、谷口氏も期待を寄せているコンテンツのようだ。
 
また、今年の10月1日に株式手数料が自由化されることを受けて、トレーディング情報を盛り込んだコンテンツも準備されている。



“毎日モバイル新聞”と“ザウルス文庫”のデモ画面。ブックビューアー付きの機種は、今年の7月から発売し、すでに光文社との連携が実現している。9月には旺文社、年末には文藝春秋などもコンテンツを提供する予定“毎日モバイル新聞”と“ザウルス文庫”のデモ画面。ブックビューアー付きの機種は、今年の7月から発売し、すでに光文社との連携が実現している。9月には旺文社、年末には文藝春秋などもコンテンツを提供する予定



このように、配信ビジネスと、それを受信するのに最適な機器の開発、さらにネットワークの仕組みを生かしてビジネスの領域を広げ、2000年以降はキラーコンテンツから生まれたビジネスチャンスを商品事業にフィードバックしていく――。そんなスパイラル的な展開を目指している。

ザウルスに続いては、WindowsCEを搭載した『テリオス』、主婦層をメーンユーザーとして考えた高性能ワープロの『アイプリメーラ』、カラーファックス『彩遊記』、マスコミをにぎわせた白物家電・インターネットクッキング対応電子レンジといった、ソリューション提供の具体策がすでに始動している。

また、アクセスポイントやコースの拡充、海外ローミングやストレージサービスといったオプションについて積極的に取り組み、ユーザーにとって魅力的なプロバイダーを目指すという。法人向けには、サーバー間の認証によって、外部からイントラネットへアクセスする際の乱数発生などの手間を省く“IDゲートウェイサービス”も展開していく予定だ。

たとえば、テレビ番組のGコードをザウルスにダウンロードし、リモコンのように使用する、オンラインで資格取得のための模擬試験を受ける、端末を持った人のロケーションが確認できる――など、強力なバックボーンを背景に、多様なコンテンツの可能性を広げる
たとえば、テレビ番組のGコードをザウルスにダウンロードし、リモコンのように使用する、オンラインで資格取得のための模擬試験を受ける、端末を持った人のロケーションが確認できる――など、強力なバックボーンを背景に、多様なコンテンツの可能性を広げる



ネットワーク型ビジネスでの事例を積み上げ、積み上げた事例を、さらに展開させることで、シャープの事業全体そのものがどこまで進化を遂げるのか? 今後の動向に期待したい。

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