書籍リーダーではなく、情報端末?
Kindleを購入以来、あちこちに持ち歩いて自慢しているのだが、私に影響されて購入した人は何故かひとりもいないのが不思議である。
アップルCEOのスティーブ・ジョブズは「アメリカ人は本なんか読まないからKindleは失敗する」(関連サイト)と言ったという。確かに本屋の数は少ないし、本を読んでる人も多くない気もする。400ドル(約4万2800円)というKindleの値段が大きな障害になっているのかもしれない。これまでさまざまな電子書籍のハード/ソフトが提案されてきたが、どれもあまり流行することはなかった。だから「Kindleもどうせ駄目だろう」という意見も多いようだ。
しかしKindleは、無料のネット接続とウェブ検索を前提としたシステムという点で、従来の端末とは一線を画しているように思える。
個人的には、前編でも紹介したように、ウェブやパソコン上のデータを加工してすぐにKindleに送ることができるという点に注目している。あとで読みたいウェブページや地図を、パソコンからKindle.com経由でワイヤレスで簡単にKindleに送れるので、あらゆる情報を扱える閲覧端末として役立ってくれそうだ。
Kindleは、書籍リーダーというよりも、以前ソニーから発売されていた「インフォキャリー」(関連記事)のような情報端末と考えるといいのかもしれない。本は読まない人でも、何かの情報を持ち歩きたいということは多いはずである。ひょっとするとアマゾンは、電子書籍リーダーという触れ込みで販売開始しつつ、ユビキタスコンピューティング環境における携帯端末の世界を支配しようという野望を持っているのかもしれない。
日本のユーザーにとって、書籍端末としての利用を考えると、今のところ値段や日本語対応がかなりのネックになっており、購入に二の足を踏む人がほとんどだろうと思う。しかし、あらゆる漫画がKindleで読めるようになればどうだろう?
iPodにより携帯音楽端末が爆発的に普及したように、Kindleによって電子書籍や情報端末の世界でも同じことが起こるかもしれない。この分野の製品の将来に期待したい。
筆者紹介──増井俊之
1959年生まれ。ユーザーインタフェースの研究を続け、POBox、QuickML、本棚.orgなどのシステムを開発する。ソニーコンピュータサイエンス研究所研究員、産業技術総合研究所研究員などを経て、現在、米アップル勤務。著書は「インターフェイスの街角」など。自身のサイトはこちら。