月刊アスキー 2007年11月号掲載記事
ボーイングの最新鋭中型旅客機「ボーイング787」。従来機よりも燃費が良く、巡航速度も高速で、長距離路線を効率よく運航できると期待されている。また、日本企業が機体製造の約35%を受注したことでも話題となった。この787だが、実は〝オーブンで焼いて〞作られている。
一般的な航空機の機体は、アルミ合金(ジェラルミン)でできている。だが787は、機体重量の半分以上が「炭素繊維強化プラスチック」(CFRP)で構成される。炭素繊維は比重が鉄の4分の1しかないのに強度は10倍で、アルミに比べても大幅に軽量化できる。787は、このCFRPを大量に採用して機体重量を軽量化したこと等により、燃費を同クラス比で20%改善できるという。
機体を製造するには、まず炭素繊維を一方向に並べ、エポキシ樹脂を含ませて板状にしたもの(プリプレグ)を縦横に重ねて形状を作る。これを「オートクレープ」といういわば巨大なオーブンで、高温高圧で焼き上げて完成となる(1機まるごと焼くわけではなく、個々に焼成した部品を組み立てる)。
この787向けの炭素繊維を、全量提供しているのが東レだ。東レというと繊維メーカーの印象が強いが、一次構造材のCFRP供給元としてボーイングに認定されているのは、世界で唯一東レだけ。世界市場でも東レがトップだ。
炭素繊維における東レの強さの秘訣は、やはり「繊維メーカーとしての高い技術力」(同社広報)だという。炭素繊維のもととなる太さ7マイクロメートルの特殊なアクリル繊維を連続生産する技術は、同社が長年の繊維事業で培った技術やノウハウそのもの。また、数千〜数万本の束にしたアクリル繊維を均一に焼き上げて高品質な炭素繊維とするのにも同社独自の技術が活かされており、他社は容易に模倣できないという。
'70年代始めに、高級な釣り竿やゴルフクラブに採用され始めた炭素繊維。現在では飛行機、船舶、土木建築、さらには自動車にも用途が広がりつつある。2006年の消費量は年間2万8000トン。コストやリサイクルのしやすさ等にまだ課題はあるが、東レは2010年には4万8500トンまで拡大すると見込んでいる。
- 東レ株式会社
- 本社:東京都中央区日本橋室町2-1-1日本橋三井タワー
- 創業:1926年1月
- 代表者:代表取締役社長 榊原定征
- 資本金:約969億円(2007年3月末現在)
- 従業員数:3万6553人(連結、2007年3月末現在)