Macworld Expoの基調講演が始まって1時間42分ほど経った頃、あのかっこいいスティーブ・ジョブズCEOが突然、某漫画の“シェー”にも似た、奇妙なポーズを取り始めた。IT業界のカリスマ経営者に一体何が!?
話題の携帯電話『iPhone』などが発表された、今回の基調講演。iPhoneの真の魅力はスティーブ・ジョブズCEO自らのデモを見なければ語れないという多くの人が、アップルが提供する基調講演のビデオストリーミング(外部リンク)にアクセスして、インターネットで中継を見たことだろう。
今回の基調講演では、とにかく多彩なゲストが登場した。米グーグル(Google)社のCEOでアップル社外取締役のエリック・シュミット氏や、米ヤフー!(Yahoo!)創業者でチーフ・ヤフー!のジェリー・ヤン氏。だが、数々のゲストの中で、もっとも不評を買ったのが米AT&T社を買収して、全米最大の携帯キャリアに成長し、iPhoneの米国内唯一の提携パートナーともなった米シンギュラー(Cingular)社CEO、スタン・シグマン氏のスピーチだ。
ポケットに隠していた台本を棒読みするだけの退屈なスピーチで、とにかくダラダラと長い。話している途中で「早く帰れ」と言わんばかりに、拍手が起きたほどだ。短気なスティーブ・ジョブズが最後まで辛抱強く聞いているのを見て、シンギュラーとの間にはよほど大きなお金のやりとりがあったのだろうと勘ぐる人も少なくない。
事件は、このシグマン氏の長〜いスピーチの後に起こった。ステージに返り咲いたジョブズ氏が、リモコンを持ってスピーチを始めようするが、Macのハードディスクがスリープしてしまったのか、まったく反応ナシ。リモコンを変えたり、いろいろと工夫をするがやはり動かない。
以前はこうした“事件”の後は、怒り狂って社員をクビにしていたジョブズ氏だが、今回はそんな自分の性格を知る観衆達に向かって「今頃、舞台裏はテンヤワンヤだ」と笑って見せ、「あれは私の高校の頃………」と突然、今回の発表とはまったく関係のない話を切り出してみせた。
話の内容はこんな感じだ。
ジョブズが高校生の頃、スティーブ・ウォズニアックと一緒につるんでよくイタズラをした。当時、カリフォルニア大学バークレー校の学生だったウォズニアックが『TV Jammer』という機械を発明したのだ。
これはボタンを押すと障害電波が発生し、周囲にあるテレビが見えなくなるという代物。ジョブズとウォズニアックの2人は、バークレー校の学生寮でテレビを楽しむ学生を見かけると、よくこの装置を使って電波を妨害していたのだ。
まずはTV Jammerで妨害電波を発生させる。学生が映像を直そうとテレビに近づき、何かの拍子に片足を上げたタイミングを見計らってTV Jammerを解除。一時的にテレビを見られる状態にするが、その学生が再び足を下ろすと画面を乱す。
これを繰り返して学生に「片足を上げたままだと映像が乱れない」ということを思い込ませて、ジョブズが基調講演の壇上で取ってみせたような変なポーズをさせたのだ。
場内はこのエピソードに大爆笑。ジョブズが、お堅そうなシンギュラーのシグマン社長とは、まったく別世界の出身であることを印象付けるエピソードとなった。
今回の基調講演では、これ以外にもいくつかイタズラが飛び出した。例えば注目のiPhoneを発表した直後、ジョブズは「これがiPhoneだ」と初代iPodのホイール部分にアンティーク電話のダイアルが埋め込まれた写真を披露した。
場内の“わかる”観客は大爆笑していたが、ジョークの通じなさそうな人達は目が点になっていた。
iPhoneのGoogle Maps機能のデモでは、モスコーンセンター周辺のスターバックスコーヒーの一覧を表示させ、そのうちの一件にイタズラ電話をしてみせた(基調講演会場の周辺は、スターバックスだらけなのだ)。
年はとってもイタズラ心は忘れない。それがジョブズのカリスマ性の秘密なのかもしれない。