有力な生成AIのひとつ、Claudeを開発・提供しているアンスロピック社(Anthropic)のCEOが、ホワイトハウスを訪問した。
アンスロピックは昨夏から、米軍の軍事行動や国民の大規模監視へのAIの利用をめぐり、国防総省などと対立していた。同社が軍事行動へのClaudeの提供を拒否したため、米政府は同社を「サプライチェーン上のリスク」にあたるとして、国防総省との契約を禁じていた。こうした中で、米国政治を専門とするウェブメディアAXIOSは4月17日、同社のダリオ・アモデイCEOがホワイトハウスを訪問し、スージー・ウィルズ首席補佐官らと面会すると報じた。
アンスロピックが指定された「サプライチェーン上のリスク」は通常、敵対または緊張関係にある国家の企業などが指定されるものだ。それだけに、同社と政府の亀裂は相当に深いものだと思われたが、急きょ関係の修復モードに入ったようにみえる。どうやら雪解けのきっかけは、同社が開発したAIの新しいモデルMythosだったようだ。このモデルは強力すぎて、数千件におよぶ主要なOSやウェブブラウザのぜい弱性を発見したため、ハッキングなどに使われるおそれがあるとして、同社が一般公開を見合わせていた。
悪意のある人や組織が、Mythosをうまく使えば、金融機関や重要インフラを担う企業のシステムもハッキングされてしまうかもしれない。同社が公開を見合わせたのはこれが理由だったとされるが、反対に、それほど強力なら、政府がぜひ使いたいと考えたとしても不思議ではない。
すでに限定公開は始まっている
アンスロピックは2025年7月、国防総省との間に総額約2億ドルの契約を締結したが、米軍側が「合法的な目的への無制限の使用」を求めたところ、同社はこれを拒否した。同社は、AIが操作するドローンが自律的に攻撃目標を定め、攻撃を実行する方針について、攻撃対象の選択を間違えるおそれがあるとして拒否していた。また、米国民の大規模監視にAIを利用する方針にも反発していた。しかし、2026年2月末にはじまったイランへの攻撃でも、同社のClaudeは攻撃対象の選定などにフル活用されたと報じられている。
こうした経緯から、アンスロピックは、米政府に敵視される存在だったが、冒頭で述べたように、新型のモデルMythosの登場で流れは一気に変わった。同社は現在、ごく限られた大手IT企業や、サイバーセキュリティ関連企業にのみMythosのプレビュー版を提供している。Mythosは、OSやアプリケーション、ブラウザなどのぜい弱性を発見するだけでなく、それを実際に悪用するのに必要なコードも自律的に書いてしまうとされる。
2026年4月18日には、アモデイ氏がホワイトハウスを訪問し、ウィルズ首席補佐官やベッセント財務長官と面会した。同日付のAPの報道によれば、ホワイトハウス側は「生産的で建設的」な議論がされたとし、同社側も声明で、「米国政府は、サイバーセキュリティ、AI開発競争における米国の優位性、AIの安全性といった主要な共通優先事項について協力して取り組むことができる」と述べたとされる。複数の報道から、アンスロピックと米政府側は、Mythosを含む同社のAIを政府が利用する際の条件について、詰めの交渉を進めていると考えられる。
さらに、19日付のAXIOSは、政府がアンスロピックをブラックリストに掲載しているのにも関わらず、国家安全保障局(NSA)は、すでにMythosのプレビュー版を使っていると報じた。このニュースが事実であれば、サプライチェーン上のリスクとしての指定は、ほとんど意味をなさなかったことになる。
グーグル、アップルなどと組み大規模プロジェクト
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