国家がサイバー攻撃に対処する際には、守りが強調されることが多い印象があるが、トランプ大統領にそれは当てはまらないようだ。
米政府は2026年3月6日、『トランプ大統領のアメリカのためのサイバー戦略』を公表した。政策文書に「トランプ大統領の」と「アメリカのための」という言葉が入るのは、トランプ政権らしい。
注目すべきなのは、トランプ政権のサイバー戦略の対象が、サイバー空間にとどまらない点だ。「我々は、アメリカに対するサイバー空間の脅威を無力化するために、迅速、慎重、そして積極的に行動する。我々の対応を”サイバー”領域だけに限定することはない」と述べている。
つまり、サイバー空間であっても、米国に手を出すなら、陸海空の軍事力の行使もいとわず、無力化すると言っている。米国のメディアの報道や、シンクタンクの分析を確認すると、サイバー空間における先制攻撃も辞さない姿勢を表明したものとの受け止めがある。
さらに、この戦略文書は冒頭で、「他の政権とは異なり、トランプ政権は、増大するサイバー脅威の数と深刻さを放置するような、表面的な対応や中途半端な措置、曖昧な戦略をとることはない」とも述べている。この記述は、名指しこそさけているものの、具体的な国家や組織を想定しているようにも思わせる。
明らかに中国を想起させる「低コストAI」
トランプ政権のサイバー戦略は、A4版で7ページ、実質的には4ページと非常に短い文書だ。読み進めていくと、以下のように、明らかに中国を想定していると考えられる記述がある。
「我々は、言論の自由の制限と戦う。検閲、監視、イデオロギー的偏向が組み込まれた『低コスト』なAIやデジタル技術を販売する敵対者に打ち勝つ」
この記述は、何度読み返しても、DeepSeekに代表される中国製AIを名指ししているとしか思えない。中国製のAIは性能の面で、ChatGPT、Gemini、Claudeといった米国勢に肉薄する一方で、コストの安さで知られている。ただし、中国政府に好意的な回答を生成しがちだと言われている。「イデオロギー的偏向」という記述は、中国製AIのこうした傾向を指しているのだろう。
次に注目したいのは、「民間部門に対し、敵対的なネットワークを特定・妨害するインセンティブを与え、国家的な能力を拡大させることで、その力を解き放つ」という記述だ。「敵対的なネットワークを特定・妨害」という業務は、パランティアがこうした業務を遂行するための基盤システムを国防総省などに提供していることが知られている。
人間に代わって、様々な業務を自律的に実行するエージェンティックAIの活用についても明記している。「エージェンティックAIを迅速に採用・推進する。サイバー外交を通じて、AI(特に生成AIとエージェンティックAI)にイノベーションと世界の安定を促進させる。」
AIの開発と利用については、明らかに政府よりも民間が先行している。トランプ政権としては、パランティア、OpenAI、グーグルといった米国のIT大手の技術をフル活用し、サイバー空間における優位を維持したいのだろう。
「戦略というより目標」というツッコミも

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