参考写真 Andrey Matveev | Unsplash
メモリの価格が大変なことになっている。
ウェブには、メモリの価格が3倍になったとか、1ヵ月で倍になったといったニュースがさまざまなメディアに掲載されている。玉石混交のニュースの中、押さえておくべきなのは、2025年11月17日のロイターの記事だろう。韓国のサムスン電子が、データセンター向けのメモリの一部について、9月と比べて約60%値上げしたと報じている。
同じく韓国では、毎日経済新聞の英語版が11月27日、サムスン電子のDDR5のメモリ(16GB)が、9月末と比べて3倍近くまで値上がりしたと報じている。DDR5は、PCやサーバーに使うメモリの規格だ。
半導体やITを専門とする台湾の調査会社Trend Forceは12月5日、メモリ価格の急上昇を受け、レノボ、デル、HPというPC世界最大手3社がいずれも12月中旬以降に、値上げに踏み切る計画だと報じた。この記事によれば、デルはPCの価格を15~20%値上げするという。
価格が急騰している要因は何か。Open AIやグーグルといったAI大手各社が、世界各地でAI用のデータセンターの建設競争を繰り広げている。メモリやストレージを製造するメーカー各社は、製造ラインの多くをデータセンター向けに振り向けているため、PC向けのメモリの供給が不足し、価格上昇の原因になっていると説明されている。
ただ、価格上昇の要因はAIをめぐるIT大手の競争だけにとどまらない。現在のメモリの価格上昇は、米中対立、インフレ、円安などさまざまな要因が複雑に絡み合っている。しかも、価格の上昇傾向は、長くなりそうだという予測が大勢を占めている。
半導体の価格が下がる時代が終わった
メモリの価格の長期のトレンドを調べたところ、公的な機関による公表資料はほとんど見つからない。民間の調査会社による価格調査は行われているが、高額の料金を支払わないと閲覧できない。
代わりに、米国のセントルイス連邦準備銀行が公表している「半導体および関連デバイス製造」の生産者物価指数というデータを紹介したい。メモリそのものだけでなく、かなり広いカテゴリで、CPUもGPUもパワー半導体も入る。1984年12月1日から毎月、セントルイス連銀が公表している由緒正しいデータだ。
1984年の半導体と関連デバイスの製造原価を100とした場合、最新の2025年9月は59.8だ。長期のグラフをみると、1993年4月から下落傾向が始まり、2020年10月まで続いている。メモリ市場の長期の価格下落のきっかけは、日本勢から韓国勢への覇権の移行だと言われている。それまでNECや東芝が高品質・高価格の製品で覇権を握っていたが、サムスン電子を中心とした韓国勢が低価格攻勢を仕掛け、長期の価格下落のきっかけになったようだ。
半導体と関連製品は、年を経るごとに性能が向上し、価格も下落するという時代が四半世紀以上続いていたが、2020年のコロナ禍をきっかけに、その時代は完全に終わった。セントルイス連銀の指数は2020年10月、53.8で底を打った。この時期は、コロナ禍で半導体の供給がストップしたことで価格上昇に転じた。
さらに、2022年11月にOpenAIがChatGPTを一般公開したことで、本格的な生成AIの開発競争がスタートし、現在までの価格上昇に拍車をかけたと理解していいだろう。以下は、2019年から2025年のセントルイス連銀の指数をグラフ化したものだ。
底値にあたる2020年10月と2025年9月の最新データを比較すると、11.1%上昇している。3倍とか2倍といった極端な上昇は反映されていないように見えるが、セントルイス連銀の指数にはメモリだけでなく、CPUから太陽電池まで幅広い製品が含まれるからだ。
高止まりが続く気配

この連載の記事
- 第365回 33兆円シリア復興マネー、VISAとマスターが争奪戦
- 第364回 暗号資産、金商法で規制へ 何が変わる?
- 第363回 高市政権、21.3兆円経済対策 AIと量子に積極投資
- 第362回 NVIDIAジェンスン・フアン氏「AIで中国が勝つ」の真意は
- 第361回 日本のステーブルコイン、メガバンクvs.スタートアップの構図に?
- 第360回 欧州、デジタルユーロ発行へ本格始動 2029年実現目指す
- 第359回 高市首相が狙う“テクノロジー立国” AI、半導体、スタートアップを総合支援
- 第358回 AIブームで電力需要急騰 電気代の値上げの足音
- 第357回 中国がレアアース規制強化、トランプ政権と対立深める
- この連載の一覧へ



























