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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第360回

欧州、デジタルユーロ発行へ本格始動 2029年実現目指す

2025年11月04日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 欧州がデジタルユーロの発行に向けた動きを加速させる。

 欧州中央銀行は2025年10月30日、2029年中のデジタルユーロの発行を目指す方針を明らかにした。欧州中銀によれば、2026年中にデジタルユーロに関連する法整備を進め、2027年に試験的な発行を始めるという。

 欧州の動きは、中央銀行が自らデジタル通貨(CBDC)を発行し、官主導で決済のデジタル化を進めるものだ。中国は欧州に先行して、2022年1月にデジタル人民元の発行を開始している。

 一方、日本では10月27日に、国内初の円建てのステーブルコインJPYCの発行が始まった。

 日本政府もCBDCである「デジタル円」の発行に向けた議論はしているものの、どちらかというと、民間企業が主導して、ステーブルコインで決済のデジタル化を進めていく流れが強いように見える。米国も現時点では、CBDCよりもステーブルコインを重視する政策に舵を切っていると考えられる。

 今後、ステーブルコインを重視する国・地域と、CBDCを重視する国に2極化していくのだろうか。

似て非なるステーブルコインとCBDC

 CBDCとステーブルコインは、よく似ているが根本的に性質が異なるものだ。

 CBDCの要件について、日銀は、公式サイトの「教えて!にちぎん」というコーナーで次のように説明している。

  • デジタル化されていること
  • 円などの法定通貨建てであること
  • 中央銀行の債務として発行されること

 1と2はまあ分かるとして、3がちょっと分かりづらい。3は、中央銀行が自ら通貨を発行し、その価値を保証するという意味がある。つまり、1万円札は1万円分の価値を持つことを、日銀が保証し、100ユーロ札は100ユーロ分の価値があることを、欧州中銀が保証している。

 ユーロ建てのステーブルコインは、すでに複数の種類が発行されている。Circleという企業が発行するEURC (Euro Coin)が現在、もっとも時価総額の高いユーロ建てのステーブルコインだ。このEURCとデジタルユーロを並べてみると、どう違うのかがはっきりするかもしれない。

デジタルユーロ EURC
発行主体 欧州中央銀行 Circle(民間企業)
裏付け 欧州中銀の信用 ユーロ建ての現金、預金、債券など
ネットワーク 専用のネットワーク ブロックチェーン

 デジタルユーロは、欧州中銀が発行し、専用のネットワークを構築する計画だ。したがって、CBDCの発行も流通も欧州中銀が一元的に管理する、「中央集権的」なシステムになる。一方、EURCなどのステーブルコインは、民間の企業などが発行し、公開性のあるブロックチェーン上で流通する。Circleという発行主体は存在するが、流通については「分散型」のシステムと言える。

「だれでもアクセスできるデジタル通貨」は実現できるか

 デジタルユーロは、中央銀行が発行するデジタル通貨である以上、だれでも簡単にアクセスできるシステムであることが、絶対条件になるはずだ。

 欧州中銀は10月30日に、『デジタルユーロ・ユーザー調査』というレポートを発行している。おもに小規模の商店やレストラン、企業、デジタル通貨へのアクセスに困難を抱えることが想定される個人を対象に、インタビューを実施している。

 このレポートに登場する商店やレストランは、日本に置き換えると、現金とPayPayだけが使える商店が近いのではないだろうか。PayPayの場合、決済端末がなくても、QRコードがあれば、決済ができる。

 ユーロ圏の商店やレストランの経営者たちも、手数料が少なく、ユーザーが多く、大手の銀行のような信頼性の高いプロバイダーが運用を担っていること、複数のプロバイダーを使い分ける必要がないことなどが、導入の条件になると考えているようだ。

 さらに、個人へのインタビューの結果からは、決済の仕組みが難しくないことや、携帯のネットワークがつながらないときでも使えることなどが、導入の条件となりそうだ。そうなると、スマホのアプリは、スマホに不慣れな人でも使いやすい設計となることが求められる。クレジットカードのカードリーダーのような端末を使わず、客のスマホと商店主のスマホの間の通信で決済が完了するシステムなどが有力な候補となるのではないか。

 ユーザー調査の結果を読むと、「だれでも使える」というCBDCの条件を実現するのは、かなりハードルが高そうだ。

「実はやりたくない」CBDC

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