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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第358回

AIブームで電力需要急騰 電気代の値上げの足音

2025年10月21日 07時00分更新

文● 小島寛明

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参考写真 wal_172619 | Pixabay

 AIに関連するニュースでは、新しいモデルの性能に注目が集まるが、膨大な計算に必要な電力をめぐる動きも注目したい。米国を中心に、電力需要の急増により、供給が追いつかない事態への懸念が高まっている。

 米国は石炭火力で電力の供給不足に対応する方針を打ち出している。英ガーディアンによると、「石炭産業の復活」を掲げるトランプ政権は9月29日、石炭産業に6億2500万ドルの資金を補助する政策を発表した。石炭火力発電所を「近代化」するプロジェクトや、石炭火力発電所の寿命を延長する改修プロジェクトに対して政府が補助金を出すという。

 余った電力をデータセンターに優先的に供給することで、AI向けデータセンターを誘致する動きも目立つ。2025年10月15日のロイターによれば、ラオス政府は、水力発電で余った電力を仮想通貨(暗号資産)のマイニング用のデータセンターに供給する政策を2021年に打ち出したが、2026年に供給を停止する可能性を示唆した。同国は今後、マイニングではなくAIデータセンター、電気自動車、鉱業といった、より経済成長に寄与する可能性のある分野に電力を供給するとしている。

 このニュースは、実は個人の家計にもつながっている。AIデータセンターの電力需要は今後さらに増加する見通しで、世界的に電気料金の高騰の原因となりうるという見方もある。

データセンターの電力消費、5年で倍増を予測

 AI関連の事業は、どのくらい電力を消費しているのだろうか。

 国際エネルギー機関(IEA)が2025年4月に発表した『AIとエネルギー』というレポートがある。このレポートによれば、2024年の時点で、AI向けを含むデータセンター全体で、世界の電力消費量の約1.5%にあたる415テラワット時(TWh)を占めている。

 AIの需要拡大により、データセンターが消費する電力は年間15%ほど増え、2030年にはおよそ2.27倍の、約945 TWhに増加すると予測している。さらに2035年には、2.89倍の約1200TWhに達するという。ざっくり言って、2024年を起点に、5年で2倍、10年で3倍近くの電力が消費されることになる。

 電力の需要の増加の大部分は、米国と中国での需要の増加が要因とされる。OpenAIを中心とした米国のAIに対し、中国のDeepSeekが激しく追い上げているが、両国の競争の激化が電力需要にも反映されている。

ラオス、中国の電力供給を肩代わりか

 AIをめぐる米中の競争が激化し、電力需要も急増している現状で、ラオスの動きには注目しておきたい。

 東南アジアにあるラオスは、中国と国境を接している。政治的にも、経済的にも両国の関係は緊密であるとみられている。

 ラオスは2021年秋、仮想通貨の取引やマイニングの許可制を導入した。同国は水資源が豊富で、100ヵ所を超える水力発電所がある。国内の需要を大きく上回る電力の供給能力があることから、2021年以降、マイニングのためのデータセンター誘致も推進した。

 一方、隣国の中国は、2021年9月に仮想通貨の取引とマイニングを全面的に禁止した。この結果、中国系のマイニング事業者が次々とラオスにデータセンターを建設した。2023年には干ばつでラオスの水力発電所の水量が不足したため、十分な電力を供給できなくなり、一時的にマイニングのセクターに対する電力の供給を停止している。そして2025年10月には、電力供給をマイニングからAIや電気自動車などのセクターに移行する方針を示している。

 仮想通貨のマイニングを巡る経緯から、ラオス政府の動きはある程度、中国と連動しているように見える。そう考えると、中国でAIの開発が加速し、電力需要が急増している中で、需要の一部をラオスが引き受けることになったとも考えられる。

 今後、ラオスに中国系のデータセンターが次々に建設されることになるとみて、ほぼ間違いないだろう。

日本でも電力需要は増加が続く

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