ゆうちょ銀行が、2026年度中をめどに「トークン化預金」を取り扱う検討を始めたと発表した。
ゆうちょ銀行がトークン化預金の検討について発表したのは2025年9月1日のことだ。同行単独ではなく、ディーカレットDCPとの連名で発表している。ディーカレットDCPは、上場企業インターネットイニシアティブ(IIJ)の関連会社だ。IIJという名前は、一定の年齢以上の方々には懐かしく響くのではないか。1992年創業の同社は、インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)の先駆けとして知られる。
若干ややこしいのだが、ディーカレットDCPの親会社としてディーカレットホールディングスという企業がある。IIJを筆頭に、NTT、三菱UFJ銀行、ゆうちょ銀行、SBIホールディングスといった日本を代表する企業がディーカレットホールディングスに出資している。
ディーカレットという名前は6年前、仮想通貨(暗号資産)でSuicaの残高をチャージできる機能を検討しているという報道が記憶に残っている。実際、東日本旅客鉄道(JR東日本)もディーカレットホールディングスの株主に入っている。仮想通貨チャージの構想はその後立ち消えになり、ディーカレットは2022年に暗号資産事業も売却。デジタル通貨に専念するという方針を明らかにしていた。
前置きが長くなったが、このディーカレットDCPとゆうちょ銀行が「検討」しているのがトークン化預金ということになる。トークン化預金とは、預金をトークン化して、ブロックチェーンで送金できる仕組みだ。最近話題になっている「ステーブルコイン」と似ている点があるが、ステーブルコインとは考え方が異なる。この説明だけでは、率直に言ってよくわからない。トークン化預金を理解するには、説明としては不十分だ。
そもそも「トークン化」が分からん
そもそも筆者には、「トークン」(token)という言葉が分かりづらい。ネットの英和辞書で調べると、引換券や代用貨幣といった訳語が掲載されている。10年近く前になるが、仮想通貨や金融のデジタル化に詳しい弁護士に、「トークンという言葉を記事に書くとき、どう説明するべきか、いつも悩みます」と相談したことがある。この弁護士は、「引換券がよいと思います」とアドバイスしてくれた。
Googleの画像検索でトークンを調べてみると、カジノのスロットで使うメダルの画像が一番上に出てきた。日本では、パチスロのメダルに当たるだろう。パチスロのメダルは1枚20円が標準的なレートのようだ。このメダル(トークン)を現金の代わりにスロットマシンやパチスロの機体に投入して遊ぶことができる。幼い子どもが両親に発行する「肩たたき券」もトークンの一種と考えられる。
では、ゆうちょ銀行による預金のトークン化はどのような構想なのだろうか。この仕組みを使う企業や個人は、ゆうちょ銀行の預金をデジタル通貨DCJPYに交換する。DCJPYは、日本円の預金に交換できる引換券(トークン)に相当する。このDCJPYは、ディーカレットDCPが中心となって開発されたデジタル通貨だ。ユーザーの銀行の預金が原資となるため、交換レートは1DCJPY=1円となる。
たとえば、DCJPYを利用している企業2社の取引であれば、送金はごく短時間で完了し、送金はブロックチェーンに記録される。DCJPYの仕組みは、取引関係にある2社が、同じ銀行の口座を使っている場合を思わせる。2社が、同じ銀行の口座を使っていれば、他行に送金するより振り込みにかかる時間は短く、手数料も安い。
ステーブルコインよりも「おカタい」仕組み
トークン化預金の仕組みは、既存の銀行の預金と口座振込によく似ているが、大きく異なるのは、ネットワークの広がりだろう。銀行の振込の場合、短時間の振込と安価な手数料は、取引関係にある2社が同じ銀行に口座を持っていることが条件になるだろう。

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