パランティア(Palantir)という米国企業への注目が高まっている。
パランティアは、AIを用いたビッグデータの解析や、予測モデルの開発などで知られる企業だ。米国の企業やテクノロジーに関連するニュースでは、週に何度も目にする名前だが、日本での知名度は、いまいち判然としない。
軍や大企業向けのサービスが主力で、グーグルやアップルのように、だれもが日常的に触れるサービスや製品がないからだろう。しかし、少なくとも米国のテック企業、米国株、安全保障に関心のある人には、耳慣れた名前だろう。パランティアの株は近年、爆上がりしている。
2025年7月31日のロイターの報道によれば、米陸軍が数十件の契約を、パランティアとの契約に一本化する方針を明らかにした。複数の米メディアの記事を確認すると、米陸軍内部で各部門がさまざまなソフトウェア企業と契約を締結しており、契約が重複するといったムダも生じているようだ。この「数十本」の契約をパランティアに一本化することで、ムダを削減し、いち企業との大口契約に切り替えることで割引も受けられるという。米陸軍はさらに、今後10年間で100億ドル(約1兆4800億円)相当の同社のソフトウェアを購入するオプション(選択権)も得たとされる。
このニュースだけでも、この企業が米軍に食い込んでいることがわかる。米軍との関係の深さから、欧州ではパランティアに対する警戒感も高まりはじめた。パランティアとは、どのような会社なのだろうか。
軍事、金融、犯罪… 威力を発揮する予測システム「ゴッサム」
パランティアについて理解を深めるうえで、まずは、少しAIに聞けばわかることから確認しておきたい。その歴史は、浮沈の激しいIT企業としては長く、2003年に創業されている。PayPalの創業メンバー、あるいは投資家として知られるピーター・ティールが創業メンバーに名を連ねている。
原点は、決済サービスPayPalの不正検知システムだ。決済サービスは、あるアカウントから別のアカウントに資金が移動するが、そのパターンや、取引履歴、顧客情報、通信記録といった膨大な情報を解析し、不正の可能性がある取引について警告を発する。こうした不正検知のシステムは、多くの企業が提供しているが、パランティアは、その検知システムの精度の高さで信頼が高いとされる。
現在、パランティアが最も取引を拡大しているのが、各国の軍隊を顧客とする予測サービスだ。人工衛星からの画像データだけでなく、アクセスが可能な監視カメラの映像、周辺に配置されている部隊からの報告など、入手可能なあらゆる情報を結びつけ、攻撃が発生する可能性を計算する。ゴッサム(Gotham)と名づけられたパランティアのプラットフォームは、米軍だけでなく、CIA(米中央情報局)、FBI(米連邦捜査局)、NATO(北大西洋条約機構)軍などが導入しているとされる。また、ロシアとの戦争が続くウクライナ軍にも導入されているという。
警察では、過去の犯罪の発生記録、犯罪グループの分布、麻薬の取引が行われている位置情報など多くの情報を基に、犯罪が起きる確率の高い地域を可視化し、パトロールを効率化するといった活動にも使われているようだ。
各国の軍隊や警察がどのようにパランティアのサービスを活用しているのかについて、具体的な情報は限られているが、少ない情報に接するだけでも、軍(自衛隊)や警察の幹部が「導入したい」と感じさせるサービスを提供していることがわかる。
この「ゴッサム」は、バットマンの舞台であるゴッサム・シティが元ネタであるようだ。悪と戦うバットマンの姿になぞらえ、予測システムは「ゴッサム」と名付けられたという。
パランティアへの反発と懸念も
膨大な、機密情報や個人情報を関連付け、犯罪の発生やテロ攻撃の発生などを予測するシステムに対しては、すでに反発と懸念の声も上がっている。8月1日の時事通信によれば、ドイツでは全国の警察にゴッサムを導入する計画があるが、反対の声が出ているという。

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