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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第329回

ドローン航路、埼玉と静岡で開通 安全性がポイントに

2025年04月01日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 ドローンの航路が2025年3月26日、静岡県浜松市と埼玉県の秩父エリアに開通した。

 「ドローン航路」とは、河川や送電線の上空を、ドローンが行き交う航路として設定し、医薬品や製品など配送に活用する計画だ。2月25日のNHK静岡放送局の動画を確認すると、浜松市内の山間部の診療所で医師の診察を受けた患者が、ビデオ通話で薬剤師と通話する。その後、自動操縦のドローンが天竜川の上空を飛行し、医薬品を運んでいた。

 この取り組みは、あらかじめドローンが飛行するルート(航路)を設定し、その航路であれば、事業者による行政への申請など手続きにかかる負担が軽減される。また、あらかじめ航路が決まっていることで、万が一、ドローンが墜落したとしても、墜落する地点は河川の水面など航路の周辺にとどまり、地域住民のリスクは最小化されるという考え方だ。

 浜松市の事例のように、人口減少や高齢化が進む地域への物流の活性化が期待される取り組みだが、今回のニュースは、関係者ごとに表現に若干の温度差がある。NHKは「全国に先駆けて」という書きぶりだが、東京大学は実際にプロジェクトに主体として関与しているだけに、「世界初」という強めの表現を使っている。

ドローン航路は「駅と線路」のイメージ

 浜松市では河川の上空をドローンが飛行する航路だが、秩父エリアではドローンが送電線の上空を飛ぶ。こちらのエリアでは当面、日常的な送電線など電力関連の設備の点検などにドローンを活用する計画だ。

 新エネルギー・総合技術開発機構(NEDO)が2024年11月6日に公表した「運用概念」に関する資料によれば、ドローン航路は離着陸の拠点を「駅」、実際にドローンが飛行する航路を「線路」に見立てて計画が策定されている。

 浜松市の事例では、現時点では市内の公共のホールと診療所を結ぶ約22キロのルートなどが航路として設定されている。経済産業省の資料では、道の駅、高速道路のサービスエリアやパーキングエリア、民間の物流センター、道の駅、郵便局などが「ハブ」になりうる施設と想定されている。つまり、こうした施設をドローンの離着陸拠点として利用していく考えだ。

 携帯キャリアのKDDIは2024年2月、ローソンに5000億円を出資すると発表しているが、両社もドローンの活用に向けた準備を進めている。実際、KDDIは浜松と秩父のプロジェクトに参画しており、同年10月には、両社は秩父市内でドローンを用いた商品配送の実証実験を実施している。

 民間企業の動きと、経産省などの計画を総合すると、今後、コンビニなどもドローンの「駅」に加わり、徐々にドローン航路のネットワークを広げていく動きが加速すると考えられる。

気になる安全性

 ドローン航路の開通は、商用ドローンの本格的な社会実装が近づいていると実感させるニュースだ。そうなると、気になるのはドローンの安全性だ。

 ドローンが墜落し、人間が巻き込まれた事故は世界各地で起きている。2017年11月には、岐阜県大垣市で開かれていたイベントで、ドローンが墜落し、観客ら6人が軽傷を負っている。米国では、墜落事故で重傷者も出ている。

 今回の浜松市の事例から思い出すのは、アフリカのユースケースだ。Zipline Internationalという米国のスタートアップ企業が、ルワンダやガーナの首都や大都市にドローンの離着陸拠点を設置。各地の医療機関から医薬品や血液のオーダーが入ると、ドローンで配送するサービスを実施している。このZipline社は2022年、大手商社の豊田通商に技術提供し、長崎県の離島である五島列島で、医薬品を空輸するサービスにも参入している。Ziplineは今後の成長が期待されるユニコーン企業のひとつではあるが、調べてみると、同社のドローンが墜落する事故が、ガーナで発生している。

 河川の上空を航路に設定する以上、河原で遊んでいる子どもたちの頭上にドローンが落ちてくるという事態は起きてはならない。大きな事故が起きれば、ドローンの活用に向けて官民の関係者が進めてきた膨大な努力に急ブレーキがかかりかねない。

 NEDOの「運用概念」によれば、周辺住民への周知は地方自治体が責任を負うとされている。ドローンが飛ぶ際には、河原や送電線の周辺から離れるように役所が放送などで周知するのだろうか。

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