SBIホールディングスの子会社が、ステーブルコインを取り扱う「電子決済手段等取引業者」として関東財務局に登録された。
暗号資産(仮想通貨)の交換業などを事業としているSBI VCトレード社が、2025年3月4日付で発表した。同社は今後、国内で初めてステーブルコインのひとつであるUSDC(USDコイン)を取り扱うこととなる。3月12日から、利用者を限定してサービスを開始し、段階的にサービスを拡大していく方針だ。
かなり多くの前提知識が求められるニュースだ。ステーブルコインが、米ドルなどの資産を裏づけとして、おおむね1単位あたり1ドルと同等であることを目指す特長があることは、広く知られるようになった。しかし、SBI VCトレード社が取り扱うことになったUSDCについては、現時点では日本国内での知名度は限定的なのではないか。電子決済手段等取引業者も、「第一号」の登録だけに、あまり耳慣れない制度だろう。一つずつ、丁寧に読み解いていきたい。
USDTとUSDC
おそらく、ステーブルコインの中でもっとも知名度が高いのは、米ドルと連動するテザー(USDT)だろう。USDTは、時価総額21兆1300億円で、ステーブルコインとして最大の規模がある。一方、USDCは、8兆6千億円と時価総額で2番目の規模があるステーブルコインだ。
SBI VCトレードがUSDCの取り扱いをはじめるというニュースは、USDTとUSDCを比較することで、理解を深めやすいのではないかと考えた。まず、USDTは2014年、USDCは2018年に取引が始まっている。より歴史のあるUSDTは、時価総額で大きく先行している。
USDTとUSDCの最大の違いは、透明性にあると言われている。USDTは、発行元のテザー社が、発行済みのステーブルコインの数%しか準備金を保有していないことが判明し、その信頼性が大きく揺らぎ、USDTの価値は1ドルを大きく下回った。その後、テザー社は保有する資産を積み増し、1ヵ月ごとの報告書の開示も始めている。ただ、テザー社の準備金には、現金や国債だけでなく、複数の仮想通貨などのリスクの高い資産が含まれているとされる。
一方、USDCの発行元であるサークル社は毎月、報告書を開示し、十分な準備金を保有していることを公表している。準備金の内訳も現金と短期の米国債のみにしており、USDTと比較して高い透明性があるとの評価を受けている。ただ、2023年3月にシリコンバレー銀行が経営破たんした際には、サークル社が同行に資産を預けていたため、USDCの信頼性にも疑問符がつき、一時的にUSDCの価値が1ドルを下回ったことがある。
電子マネーに代わる存在に?
過去に疑問符がついたことがあるとはいえ、USDTとUSDCは1ドルとほぼ等価を維持している。このため、日常の買い物、国境を越えた取引、国際送金などに利用できる可能性があると期待されており、実際に活用例も出てきている。
例えば、東南アジアの各国で広くライドシェアを展開しているGrabというサービスがある。Grabのユーザーは、USDCとUSDTでも支払いができる。つまり、次のような使い方が想定できる。ドルを持っている人が東南アジアを旅行する際に、ドルをUSDCやUSDTに交換しておく。街なかの移動にGrabを使い、ステーブルコインで支払いを済ます。帰国後、残ったステーブルコインを米ドルの銀行預金に戻す。ただし、現時点で、ステーブルコインで支払いができるのは、ごく一部のサービスに限定されている点には注意がいるだろう。
考えてみると、常に価格が激しく上下動している他の暗号資産と、ステーブルコインの性質は大きく異なる。そこで金融庁は、「電子決済手段」という考え方を採用した。
「電子決済手段」とは

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