オンラインカジノで賭け事をした疑いがあるとして、活動を自粛する芸能人やスポーツ選手が相次いでいる。
2025年2月5日、吉本興業が「コンプライアンス違反の疑いがあることが判明した」として、一部のタレントが活動を自粛するという「お知らせ」を公表した。このお知らせだけでは、何が起きているのか全くわからないのだが、その後、警視庁が、オンラインカジノで賭博をした疑いがあるとして、吉本興業所属の複数の芸人から事情を聴いたと、メディア各社が報じた。
現時点では、どの程度の広がりのある事案なのかは不明だが、15日のスポニチの記事によれば、「10人弱」の吉本興業所属の芸人が、警察の事情聴取を受けたという。その中で最も話題を集めているのは、2024年に史上初めてM-1で連覇を果たしたお笑いコンビ「令和ロマン」の高比良くるまさんだろう。令和ロマンは、自身のYouTubeチャンネルで謝罪動画を配信した。
1分43秒の謝罪動画で注目すべきなのは、高比良さんの認識だ。2019年末から2020年末までのおよそ1年間、高比良さんはオンラインカジノで賭け事をしていたことを認めている。そのうえで、インターネット上で流れていた広告を見て、「違法でないという認識をしてしまい、オンラインカジノをしておりました」と話している。この説明を素直に受け止めるとすれば、高比良さんの発言には、オンラインカジノを巡る問題の難しさが集約されているように見える。
「無料版」で客を集める巧妙な仕掛け
数年前、スポーツ専門の配信プラットフォームDAZNでサッカーを見ていると、元日本代表の吉田麻也選手が登場する「ベラジョン」というサービスの広告がしょっちゅう流れていた。ベラジョンは、カリブ海にあるオランダ領キュラソーを拠点とするオンラインカジノだ。ベラジョンのウェブサイトの説明によれば、ベラジョンだけでなく、「インターカジノ」やスポーツベッティングができる「遊雅堂」なども運営している。
オンラインカジノが規制されている日本をターゲットにした、ベラジョンの仕掛けは巧妙だ。ベラジョンのサービスには、「無料版」がある。無料版のサイトは、ギャンブルとは関係のないオンラインゲームのプラットフォームのように見える。
しかし実際には、ベラジョンのゲームは金を賭けることのできるスロットマシンなどだ。「無料ゲーム」の広告に著名人を出演させて客を集め、いつの間にかカジノの客にしてしまう。YouTubeでベラジョンの広告を確認すると、「無料版」であることが強調されている。
実際にプレーはしなかったため詳しい仕組みはわからなかったが、ユーザーは、無料で遊んでいるうちについ課金してしまう、普通のスマホゲームと変わらない感覚で利用できるように設計されているようだ。
海外口座からの送金なら違法ではない?
令和ロマンの謝罪動画で、もう一つ気になる点がある。高比良さんは「大学時代の知人から、海外の口座から送金すればオンラインカジノをやっても違法ではないという説明を受けた」という趣旨の説明をしている。筆者には、「知人」のこの説明もかなり巧妙に見える。
たとえばラスベガスに旅行して、カジノで賭け事をしたとしても違法にはならない。大きなカジノであれば、日本円を直接チップに交換することもできるだろう。日本人であっても、米国で合法に運営されているカジノの中で行われているギャンブルに参加するのは、違法とされない。
高比良さんの「知人」の説明は、オンラインカジノが合法に運営されている国の金融機関に口座をつくって、オンラインカジノに送金すれば、違法にはならないという趣旨だろう。海外旅行中のギャンブルがOKならば、海外口座を通じたオンラインカジノもOKだと錯覚した人がいたのかもしれない。実際には、どこにある口座から送金されたかにかかわらず、日本からオンラインカジノに接続してギャンブルをすれば、刑法の「賭博罪」などの犯罪とされる可能性がある。
この知人という人物がかなり気になる。芸能人やスポーツ選手といった著名人をオンラインカジノに勧誘するエージェントのような人たちが、日本国内にいるのだろうか。
芸人の聴取は「見せしめ」か

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