政治に対するSNSの影響が注目されている。日本では2024年、明らかにSNSが選挙結果を左右したとみられる選挙が複数あり、公職選挙法の改正に向けた議論が本格化しようとしている。
2024年に投開票された選挙を振り返ると、7月の東京都知事選では、元広島県安芸高田市長の石丸伸二氏が2位に躍進した。11月の兵庫県知事選では、斎藤元彦知事に対するパワハラ疑惑などを理由として県議会が不信任を議決したが、斎藤氏はSNSを中心に支持を広げ、再選された。11の名古屋市長選では、自民、立憲民主、国民民主、公明の各党が推薦した元参院議員を破り、日本保守党などが推薦した広沢一郎氏が、初当選を決めている。
3つの選挙で当選あるいは躍進した3氏に共通するのは、いずれも自民党、立憲民主党といった既成政党とは距離を置いている点、そして「デジタルボランティア」と呼ばれる人たちがSNS上で、特定の候補者に対する支援の投稿と拡散を繰り返した点にある。
こうした流れに対して、既成政党側は強い警戒感を抱いている。注目を集める選挙で収益を目的として特定候補を応援する内容の投稿をしたり、対立候補に対して誹謗中傷ととれる投稿をしたりするケースがあると指摘されているからだ。
自民党はすでに、選挙に絡む投稿について、どのような規制が可能か議論を始めているという。SNSでの投稿そのものを規制する制度は、憲法で定める言論の自由を制限することになりかねないため、制度設計は極めて難しい。このため、選挙に絡むSNSの投稿で収益を得る仕組みや、選挙に絡む誹謗中傷や虚偽の情報の拡散に対する規制について議論が加速するだろう。
「SNSの収益目的で候補者応援」は本当?
SNSが選挙に与える影響に関する議論で、新聞やテレビ、ネットメディアなどの記事を確認すると、収益化の仕組みに問題があると指摘する声がある。たとえば、11月23日付の毎日新聞の記事で、東北大の河村和徳准教授は次のように指摘している。
「広告収入など、ネットの伸長で選挙が稼げる『コンテンツ』になっている。印象的な投稿を続けると視聴回数が伸びて収益につながるという構図ができあがっており、ネット選挙のあり方について議論が必要だ」
12月12日の産経新聞の記事では、以下のように述べている。
「動画投稿サイト『ユーチューブ』やX(旧ツイッター)などには、動画再生数や投稿の表示回数に応じた収益配分システムがあり、視聴者数の増加が収益につながる。兵庫県知事選でも、収益目的で斎藤氏を扱う動画や投稿が激増した」
要するに、特定の候補者を応援したいから投稿、拡散をしているわけではなく、収益が目的だから問題だという指摘だ。しかし、Xの「収益配分プログラム」の中身を調べてみると、こうした指摘については疑問が残る。
Xの収益化は、儲かる仕組みか
Xの公式サイトによると、収益配分プログラムで収益を得るには、おおむね以下のような条件がある。
有効なプレミアムまたは検証済みの組織サブスクリプションを持っている
過去3か月以内に500万回以上のオーガニック インプレッションを獲得している
プレミアムのフォロワー数が500人以上である
Xが示す条件に出てくる「プレミアム」は、Xの有料アカウントだ。ベーシック、プレミアム、プレミアムプラスの3段階があり、プレミアムは月額で980円と設定されている。
Xでつぶやくだけで金を稼げるおいしい仕組みに見えるが、258万人のフォロワーがいるひろゆき氏が、自らの収益を月に10万円弱から15万円程度だと明らかにしている。ひろゆき氏が、日本国内でトップクラスのフォロワー数がいることを前提とすると、Xの収益配分プログラムは、それほど儲からないことがわかる。
兵庫県知事選は、ワイドショーなどで連日取り上げられてはいたが、あくまでも都道府県レベルの知事を決める選挙だ。収益そのものが目的化するほど、おいしい仕組みには見えない。都知事選の「石丸旋風」に絡み、石丸氏の関連動画の「切り抜き」をYouTubeなどに投稿することで、500万円を超える収益を得た人がいるという記事もあったが、話半分ぐらいに聞いておくことにしたい。
虚偽情報の拡散は止められるか
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