音質設計の担当者が語る、EAH-A1000の開発背景
記者向けの説明会には本機の開発に携わった音響設計、デザイン、マーケティングの各担当者が登壇し、技術的アプローチや意匠のこだわりなど、本機に込められた想いを語った。
音響設計を担当したパナソニックの武田理玖氏(コミュニケーションネットワーク事業部 ハード設計部 ハード設計九課)は、本機のために新開発された「40mm磁性流体ドライバー」の技術的背景を説明した。
すでに述べたように本機の磁性流体ドライバーは、ボイスコイルの内側に磁性流体を充填し、垂直方向のストロークを正確にする技術だ。空間を空気ではなく液体で満たすことで、振動子の横揺れを抑えることができる。
ただ、EAH-A1000が使用している磁性流体は従来と同じものではない。イヤホンよりも大型の振動板を大きな震幅で動かさないといけないこと、裏側に付けられたボイスコイルの筒が太くなり、充填する磁性流体の量が増加する、といった理由から、磁性流体が振動板の動作に与える影響が変化するというわけだ。
詳細はノウハウのため、非公開とのことだが、材料の選定やドライバー構造の最適化に向けた検証が繰り返されたという。
また、振動板のエッジ部分は低歪化のために、すでに紹介した、Hi-Fiスピーカーでも採用されているSST(Synmmetrical Surround Technology)エッジに加え、イヤホンで導入されてきたタンジェンシャル形状(切り込みによるエッジの柔軟性向上)を組み合わせている。
SSTというのはエッジに凹凸を設けて、前後に動いた際に空気を動かす体積を一手にするというものだ。一般的なエッジは、前面から見て盛り上がっているか、くぼんでいるかのどちらかだが、ドライバーは前に出た後、必ず後ろに下がるので、これだと動かす体積が一定にならない。そこでエッジを分割して、均等なくぼみとへこみを作っているわけだ。
振動板の素材には、軽量で高剛性、かつ適度な内部損失を備えたカーボンファイバーを採用している。形状は剛性の高い「ドーム+コーン形状」だ。ただし、カーボンファイバーは複雑な形状への成形難易度が高く、試作段階では成形後の変形が多発したとのこと。
コーン部の角度を寝かせる試作やラミネート加工をするといった多くの検証をしたが、これらは音質の低下を招いたため、やはり無加飾のカーボン素材の良さをそのまま活かすのがいいという方針が選択された。
最終的には、ドーム部に格子形状の補強を施すことで強度を高め、形状の安定成形と高音質の両立を果たしたという。
結果、正確で豊かな低音、高い解像度、自然な音場の広がり、そして余韻の正確な描写が実現したと武田氏は述べていた。
海外で展開していた従来機種(EAH-A800)では、一般的なPEEK/PU素材が用いられていたが、軽量でたわみにくいカーボン素材を採用した。さらに周辺部分をコーン型の形状にすることで、剛性を高めている。
シンプルながら優れた質感、上質なデザインへのこだわり
デザインを担当した工藤帆夏氏(パナソニック デザインセンター AVC部 コミュニケーションネットワークデザイン課)は、EAH-A1000の意匠における3つの重点要素(サーキュラーパーツ、フロアアーム、新色プラチナベージュ)について解説した。
まずは、ハウジングのトップ部に配されたサーキュラーパーツ。これは細かな溝を刻んだアルミ材にアルマイト処理を施したプレートであり、過去のTechnics製品のDNAを継承したものとなる。
加工した溝の深さや間隔、金属の光沢感の微小な違いが製品の印象に大きく影響するため、派手すぎず自然な上質感を持つ輝きを目指して、多数のサンプルを作り調整が重ねられた。中央のTechnicsロゴはゴールドの刻印にも存在感がある。
左が海外向けに展開していたEAH-A800のフェイスプレート。EAH-A1000では従来の無彩色のシルバーとは異なる、温かみのあるシルバー色を選択した。また、ゴールドのロゴを使用しているほか、スピンドルの入れ方なども異なる。EAH-A800は中央がとんがっているように見える。
フローアームの設計では、内部のバッテリーや電子部品による重量増加を抑えるため、強度が必要な部位に金属を使用するモノアーム(片持ち)構造を採用した。
アーム内部に配線コードと折りたたみ用ヒンジを収めるため、断面形状をハウジング根元は三角形、スライダー部は四角形へと流面的に変化させる構造を考案した。機構上の要請と強度の検証を重ねた結果、機能的でスリムな片持ち造形が導き出された。
本体カラーで注目したいのは、ブランドのユーザー像を広げるために用意した新色の「プラチナベージュ」だ。Technicsでは、海外向けに展開していた「EAH-A800」でもシルバーカラーを採用していたが、EAH-A1000では従来の無彩色のシルバーとは異なる、温かみのあるシルバー色を起こした。
この色を起こすうえで難しかったのは、ほんの少し温かみのあるシルバーの実現だ。黄色味が強すぎればシャンパンゴールドのような質感になってしまい、白味が強ければ冷たい印象になる。絶妙なバランスを追求しつつ、金属、樹脂、合成皮革など異なる素材間での発色や光沢感を統一するため、パーツごとの多数のサンプルを作成して微調整を繰り返したという。
結果として、スタイルや性別、年代などを問わずに様々なユーザーにマッチするユニセックスな質感を実現している。
Technicsブランドは、完全ワイヤレスイヤホンのEAHシリーズの投入以降、従来のファン層に加え、若年層やデジタル関心層へブランド認知が広がっている。今回のオーバーイヤーヘッドホンにおいても、男性層を中心としつつ、音質に関心を持つ女性層をはじめとする幅広いターゲットへの拡充を目指す方針が示された。
なお、パナソニックでは発売前の10月10日から12月20日までの期間、全国で本機の体験会が実施する予定。本機に関心を持った人はぜひそのサウンドとデザインを体験してみてほしい。
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