ジャズ喫茶ベイシーの菅原正二氏による、熱気あふれるレコード演奏も
2400万円超のスピーカーとジャズのスゴい体験、JBL一夜限りのイベントで日本上陸の「Summit EVEREST」を聴く
2026年09月10日 18時00分更新
創立80周年を迎えたJBL。その集大成として開発されたブランド最高峰のスピーカーが「Summit EVEREST」だ。その成果を披露するイベントが9月8日に都内で開催された。
東京・恵比寿のBLUE NOTE PLACEを貸し切り、メディア・評論家・販売店など幅広い立ち位置の出席者を集めて開催されたイベント。1954年に発売された「The Hearts Field(D30085)」や1958年の「Paragon(D44000)」などに始まり、これまで5機種が投入された、JBLのProjectの歴史が語られた。
JBLの華々しい歴史を飾ってきたProjectの系譜に新たな名を刻む、JBLスピーカーの到達点を確認できた。
JBLのSummitとは?
現在のJBLがホームオーディオの分野で展開する、最高級かつ高性能なコレクションがSummitだ。開発においては「大小さまざまあるスピーカーカテゴリーにおいて、それぞれが最高峰の音を提供する」ことが目標に掲げられ、各モデルの名称に著名な山があしらわれている。
国内ではこれまで、ブックシェルフ型の「Summit Ama」(価格143万円)、フロア型の「Summit Pumori」(価格220万円)と「Summit Makalu」(価格330万円)の3機種が登場、これに加え、Summit EVERESTと双璧をなすフラッグシップのシングルウーファーの「Summit K2」(価格660万円)も6月に披露されている。
ここに今回のSummit EVEREST(価格1210万円)が加わることで、Summitのラインアップが完成したことになる。
Summit EVERESTは家庭用スピーカーと銘打ってはいるものの、幅992×奥行き695×高さ1443mmと巨大で、重量は237kgもある。価格もペアで2400万円を超えるスピーカーだ。極めて象徴的なプロダクトである。
EVERESTの名称は、1985年の初代「Project EVEREST DD55000」にさかのぼる。そこから40年を経て登場した本機は、JBLが持つ音響技術のすべてが注ぎ込まれた製品であり、2006年に登場した第2世代の「DD66000」や2012〜2025年という長期にわたって最上位に君臨してきた「DD67000」に連なる製品になっている。
「ニュートラルかつアキュレート」を追究したSummit K2に対して、Summit EVERESTは「エモーショナルかつナチュラル」な音を提供する機種だという。
威容な外観上目立つのは、380mm径(15インチ)のダブルウーファーと大型のホーンを備えたコンプレッションドライバーに加えて追加された、2基のミッドウーファーだろう。ユニットは対称的に配置されているが、異なる周波数帯域を担当するスタガー接続の3.5ウェイ構成となる。
なお、JBLはこれまでもDD67000と「Project K2 S9900」を双璧となるフラッグシップとして位置付けてきたが、Summit EVERESTとSummit K2もまた、同社の双璧をなすフラッグシップとして展開していく考えだという。
「よくぞ、ここまで」と思える技術を大盤振る舞い
本機の技術的なポイントについて少し詳しく見ていこう。15インチウーファーを始めとしたJBLならではのユニットと、これらをつなぐネットワーク回路、そして重厚なキャビネットがポイントとなる。
まずは高域ユニット。850Hz以上の中高域を担当する。コンプレッションドライバーとホーンを使用するのはJBLの伝統ではあるが、Summit EVERESTでは、可聴域外まで広がった広帯域をカバーし、かつ優れた指向性制御と圧倒的な情報量、そして極めて高い解像度を実現するために独特な仕組みを入れている。
使用しているコンプレッションドライバーは、50mm(2インチ)のデュアルダイアフラム/デュアルモーターを使用した「D2820」となる。正面に空いている穴はひとつだが、中にはなんと、これが3基も搭載されているのである。
専用設計の3-into-1マニフォールドによって、3つのドライバーの音がひとつにまとまる仕組みを入れている。ポイントは3基のドライバーを異なる角度に配置し、それぞれの動きで振動を相殺する点。3つを同時に鳴らすことでドライバー単体での振幅を抑えることも可能になる。
結果、歪みの原因となる振動を抑制できるというわけだ。本機ではこの独自性の高いドライバーに、SonoGlass製のHDI(High-Definition Imaging)ホーンを組み合わせて、高域の再生をしている。
次に低域。ここは380mm径のウーファー「JW380SC」を2基使用している。
このユニットの振動板はカーボンファイバーを配合したピュアパルプ製コーン紙2枚の間にクローズドセルフォームコアを組み合わせた3層構造になっており(HC4コーン)、高剛性と軽量性を両立。
さらにDifferential Drive構造やネオジム磁気回路、4インチ径と大型で外側と内側の両方に磁石を備えたデュアルボイスコイルなどを組み合わせることで、高出力時においてもリニアリティを損なわず、歪みも少ない低歪再生が可能となっている。
ユニットの断面図。ボイスコイルのボビンが4インチ径と非常に大きいほか、通常ではボイスコイルの内側だけに置く磁石を外側・内側の両方に配置することで強力な磁力を出している。いわば内外磁型とも言える構造だという。
ミッドバスは250mm径(10インチ)の「JMW250SC」を2基搭載。今回ウーファーは270Hz以下の低域再生に特化したものとなっているため、中域の音圧を出すため、新たに追加している。
ウーファーと同様に3層構造のHC4コーンを採用し、ボイスコイルはやや小さな3インチ径のデュアルボイスコイルとなっている。2つのミッドバスは対称的に配置されているが、面白いのはスタガー接続で、それおれのユニットが担当する周波数帯域を変えている点だ。
内側に配置されたものが、高域ドライバーにつながる850Hzまでの帯域をカバーする一方、外側はそれよりも低い帯域のみ使い(上の帯域をロールオフさせ)、中域の音圧を補うために使用している。従来機種では15インチのダブルウーファーがスタガー接続だったが、ミッドレンジを強化しつつ、システムの一体感を得るため、この構成にしたそうだ。
ネットワーク部には、高度なMultiCapクロスオーバーネットワークを採用。複数の小容量コンデンサーを並列構成することで等価直列抵抗(ESR)を低減し、エネルギーロスを最小限に抑制できる。また、シングルワイヤ接続に加え、バイワイヤ/バイアンプ、さらにはトライワイヤ/トライアンプ接続にも対応し、システム構築の自由度を高めている。基板の枚数はK2 Summitの5枚に対して4枚だが、内部のスペースが大きく取れる分、基板を大きく作れるのが理由だという。
最後に筐体。内部オフセット構造と多重補強、ダンピング処理を施した高剛性キャビネットを採用している。これをIsoAcousticsのカスタムアイソレーションフットが支える。
なお、Summit K2は25mm厚のMDFを使用して、バッフル面とサブバッフル面を重ねる方式だったが、Summit EVERESTでは端の部分の強度を保ちつつ、中央の剛性も得るために山型の組み方でバッフル面自体を強化する構造にしている。板の厚みは内側にいくほど増し、最も厚い場所では80mmに達するという。
このようにSummit EVERESTは、多数のユニットを搭載した大規模なスピーカーであるが、設計者のクリス・ヘイゲン氏(JBL 主席スピーカーエンジニア)が目指したのは、システムとしての一体感であり、音楽性があり、感性に訴えかけるスピーカーだという。
ジャズの名盤とともに国内でのデビューを飾る
イベントの後半ではゲストとして、ジャズ喫茶ベイシーの菅原正二氏が登場。約1時間にわたって自ら持参した名盤レコードを実演した。
記者が着席したのはステージより1段高くなった、ライブエリアの後方。スピーカーとの距離はかなりあるが、左右のスピーカーのちょうど真ん中の位置というかなり良い場所だった。
まず感じたのは、大型スピーカーならではのスケール感を持ちながら、奏でるサウンドには泥臭さがなく、クリーンで現代的な鳴りであったということ。
次に驚かされたのは、そのシビアにキュッと絞り込まれた音像。正確な距離はわからないが、壁際に置かれたスピーカーと席との距離は遠くにスピーカーが確認できる程度の離れた位置。しかし、この距離でも頭の位置を、わずか10〜20cmほど動かすだけで音像定位が変化する。
解像度は非常に高く、シンバルの叩き分けや微小な振動の分離感は恐ろしいほどの精度で、会場全体を音で満たす。大音量を叩き込んでも一切飽和せず、超高速なレスポンスを維持してみせた。
マークレビンソンとの組み合わせということもあってか、出音は基本的にはクールな印象。ここが80年の歴史の系譜でありつつ、現代の最先端をいくプロダクツでもあるという本機の立ち位置を印象付けた。
レコード演奏のため菅原さんが最初に選んだのが、マイルス・デイビスの「RELAXIN WITH」。会場のいろいろな位置でその音を確かめながら、(古いレコードと言っても)「古臭くなっちゃつまんないんで、こういう新鮮に鳴るのもいいんじゃないかなと」と、普段聴い慣れている音源にも新鮮な気持ちで向き合えるとコメント。
なんにせよ、ジャズ喫茶では「こういうモノラル盤がきれいにならないと困る。期待が出てきた」と感情が高まる様子を感じさせた。
続いて演奏したのが、フランク・シナトラとカウント・ベイシーによる、ラスベガス・サンズホテルのライブ録音。当時の雰囲気を再現したいと言いながら、演奏後には「とてもいいよ、アメリカにもこういう時代があったんですね」としみじみと反していた。
菅原さんが無視できない録音として示したのが名門ジャズレーベル、インパルス・レコードのステレオ盤。ジョン・コルトレーンの「クレッセント」を演奏、高域の解像感の高さ、特にシンバルがはっきりと聞こえる様子に感嘆していた。
時間も終わりに近づき、演奏はエレクトリック期のマイルス・デイビスの「We want Miles」へ。菅原氏はこの盤を「とんでもない演奏」と表現し、「それで盛り上がらなかったら、さらに追加します」と言って会場の笑顔を誘った。
聞いてみると、確かにこの演奏はスゴい。ビームのように直線的に飛んでくるブラスの音は耳を刺されているようでもあり、癖になるよな中毒性もあり……。さらに、途中入ってくる硬質な音の再現力、中間のドラムセッションなど、凄さと速さと分離感に衝撃を受けた。
Summit EVERESTの中音域、低域などには大口径ユニットならではの包囲感があり、動きは軽く抜けがいい。ここは現代のハイエンド機らしい洗練されたテイストを感じたものの、強烈なホーンの存在感があるぶん、もっともっと中域の押し出しも欲しいなと思える面もあった。
ホーンの音は魅力でもあり、個性でもある。ブラス系の音がピンポイントに飛んでくる感じは良さでもあり、このスピーカーを選ぶものに何らかのこだわりを求めているようにも思えた。
この製品は、これから何度も鳴らして低域のユニットがこなれてきたら、さらに充実した音が聞けそうだ。特に低域は、単に深く太い出音というだけでなく、オーケストラの大太鼓をたたいた時に膜が反発する感じ、中に大きな空洞があり、振動が空間に発散していく感じなどがリアルな広がりと質感がああり、かつ俊敏な反応を両立していた。
一方で、音色感としては原音忠実というよりは、暖色系というか、ほのかに熱気を帯び、ちょっとしたニュアンスがある。レコード演奏にしては、エッジの立った硬質な出音にも思えたが、ここは上流のシステムの特色が出ていたのかもしれない。
つらつらと感じるままに書いてしまったが、菅原さんはレコード演奏の冒頭、目的は製品のデモンストレーションではなく、「ジャズ喫茶のように普通に演奏しますんで、気楽に聴いてください」と言いながら持参した名盤を披露していた。
そういう意味では、今回の体験はスピーカーの力を知るとともに、レコードというパッケージに込められた情報量の豊富さ、時代を封印したような臨場感、それが目の前に圧倒的なスケールで広がる驚きに心を奪われる時間であった。
Summit EVERESTは今後、ハイエンドのオーディオショーなど、さまざまな場面で登場すると思われるが、今回はその端緒を切る一夜限りのイベントとして、貴重な体験の場を提供してくれたと思う。
主な仕様
タイプ 380mm径×2 / 3.5ウェイ・フロアスタンディング型スピーカー
ドライバー構成:
50mm径×2 D2コンプレッションドライバー(D2820)×3+Sonoglass製 HDIホーン、250mm径ミッドバス(JMW250SC)×2、380mm径ウーファー(JW380SC)×2
インピーダンス 4Ω
感度 96dB(2.83V/1m)
周波数特性 20Hz~23kHz(-6dB)
クロスオーバー周波数 270/550/850Hz
外形寸法 幅992×奥行き695×高さ1443mm
重量 237kg
標準価格 1210万円/本(税込)
発売日 2026年秋
写真で振り返るイベントの様子
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