世界的に人気が高まっている日本酒。2024年には「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録され、その需要はますます増えている。しかし、日本酒作りは、秒単位・ミリ単位での温度や水分量などの調整を要求される「一麹、二酛、三造り」と呼ばれる難度の高い工程がある。その工程をIoTで支えているのがラトックシステムだ。
ラトックシステムのIoTはもちろん酒造りに特化しているわけではなく、現場のニーズを拾ってさまざまなIoTソリューションを広げる事業を展開している。今回は同社 開発部 第一開発グループ グループマネージャーの上田健太氏に、その取り組みや今後の展開についてお話を伺った。
IoT化の一番のメリットは、現場での人の動きを減らせること
大阪に本社を構えるラトックシステムは1983年設立の企業で、現在は「コンシューマー」「IoTビジネス」「受託開発」の3分野で事業展開している。もともとはパソコン周辺機器の開発・販売からスタートし、市場がパソコンからスマートフォンへと変化する中、スマートフォン事業を展開。スマートフォンから家電を遠隔操作するスマートリモコンなど、クラウドと連携する製品に取り組み、現在のIoTビジネスへとつながっている。
IoTビジネスでは、温度管理や異常通知など、センサーで取得した現場の状態をPCやスマートフォンから確認できるソリューションを扱っている。また、受託開発では顧客の要望に合わせたハードウェアやクラウド連携などに対応し、自社ソリューションの提供と顧客ごとの開発を手掛けている。
ラトックシステムがIoT化で重視しているのは、単に離れた場所からデータを確認できるようにすることではない。「IoT化の一番のメリットは、現場での人の動きを減らせること」という上田氏は、人が現場へ出向いて行っていた確認作業そのものを減らすことを目指し、さらにその先の自動化まで見据えて開発していると語る。
そのために必要なハードウェアからソフトウェア、クラウド、アプリまで一貫して自社で開発できることがラトックシステムの強みだ。システム全体を構築するだけでなく、顧客の要望に応じて、ハードウェアだけ、あるいはクラウドまでと、必要な範囲に絞って開発することもできる。
「すべて自社で作れるので、ユーザーから要望があれば、追加で対応することも比較的スムーズにできます」(上田氏)
ソリューションをそのまま提供するだけでなく、顧客から相談を受けて受託開発するケースもある。受託で開発したものがほかの現場でも需要が見込めれば、アプリまで含めて自社ソリューションに発展させることもある。一方、既存のソリューションに対して、別のセンサーを利用したいといった要望を受け、対応することもある。
ラトックシステムのもう一つの特徴は、既存設備を活かした「後付け」のIoT化だ。設備そのものをIoT対応製品として入れ替えるのではなく、既存の機器や制御盤などから取得できる信号を利用して、必要な機能を追加する。「丸ごと買い替えるより、後付けで低コストにIoTができるというのは売りの一つです」(上田氏)
また同社は、「案件によりますが、そのソフトウェアを得意とする企業があれば、そこと組んで開発することもあります」と上田氏が語るように、すべてを自社だけで完結させることにこだわっていない。ハードウェアからクラウド、アプリまでを一貫して開発できる体制を持ちながら、既存設備や顧客のシステム、必要に応じて他社の技術も組み合わせる。同社ではこうした柔軟な開発体制によって、さまざまな現場の要望に対応している。
既存設備を活かし、必要な機能を後付けするIoTソリューション
ラトックシステムのIoTソリューションの中で、現在最も需要が多いのが温度管理だ。自社開発の温度センサーで取得したデータを、ゲートウェイを経由してクラウドへ送り、PCなどから温度を確認できる。異常が発生した際には通知を受け取ることもできる。
さらに、無電圧接点やアナログ信号を受け取れる通信ユニットも開発しており、パトランプを光らせたり、ブザーを鳴らしたりすることもできる。温度を遠隔から確認するだけでなく、異常が発生したことを現場へ知らせる仕組みだ。
これらの仕組みをベースに、設備の異常通知に特化したシステムも提供している。制御盤などから受け取った警報を通信ユニットとゲートウェイからクラウドへ送り、離れた場所にいる担当者へ通知することで、現場にいなくても機器の異常を把握できる。
「ベースとなる通信ユニットは共通で、つなぐデバイスとアプリを変えることで、遠隔監視をするようなソリューションを提案しています」(上田氏)
IoT通信ユニットは、既存の設備とクラウドをつなぐ役割を担う。無電圧接点や4-20mAのアナログ信号、RS-485などに対応しており、制御盤や各種センサーからデータを取得できる。用途や接続する機器に応じて複数種類のユニットを用意しているという。
例えば工場では、制御盤の近くにIoT通信ユニットを設置して有線で接続する。そこからゲートウェイまでは無線でつなぐことができるので、LTE通信が利用しやすい場所にゲートウェイを設置するといった構成が可能だ。
こうしたデバイスからクラウドへデータを送る基本的な仕組みを共通化しながら、接続するセンサーや機器、アプリを変えることで、ラトックシステムはさまざまな用途に対応し、個々の現場に合わせた遠隔監視の仕組みを展開している。
酒造りからケーブル監視まで、現場の課題が新たな製品を生む
ラトックシステムのIoTソリューションが実際の現場でどのように使われているのかがよく表れているのが、酒造現場での活用だ。酒造では、温度の記録に加えて、一定の期間、状態を24時間見続けなければならない工程がある。そこで、設定した温度を超えた際に警告する仕組みを導入することで、人が継続して確認する手間を減らしている。
さらに、酒造現場でのニーズから生まれたのが液量監視だ。大きなタンクの液量を確認するには、高い場所まで登って計測しなければならないケースがあり、危険を伴う。そこで液量を遠隔から確認できる仕組みを導入し、その後、ほかの現場でも利用できるソリューションへと展開した。「酒造現場で実際に導入された仕組みを商品化し、一般的にも使っていただけるようにしました」(上田氏)
同様に、温調器の監視も酒造現場で培ったノウハウから広がったものだと上田氏は語る。酒造関連の冷却タンクでは、温度を確認するだけでなく、設定温度を変更する仕組みにも対応してきた。「現場のニーズを拾って、ソリューションを広げる事業展開になります」(上田氏)
一方、顧客固有の課題に対応する受託開発の例が、住電HSTケーブルが提供する建設現場向けケーブル盗難監視システム「Cable-i」だ。建設現場におけるケーブル盗難対策を目的として、住電HSTケーブルからラトックシステムへ開発を依頼。ラトックシステムのIoT通信技術を活用した試作・展示を経て、実際のシステム開発へと進めた。
「Cable-i」はカメラによる監視ではなく、監視対象のケーブルに接続し、その接続状態の変化を検知する仕組みを採用している。住電HSTケーブルがサービス全体を提供し、ラトックシステムはIoT通信ユニットおよび通信・クラウド連携部分の開発を担うことで、建設現場におけるケーブル盗難対策を支援している。
自社ソリューションとして展開する酒造現場での仕組みと、住電HSTケーブルの「Cable-i」のような顧客の要望に応じた受託開発。いずれの事例も、現場で生まれた具体的なニーズを起点に、必要な仕組みを形にしている。
1枚から始められ、AWSともつながるSORACOMを活用
ラトックシステムがSORACOMを利用するようになった背景には、同社がIoTへ事業領域を広げる中ですでにAWSを採用していたことがある。スマートリモコンでは、Wi-Fiを使ってデバイスをクラウドへ接続する仕組みを構築し、そのクラウド基盤としてAWSを利用していた。
SORACOM採用のポイントとなったのは、必要なSIMを1枚から利用でき、小規模なシステムでも始めやすかったことだ。「1枚から使えるので、スモールスタートがすごくやりやすかった」(上田氏)
もう一つ、メリットとして挙げるのが、AWSとの連携のしやすさだ。SORACOMのコンソールを利用することで、ゲートウェイから送られてきたデータを自社のクラウドへ流すための設定をブラウザ上で行える。この仕組みがなければ、クラウドとの連携部分についてファームウェア側での対応が必要になるが、SORACOMを利用すれば、ゲートウェイ側ではデータを送信し、その先の送り先についてはコンソールから設定できる。
「ゲートウェイ側はデータを送るだけで、あとはコンソールから送り先を設定できるのですごく楽です」(上田氏)
現在は、IoT通信ユニットから受け取ったデータをLTEでクラウドへ送信するゲートウェイなどにSORACOMのSIMを利用している。また、通信の用途に合わせてSORACOMのサービスを使い分けており、双方向通信が必要な場合にはSORACOM Beam、CO2センサーのようにクラウドへデータを送る通信が中心となる場合にはSORACOM Funkを利用しているという。
ハードウェアからクラウド、アプリまでを組み合わせてさまざまなIoTソリューションを展開するラトックシステムでは、SORACOMはデバイスとクラウドをつなぐ通信基盤として活用されている。
「1ヵ所だけ」の声にも応える、よりシンプルなIoTへ
現場のニーズを取り込みながらIoTソリューションを広げてきたラトックシステムでは、実際の使われ方に合わせた新たな製品開発も進めている。その一つが、今後リリースを予定しているLTE通信機能を一体化したIoT通信ユニットだ。
これまでのシステムでは、設備の近くにIoT通信ユニットを設置し、そこからゲートウェイまでを無線で接続。ゲートウェイからLTEでクラウドへデータを送る構成を採用してきた。しかし、実際には監視したい場所が1ヵ所だけというニーズも多いという。
「わりと1ヵ所だけという需要も多く、その場合、無線でつなぐ必要がなく、さらに通信ユニットとゲートウェイを使うので、本体の値段もそこそこ高いということがありました」(上田氏)
そこで開発したのが、通信ユニットから直接LTEでクラウドへデータを送れる新しいIoT通信ユニットだ。従来のように通信ユニットとゲートウェイを組み合わせずに、1台で通信まで完結できる。この新しい通信ユニットでは、温度センサーを直接接続できることも特徴だという。
複数の場所を監視する従来の構成だけでなく、1ヵ所だけを監視したいというニーズにも、よりシンプルな構成で応える。個々の現場で求められる使い方を拾い上げ、それに合わせて製品を形にしていく。新しいIoT通信ユニットも、現場のニーズを拾い、それに合わせてソリューションを広げてきたラトックシステムの開発姿勢を象徴する製品といえそうだ。
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