IoTの活用が広がる中で、注目されるのはクラウドやAIだけではない。現場に設置され、データを収集し、確実に動き続ける「エッジ側」の基盤もまた、IoTを支える重要な要素だ。そうした領域で長年にわたり技術を積み重ねてきたのが、組み込み向けボードコンピューター「Armadillo」で知られるアットマークテクノだ。
アットマークテクノはIoTという言葉が広まる以前からネットワークに接続されるコンピューターを手がけており、現在ではボードコンピューターに加え、IoTゲートウェイやクラウドサービスを組み合わせた、エッジからクラウドまでを一体で支える存在となっている。今回はアットマークテクノの事業の背景から製品の特徴、導入事例、そして今後の展望まで、代表取締役社長 實吉智裕氏にお話を伺った。
IoT以前からつながるコンピューターを作り続けてきたアットマークテクノ
1997年に創業し、来年30周年を迎えるアットマークテクノは北海道札幌市を拠点に全国に向けて、組み込み向けのボードコンピューターを中心とした事業を展開している企業で、IoTという言葉が広まる以前から、同社は「ネットワークに接続されるコンピューター」を手がけてきた。2001年にはLinuxとArmプロセッサーを組み合わせた初代「Armadillo(アルマジロ)」を開発し、長年にわたりアットマークテクノの主力ブランドとなっており、年間約8~10万台を出荷、今年中に累計100万台を超える見込みだ。
「アプリケーションはお客様に書いてもらうものという前提」と語る實吉氏は、アットマークテクノは単なるハードウェアベンダーにとどまらず、ユーザーが自由にアプリケーションを開発できる基盤の提供を重視しているという。ボードコンピューターの時代から、ハードウェアとOSを提供し、その上で動作するアプリケーションは顧客側が開発するという考え方で、その精神は現在のIoTゲートウェイ製品にも受け継がれている。センサーや装置とクラウドをつなぐ中間レイヤーとしての役割を担いながら、用途に応じた柔軟なシステム構築が可能だ。
現在では、従来のボードコンピューターに加え、IoTゲートウェイやルーターといった製品ラインアップを展開し、エッジからクラウドまでを一体化したソリューションを提供している。
アットマークテクノの強みは、ハードウェア、OS、クラウドを一体で設計している点にある。その設計思想は、セキュリティやアップデートなどの負担の大きな領域を基盤側で吸収し、ユーザーには本来取り組むべきアプリケーション開発に集中できる環境を提供すること。単に高性能な機器を提供するのではなく、現場で安定して使い続けられることを重視し、コスト、機能、汎用性のバランスを取りながら、開発の自由度と運用のしやすさを両立させ、多くのユーザーがそのまま使える製品を目指している。
エッジからクラウドまでを一体化するIoT基盤
アットマークテクノの製品は組み込み向けボードコンピューター「Armadillo」を中核に、IoT用途に最適化されたゲートウェイやルーターへと広がっている。IoTゲートウェイは、同社の製品群の中でも中核となる存在で、センサーや各種機器とクラウドをつなぐ役割を担う。さまざまなインターフェースやデータ形式に対応し、それらを集約してクラウドへ送信する一方、アプリケーションはユーザー側で自由に開発できる構造となっている。
独自OSはLinuxカーネルとコンテナエンジンを中心としたシンプルな構成。OS部分は原則としてユーザーが触れない設計にして安定性を確保しながら、アプリケーション側はコンテナとして柔軟に更新でき、セキュリティ対応や機能追加を効率的に行うことができる。「OSとアプリケーションの責任分界点を明確にできるのがコンテナの強み」(實吉氏)
さらにクラウドサービスも提供しており、デバイスの状態監視やソフトウェアのリモートアップデートを行うサービスと、OSとクラウドを連携させることで、現場に設置された機器を遠隔から安全に管理・運用できる。IoTにおいて不可欠となるOTAアップデートも含め、ユーザーが個別に仕組みを構築する必要がないのは大きなメリットだ。
また、よりシンプルに通信機能のみを利用したいニーズに向けて、ルーター製品も提供している。ハードウェア自体はゲートウェイと共通でありながら、専用ソフトウェアを搭載することで、プログラム開発を伴わずに利用できる。さらに用途に応じてゲートウェイとルーターを使い分けられることも可能だ。
これらの製品は省電力性にも優れている。Armプロセッサーを活用し、低消費電力での動作と高速なスリープ/復帰を実現し、電源の確保が難しい環境でも運用できるのが特徴の一つとなっている。
多様な現場、電源確保が難しい現場でも活用される汎用IoT基盤
アットマークテクノの製品は特定の用途に限定されず、さまざまな現場で活用できる汎用性が高い。ユーザーがアプリケーションを自由に開発することを前提としているため、その用途は多岐にわたるが、その多くは機器の制御や計測、監視が中心だ。
「おそらくIoTの事例数は日本で一番持っている」と語る實吉氏。代表的な事例として、漏水センサーとクラウドを連携させたソリューションがある。センサーが水漏れを検知すると、その情報がゲートウェイを経由してクラウドに送信され、可視化される。センサーからのデータ取得、通信、クラウド連携までを一連の流れとして構築でき、実際のフィールドに設置、運用されている。こうした構成はソラコムのDIYレシピとしても提供されており、同様の仕組みを比較的容易に再現できる。
また、省電力性能を活かした活用も多く、電源の確保が難しい環境で、太陽光パネルとバッテリーを組み合わせた自立電源型のゲートウェイとして利用されるケースがある。例えば河川監視のように、一定間隔でデータを取得・送信する用途では、必要なときだけ起動して通信を行い、それ以外の時間は低消費電力状態で待機する形で運用できる。「太陽光とバッテリーで動くような環境でも、起動して通信してすぐスリープになるという使い方ができる」と實吉氏が語るように、スリープと復帰を高速に繰り返せる特性により、限られた電力環境でも安定した稼働を実現している。
長年にわたりさまざまな分野で導入されているアットマークテクノ製品は特定の製品を導入するというよりも、用途に応じて最適な仕組みを構築している。センサー連携や遠隔監視、屋外環境での運用などのIoTの基本的なユースケースを支え、少量から導入できる柔軟性と、PoCから量産までスムーズに展開できることで幅広い現場で利用が広がっている。
ソラコムは開発初期から支えてもらえる通信パートナー
アットマークテクノは、ソラコム創業初期から連携してきたパートナーで、IoT向けの通信がまだ一般的でなかった時期から、両社はそれぞれの強みを活かしながら協業を進めてきた。
實吉氏はソラコムの大きな特長は導入のしやすさにあると語る。IoTの開発では通信環境が出発点となるが、ソラコムは1回線から利用でき、料金や仕様も明確に提示されているため、評価や試作といった初期段階でも導入しやすい。さらに、Web上で回線の状態確認や設定変更が可能であるなど、従来の通信サービスと比べて手軽に扱える点も評価できる。
アットマークテクノの製品が1台から導入できる柔軟性を持つのに対し、ソラコムの通信サービスも同様に小規模から始められるため、両者の組み合わせは初期開発フェーズとの相性が良く、開発者が最初に選択する通信手段としてソラコムを提案するケースも多いという。
また、ソラコムは豊富なサービス群と情報発信により、利用者の裾野を広げている。多様な機能を組み合わせることで、用途に応じたシステム構成を柔軟に実現できるほか、ユーザーコミュニティや公開情報の充実により、開発者が必要な情報にアクセスしやすい環境が整っている。こうしたエコシステムの広がりが、IoT導入のハードルを下げる要因となっている。
アットマークテクノは特定の通信サービスに依存する立場ではないものの、初期導入のしやすさや情報の豊富さといった観点から、ソラコムを有力な選択肢として位置づけている。ハードウェアと通信という異なる領域を担う両社が連携することで、開発から運用までを見据えたIoTシステムの構築が実現しやすいと實吉氏は語った。
セキュリティと運用を軸に進化するIoT戦略
組み込み機器からIoTゲートウェイへと製品領域を拡張しながら、エッジ側の基盤技術を軸に事業を展開してきたアットマークテクノはその流れをさらに発展させ、ハードウェア単体ではなく、OSやクラウドを含めたトータルでの提供力を強化していきたいという。
近年、同社が特に注力しているのがIoTセキュリティへの対応だ。IoT機器の普及に伴い、個々のデバイスに対するセキュリティ要求は高まっており、国内でも新たな基準への対応が求められる場面が増えている。「セキュリティは機器開発者が全部やるものではない、OS側で担保するべき」という實吉氏はこうした動きに対し、同社は独自OSの設計を通じてセキュリティ機能を組み込み、機器開発者が過度に意識しなくても安全なシステムを構築できる環境の整備を進めていると語る。
また、製品面では従来のゲートウェイに加え、通信機能に特化したルーター製品の展開も進めている。ハードウェアを共通化しながら、用途に応じてソフトウェアで機能を切り分けることで、より幅広いニーズに対応する。特に、セキュリティ要件の高い分野に向け、関連規格への対応を見据えた製品開発を進め、インフラ用途なども視野に入れた展開を検討していると實吉氏は語る。
アットマークテクノはエッジデバイスの提供から一歩進め、セキュリティや運用までを含めたIoT基盤の構築を目指しながら、機器の高機能化や通信環境の進化、AIの活用といった技術動向に取り込み、現場で実際に使われるIoTの実装を支える存在であり続けていく。
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります
この連載の記事
-
第18回
デジタル
長年培われてきたハードウェア開発力を活かし、機器開発からデータ取得、可視化までを一気通貫で担う九州テン -
第17回
デジタル
プラットフォーム側から現場視点となったことで見えてきたAI活用 「Cariot」が提示する次世代の車両管理ソリューション -
第16回
デジタル
老舗計測器メーカー「渡辺電機工業」が取り組む、ワンクリックでIoTゲートウェイにアクセスできるソリューション -
第15回
デジタル
「落とせない環境」がそこにある ハードウェアからソリューションまで一気通貫で提供するアムニモ -
第14回
デジタル
CPU開発などのノウハウを活かし、IoTからAIエッジまでを担うVIAの総合力に迫る -
第13回
デジタル
「市場にない機械でも必要があれば作ればいい」 顧客と共にIoTによる課題解決を開発から量産まで伴走するTTS -
第12回
デジタル
IoTビジネスのポイントは「在庫リスクを抑えつつ、実証から量産への道筋を作ること」 -
第11回
デジタル
IoT開発のハードルを下げる! JENESIS×ソラコムによる企業・スタートアップを応援する環境作り -
第10回
デジタル
屋外設置OK 電源なくても大丈夫 常時録画がもっと身近になるソラカメ新製品 -
第9回
sponsored
「防犯」だけじゃもったいない。あなたが知らない"儲かる"カメラの使い方







