業務を変えるkintoneユーザー事例 第305回
「データベースオンザフロア」だった給湯器工事会社がkintoneで変身
給湯器の工事職人にkintoneは託された 今では入社1週間で3000種類の給湯器の見積を作れるまでに
2026年04月21日 09時00分更新
仕掛かり中の顧客のデータを会社のフロアに広げる「データベースオンザフロア」。斬新ながら、やっぱりあかん。アナログな顧客管理、在庫管理、見積作成では、会社の目指す「四方良し」まで全然たどり着けない。
kintoneのユーザー事例を共有する「kintone hive 2026 osaka」のトップバッターは東大阪市の給湯器工事会社である松永興業。工事職人だった隠地さんは、kintoneでどのように四方良しを実現していったのか?
「四方良し」に惹かれたものの、現場は違っていた
kintoneのユーザー事例を共有するイベント「kintone hive」の季節が今年もがやってきた。全国6会場の皮切りとなったkintone hive 2026 osakaは、4月14日に大阪市内のZeppなんばで開催され、6社のkintoneユーザー企業が登壇した。大阪会場でのMCを務めるのは、昨年に引き続きサイボウズ ソリューション営業部 若杉泰斗さんだ。
若杉氏は、kintoneの導入企業数が4万2000社を突破したことをアピール。kintoneの活用ノウハウと業務改善のプロセスを知り、得られた学びを共有するのがkintone hiveだとアピールしたする。全国6会場ではそれぞれ地区代表が選出され、秋に幕張で開催されるサイボウズデイズに登壇する。今年は昨年の登壇者とともに、イベント取材を担当するASCIIの記者も審査員として投票することになっている。
トップバッターとして「元・工事職員がkintoneで四方良し?」のタイトルで登壇したのは松永興業の隠地 健太朗さんだ。自己紹介を終えた隠地氏は、「お湯を作る『給湯器』は全部で何種類くらいあるか?」というクイズを会場に提示。答えは3000種以上で、それぞれメーカーや方式、機能、取り付け方法などが異なっている。この3000種類の給湯器を扱っているのが、隠地さんの所属する松永興業だ。
東大阪市にある松永興業は、給湯器などの住宅設備の交換工事を行なっている。今年で11年目で、従業員は35名。設計職や営業職の経験を持っていた隠地氏は、松永興業入社後は給湯器の工事職人からスタートし、その後営業とシステム構築を経て、現在は事業統括を担当している。
隠地さんが松永興業に入ったきっかけは、従業員、お客さま、取引先、会社の「四方良しの実現」を掲げた企業理念に共感したことだった。しかし、4年前に入社した当時は、この企業理念が頭に思い浮かばないほど現場は大変だったという。隠地さんは情報管理と現状をキーワードで説明し、当時の現場の課題と振り返る。
ある意味斬新な在庫管理、案件管理、見積管理 でも、あかんやん
1つ目の課題である在庫管理のキーワードは「養生テープ商品直貼り」だった。つまり、お客さまの名前と住所が書かれた養生テープを給湯器の本体に貼り付ける方法だ。これを見た隠地さんは「スゲー!工事職人がそのままサッと持って行けるやん!」と思ったが、実際は事務員がわざわざ倉庫へ在庫を確認して、養生テープを貼り付けていた。しかも、工事職人による商品の持ち出し間違いが多発していた。
2つ目の課題である案件管理のキーワードは「データベースオンザフロア」。このパワーワードに聴衆もざわつくが、実際に「お客さまのデータが床の上にある状態」だったという。顧客ごとの書類は床の上に並べられ、電話を受けた段階でその書類をピックアップして対応していた。これを見た隠地さんは「スゲー!オフィススペース最大限活用してるやん!」と思ったが、もちろんそんなことはない。電話を1回保留して、わざわざ紙の顧客情報を探し回る無駄が生じていた。
1万件以上の顧客データは紙の上でのみ存在していた。Excelで出力した紙に手書きで条件と情報を書き込み、それをキャビネットに登録。これが1万件あったが、当然活用のしようがない。「今日の分はいいんです。床に取りに行けばいいんで(笑)。でも1ヶ月前のお客さまから電話が来たら、キャビネットの中から探して対応しなければならなかったんです。お客さま、待たせまくりです」と隠地さんは振り返る。
3つ目の課題である見積作成のキーワードは「辿りつけない見積書」だ。「みなさんもよくあると思います。うちでは共有フォルダーの中にいろんな分類の給湯器フォルダーがあり、その中にいくつものExcelがあり、そのExcelを開くとさまざまな給湯器のデータが入っていました」と隠地さんは語る。
すでに3回目なので、隠地さんの「スゲー!」の段階で会場から笑いが起こる。「社員の根性、めちゃ鍛えられるやん!」ではなく、もはや新人には絶対に無理な作業。知識がないので、そもそもExcelまでたどり着かない。「しかも給湯器って、半年に1回値段を上げ下げするので、Excelを開いて閉じて、価格更新をしていました」と隠地さん。もはや終わらないので、従業員は仕事を家に持ち帰る日々だったという。
現場から生まれたある意味斬新な在庫管理、案件管理、見積管理。しかし、従業員の残業時間は月50時間を超え、お客さま対応にも時間を要する状態。売上も大きくなかったので、取引先は商品発注のみの関係だった。つまり、目指していた「四方良し」は未実現だったわけだ。
「kintoneいいらしいよ。やってみて」という社長の声でkintone開始
そんなある日、隠地さんは1歳上の社長から「kintoneいいらしいよ。やってみて」と声をかけられる。「あの私、工事職人なんです。現場行ってるんです。いつやるんですか?そもそもkintoneってなんですか?」という戸惑いから隠地さんのkintoneジャーニーは始まった。
「それでもやってみて」の社長の声に渋々従い、kintoneを使い始めた隠地さんだったが、けっこうおもしろいことに気がつく。隠地さん自体はシステム未経験者で、会社自体にもシステムらしきものはなかったが、kintoneは「UIがシンプル」「プラグイン豊富」「連携も簡単」「知らないことがあっても、ネットに情報がいっぱい載っている」と感じ、システムを作る気になったという。
隠地さんはやりたいことをどんどんkintone化する。紙の顧客リストをすべて案件リスト化し、3000種類の給湯器を全部登録した商品マスタを作った。「商品マスターから抽出して、金額を上げ下げすれば、更新作業は一瞬で終わります」(隠地さん)。また、今まで養生テープでしか管理していなかった発注品の一覧もアプリで管理できるようになった。
これで課題は解決するかと思いきや、現場からはいろんな声が出てきた。「新しいこと覚えられません」「今までの仕事変えていいの?」「マニュアルないんですか?」「ぜーんぶ完成したら教えて」という現場の声に、反発したい気持ちをグッと抑え、隠地さんは現場に寄り添うことにした。
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