「コードからプロンプトへ」AI時代を生き抜く開発者に必須の5つのスキル
「ツーピザルール」はもう古い? AI開発でチームは少人数のジェネラリスト集団に
2026年03月11日 11時00分更新
AWSのユーザーコミュニティであるJAWS-UGが年に一度開催しているフラグシップイベント「JAWS DAYS 2026」がいよいよやってきた。3月7日に開催された今年のJAWS DAYSも登録者が1400人を超え、池袋のサンシャインシティの会場は多くのエンジニアで賑わった。本稿では、「AI時代の開発者」をテーマにしたAWSジェフ・バー氏の基調講演をレポートする。
「AIが目の前を通り過ぎてしまった」と感じている開発者へ
JAWS DAYS 2026の基調講演で登壇したのは米Amazon Web Servicesのジェフ・バー(Jeff Barr)氏。AWS歴24年のベテランで、20年に渡って3200本以上の技術ブログを書いてきた。ブログ執筆を引退した2025年は14カ国に訪れ、開発者の声を聞いてきたという。
バー氏は、JAWS-UG黎明期からイベントに参加しており、登壇も数多くこなしてきた。「JAWS-UGにはいつもイベントに来るのにふさわしいオーディエンスが集まっている。すなわり、学びたい意欲のある人、新しいものを作ってやろうというパワフルな人たちだ」と、JAWS-UGの熱量にいつも強く感銘を受けていると聴衆に語りかける。
さて、今回の講演のテーマは、やはりAI駆動型開発と開発者の向き合い方だ。バー氏は、「新幹線」を引き合いにAI時代を「圧倒的な変化のスピードの時代」「ワクワクするけど、課題の多い時代」とも表現。AIを熟知している開発者のみならず、目の前を通り過ぎてしまった、あるいは気にしない人もいるはず。バー氏は、「でも、どんな選択をしてもよい。今は選択肢の時代だ」とも語る。
AIは開発者を増幅するテクノロジー
バー氏ですら「目の前通り過ぎてしまった」と感じるくらいのAIの変化のスピード。そんな中、昨年「まずは手を動かそう」ということでスタートしたのが、昨年AWS社内で進めた「プロジェクトマントル」だ。マントルとは文字通り地表の下層にあたるマントル層を指しており、Amazon Bedrockのインフラを刷新するのが目的だった。
Amazon Bedrockでは、自社・サードパーティの基盤モデルを迅速にデプロイする必要があり、従来のインフラではスピード感に欠けていた。そこでAWSの中の名うての開発者たちがチームを組み、1年を前提にインフラ刷新に取り組んだという。しかし、開始から約1ヶ月で開発スピードが足りないことに気がつく。そこで増員を行なうとともに、プロジェクト全体でAI駆動開発にチャレンジすることにした。
ここでの効果は劇的だった。「当初1ヶ月かかると思われたコードのリライト作業は、Q DeveloperとKiroを用いることで、わずか3日で終わってしまった。ドキュメント化やユニットテストを含めてだ」とバー氏はアピール。週のコミット数は2から40へ増加したため、単純に生産性は20倍になった。もちろん、名うての開発者たちが集まり、途中で増員したという背景もあるが、結果として1年かかると思われたプロジェクトは76日で完了にまで至ったという。
続いてこのスピードを実現したプロジェクトマントルのアプローチも紹介された。プロジェクトのコード、テスト、ドキュメントを単一のリポジトリで管理し、ドキュメントもLLMから生成。すべてのシステムと依存性はローカルで何千ものテストを実施したという。
AI駆動型開発は開発サイクルを圧倒的に高速化したという。開発者は希望するシステムの変更に対して、どのように変更すべきかをAIに相談しつつ、コードを生成し、EC2上でテストを行なう。このサイクルをたった1時間で回せるようになり、翌日にはプロダクションレベルにプッシュできるようになった。
このようにソフトウェアの開発スタイルは大きく変わる。AIでコード生成と数多くのテストが実施できるようになった分、人間はレビューと変更の可否判断、プロンプト生成に時間をとるようになる。このとき重要になるのが、直感と判断力だ。バー氏は、「AIは開発者を増幅するツール。新人とベテランの開発者の違いは、スキルではなく、直感、判断力の差だ。新人は直感と判断力を培うために、経験を積み上げる必要がある」と指摘する。
AI駆動型開発のボトルネックは人であり、プロセスであり、チームである
ただ、AIエージェントを並列で動かすことで、コードのコミットが向上しても、プロジェクト全体が高速化するわけではない。コードのマージやビルド、デプロイなど一連のCI/CD、テストやレビューなども高速化しないと、ボトルネックは解消しない。このボトルネックの課題に関しては、メインフレーム時代の「アムダールの法則」から指摘されている。「AIと同じスピードが必要になる。そうしないとボトルネックになる。コードプロセスだけを早くしても、スピードは十分ではない」とバー氏は指摘する。
バー氏は、AI時代に見合ったCI/CDプロセスを実現した事例として、大手自動車会社のBMWの事例を披露する。3000人の開発者を抱えるBMWはサーバーレスのアーキテクチャを採用し、CI/CDプロセスを刷新。1日に13万のビルド、1300のマイクロサービスの運用という途方もない開発スピードを実現したという。
ボトルネックになりがちな意思決定を高速化するためには、チームやプロセス自体も変えていく必要がある。バー氏が例に出したのは、いつの場所でチームが衣食住をともにし、メンバーが意思決定を迅速に行ないAI駆動型開発に専念する「ハッカーハウス」という事例だ。ここまでやるのは極端にせよ、コミュニケーションの頻度はデイリーから、週次ではなく、より短いタームで行った方がよいとバー氏はアドバイスする。
開発者一人のスキルが深くなると、まかなえるスコープも拡がる。つまり、開発者は相対的にジェネラリストになっていく。そのため、長らくAmazonが掲げてきた「ツーピザルール」では、もはやチームとして大きすぎる可能性があるという。「今後はピザがより小さく、少なくなる人数で多くのスコープをカバーすることになる」とバー氏は指摘する。
もちろん、開発スタイルも大きく変わる。古くはデジタルを活用し、マニュアルやリファレンスで知識を学んでいたが、AI時代はキャパシティや強靱さ、脆弱性を直感的に見つけ出すアナログ感性がむしろ重要になる。「新しい世界では、モデルの強み、弱みは触ってみるしかない」とバー氏は語る。
アプリケーションに関しても、要件にあわせてスクラッチで作ってしまう方が理にかなうようになる。「アプリは短命になり、メンテナンスはなくなる。スクラッチを繰り返し、再構築するのが普通になる」とバー氏は指摘する。長期的な利用を見越したDurable Codeと短期的な書き直しを前提としたDisposable Codeを組み合わせるのが今後のスタイル。アプリが短命化する一方で、データやスキーマの価値相対的に上がり、再利用性が高まっていくという。
開発者はかつてなく「コミュニケーション力」が重要になる
「開発者はジェネラリストになっていく。小さなチームが前提となり、場合によっては一人のチームもありえる」と語るバー氏。こうした中、バー氏は次世代に求められる5つのスキルを挙げる。顧客のビジネスや要件を「観察する能力」、AIや人との対話のために、とにかく書き、とにかく読む「コミュニケーション能力」、チームメンバーと共同作業できる「協調能力」、複数のエージェントを管理しながらフォーカスをぶらさない「集中力」、つねに学び、学んだことを共有する「日々の学び」の5つだ。
この5つのスキルを向上させるために必要なのが、2つ目のコミュニケーションだ。コミュニケーションを重ねることで、AIの書いたコードを理解し、学びは深くなる。顧客やオーディエンス、さまざまなAI開発ツール、同僚たちとの対話を重ねることで、コミュニケーションも向上する。「開発の仕事を手がけているうちの息子は、もはやAIの生成したコードを見ないという。対話を重ねることで、システムを作ってくことが当たり前になってきている」とバー氏は語る。
最後、バー氏は「コードからプロンプトへ」というトピックの事例として、マシン前提のプログラムコードと、自然言語で書かれたプロンプトを比較。「特定言語、シンタックス、フレームワークの知識はもはやボトルネック」と語り、AIや人間との対話により、課題を設定し、システムを想像し、設計し、明確に表現できるコミュニケーションがこれまでになく重要になっていると指摘した。「AIと開発者」という昨今よく取り上げられるテーマだったが、AWSでの実践と体験を踏まえた地に足のついた内容は、多くの開発者にぶっ刺さったはずだ。


























