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週替わりギークス 第343回

メディアアート再燃?「TOKYO PROTOTYPE」に人が殺到した理由

2026年03月14日 07時00分更新

文● きゅんくん

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 先日、とある展示のレセプションに伺った。

 「TOKYO PROTOTYPE」という、クリエイター・企業の実験的なプロダクトやアート、「プロトタイプ」が集う新たな祭典だ。

 東京、虎ノ門ヒルズにある「TOKYO NODE」で、2026年1月29日〜1月31日の3日間だけ開催された。「TOKYO NODE」では同時に「攻殻機動隊展」が2026年1月30日〜4月5日で開催されており、29日のレセプションは大変賑やかなものとなっていた。

 筆者が楽しみにしていたのは、bit.studioによる「FLOCK OF」という空を魚が泳ぐ作品と、藤堂高行氏による、「鎖に繋がれた犬のダイナミクス」だ。

空を泳ぐ魚、鎖に繋がれた犬

▲「FLOCK OF」

▲「鎖に繋がれた犬のダイナミクス」

 「FLOCK OF」は、風船の魚が空を浮かぶという一見するとシンプルな作品なのだが、風船の魚の制御方法がおもしろかった。

 魚にはヒレをバタバタさせるための電池が搭載されている。

 そして、その電池の位置を変えることによって頭が潜るか、頭が上を向くかを制御している。

 頭のほうに電池が移動すれば頭が重くなって頭が潜り、下に向かって泳ぐという寸法だ。

 シンプルな方法で制御を実現させているのがとても面白いと感じた。

 「鎖に繋がれた犬のダイナミクス」は犬型ロボットが人に襲いかかってくるが、ロボットが鎖に繋がれていて襲い掛かれない。それを安全圏から眺めるという作品だ。文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業の成果発表イベントで既に見たことがあったが、筆者にとって何度でも見たい作品だったので見れて嬉しかった。鎖が絡まって倒れるロボットを見るのは本当に気分が悪い。気分の悪さを作り出せる作品というのは本当に素晴らしいと思う。

口コミが口コミを呼び、大盛況に

 「TOKYO PROTOTYPE」は3日間の開催だったわけだが、短い期間の開催には理由があるようだった。展示のプロトタイプ(あえてプロトタイプと呼ぼう)の横には、必ず開発者が立ち、説明ができるようになっていた。

 会期が長いと、展示に立つことは開発者の大きな負担になる。そこで3日間という短い開催期間になったようだ。

 「TOKYO PROTOTYPE」は口コミが口コミを呼び、大盛況になった。3日間の会期の最終日には来場者がキャパシティを超えて溢れかえってしまい、急遽予約制に変えられた。会場が階段やエスカレーター、エレベーターの多い複雑な形状だったのもあって、たくさんの来場者に耐えられる導線が確保できなかったようだ。入場無料だったことも来場者が溢れた原因のひとつだろう。子連れも多かったと聞いた。

 近年、メディアアートはずっと下火だったと思う。特に、文化庁メディア芸術祭がなくなってからは、メディアアートが盛り上がっている印象はなかった。

 「TOKYO PROTOTYPE」の何がそんなに人を惹きつけたのだろうか?

 メディアアートってもしかしてまた盛り上がり始めてる?

 2026年2月13日〜15日には渋谷でテクノロジー×アートのイベント「DIG SHIBUYA 2026」が開催される。

 2026年1月30日〜3月22日にはアートとデジタルテクノロジーの活用を通じて人々の創造性を社会に発揮するための活動拠点、シビック・クリエイティブ・ベース東京のリニューアルイベントが開催中だ。

 メディアアートってやっぱりまた盛り上がってる?

「攻殻機動隊展」は本気で楽しめなかった

 巡りゆく流行の理由を考えても答えは出ないけれど、プレイヤーが増えることによってアウトプットが良くなっていくのは素晴らしいことだと思う。一昔前に流行っていたメディアアートよりも今のメディアアートの方が技術としても作品の意味としても洗練されている気がするし。

 筆者も、なんとか追いつきたいと作品制作を続けようと思う。

 筆者のメディアアート観は結構昔で止まっている気がするので……。

 なんだかインタラクティブとか、メディアアート的なものに飽きてしまった気がする。

 「TOKYO PROTOTYPE」と同時開催だった「攻殻機動隊展」も見たが、以前だったらテンションの上がるようなインタラクティブ展示も、期待を超えないだろうという気持ちと面倒臭さの方が勝ってしまい、本気では楽しめなかった。

 「攻殻機動隊展」は、原画がメインの展示の中にアーティストとのコラボ展示や、インタラクティブに攻殻機動隊の世界を体験できる展示がいくつかあった。展示を通して、MRグラスをかけるとタチコマが展示を紹介してくれるというコンテンツがあった。

 MRグラスの在庫数の都合でコンテンツを体験することができなかったのだが、体験できずにほっとした自分もいた。

笑い男のマークの原画

攻殻機動隊展に入ったところ

 先日メディアアートの先人たちと話す機会があったのだが、先人たちは小さい時に見た「憧れのジャンル」には今でも憧れを抱いてしまい、良いと思ってしまうと言っていた。

 自分がその気持ちになるのはなんだか難しい。

 色々見てきたからこそ、がっかりしたくなくて期待しすぎない姿勢になってしまうのだろう。

 しかしまず、新しいものをよく見ないで勝手に過去の経験から決めつけてしまうのは老害ムーブすぎてよくないし、「人生というのは、諦めてからがはじまりである」のが筆者のモットーではある。

 制作に限らず、飽きてしまってから、諦めてしまってから、何をつくるかが重要なんだと思う。

自分自身の制作に思いを馳せるきっかけに

 今回の「TOKYO PROTOTYPE」と「攻殻機動隊展」を通して、「これから何を作ろうか」という自分自身の制作に想いを馳せるきっかけが生まれた。

 「TOKYO PROTOTYPE」は会場であるTOKYO NODEと日テレの共同開催だ。

 あえてメディアアートと言わないで「プロトタイプ」と呼び、広く作品を捉える姿勢など、きちんとこだわりのある良い展示であった。

 開催者のみなさんに敬意を示したいと思う。

 たぶん、「攻殻機動隊展」の方がネームバリューはあるから、「攻殻機動隊展」で人を集めて無料で「TOKYO PROTOTYPE」を見てもらおうという心づもりだったのではないだろうか。

 それが、「TOKYO PROTOTYPE」だけで人が溢れるほど集まった、それは本当に開催者の皆さんの細部にまで気の配られた展示によるものだと思う。

 来年の「TOKYO PROTOTYPE」が楽しみだ。

 自分も出展できるような作家になれたら嬉しいものである。

   

筆者紹介:きゅんくん

1994年東京都出身。
ロボティクスファッションクリエイター / メカエンジニア
高校生の頃に「メカを着ること」を目標にロボティクスファッションの制作を始めた。「人間とメカがゼロ距離で近づいた際に人は何を思い感じるのか?」を明らかにするため、2014年よりファッションとしてのウェアラブルロボットの開発を開始。2018年よりウェアラブルロボットと人のインタラクションについて深めるため修士課程に進学。修了後もATRの連携研究員として、ウェアラブルロボットと人のインタラクションの研究を進めている。 DMM.make AKIBAスタートラインメンバー。

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