エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀「玉ちゃんのシネマ秘宝館」 第3回
柄本佑×渡辺謙が江戸歌舞伎を舞台に繰り広げる『木挽町のあだ討ち』(2月27日公開) 。極上のミステリー空間で驚きと感動に出会える
2026年02月12日 17時00分更新
れっきとした時代劇なのだが、極上のミステリーであり、江戸時代の様式や空気感の再現があまりに高度で、その美意識のモダンさが例えばシェークスピアのような西洋の香りもさせる。当てがきもあるのだろうが見事にフィットした役者たちのハマり具合がさらに居心地をよくしてくれる。
永井紗耶子による原作『木挽町のあだ討ち』は、歴代3人目となる、直木賞と山本周五郎賞をW受賞した人気小説だが、「このミステリー がすごい! 2024 版」など数多くのミステリー賞にもランクインしているように、実にワクワクする構造を備えた作品だ。
そして、監督の源孝志と音楽の阿部海太郎と言えば、現在、NHKのBS/BSP4Kで放送されている「京都人の密かな愉しみ Rouge-継承-」のコンビ。このシリーズはもちろん、ドラマ「スローな武士にしてくれ〜京都 撮影所ラプソディー〜」や「令和元年版 怪談牡丹燈籠」「グレースの履歴」など名コンビ。実は、源監督は筆者と同い年の64歳で、源監督は立命館大学で筆者は同志社大学。同じころに京都で青春を過ごしていたのだ。
柄本佑は江戸時代の刑事コロンボ!? 芝居小屋のプロフェッショナル達への聞き込みから何が出てくるのか
ミステリー要素を濃厚に感じさせてくれるのが、謎を解き明かしていく美濃遠山藩士・加瀬総一郎(柄本佑)。映画冒頭で派手な仇討ちを見せて、その背後にあるものを解明していくわけだが、観ている我々も、「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」のように最初から仇討ちの背後にある真実を知っているわけではないのだが、まさに刑事や探偵を思わせる加瀬総一郎とともに、芝居小屋の世界に分け入っていくことになる。
【ストーリー】
文化7年(1810年)1月16日、江戸・木挽町。歌舞伎の芝居小屋「森田座」では『仮名手本忠臣蔵』が大入満員で千穐楽を迎えていた。
その仇討ちは、舞台がはねた直後、森田座のすぐ近くで起きた。芝居の客たちが立会人と化し見守る中、美濃遠山藩士・伊納菊之助(長尾謙杜)が、父・清左衛門(山口馬木也)を殺害し逃亡していた男、作兵衛(北村一輝)の首を見事、討ちとったのである。雪の舞う夜、若き美男子が成し遂げたこの事件は「木挽町の仇討ち」として、江戸の語り草となった。
それから一年半後、同じ遠山藩で、菊之助の縁者を名乗る加瀬総一郎(柄本佑)が森田座を訪れる。総一郎にとってこの仇討ちは、腑に落ちぬ点が幾つかあり、それを解明したいのだという。
あの心優しい菊之助が、あんな大男の作兵衛をどうやって?
そもそも美濃しか知らない菊之助が、どうやって江戸の森田座に辿り着いたのか?
源監督が「刑事コロンボ」の再放送から着想を得たと語る通り、柄本佑演じる総一郎は、ニュルっとした笑顔で相手の懐に入り込み、鋭い観察眼で綻びを見つけ出していく。対するは、森田座の立作者・篠田金治(渡辺謙)。この“江戸のアヴェンジャーズ”を率いる大ボスが、どのような思惑で仇討ちに関わり、総一郎の前に立ちはだかるのか。二人の初共演とは思えぬ濃密な心理戦は、本作最大の白眉である。
時代小説の枠を超え、多くの人の心をとらえて離さないこの傑作小説は、ひ とつの仇討ちの顛末を卓越した構成で明るみにしていく。仇討文学界の最高峰を極めると同時に、ミステリーとしても高い評価を得た「読む醍醐味」の結晶だ。江戸・木挽町の芝居小屋を舞台に、ある仇討ちの裏側に隠された真実が、まるでパズルのピースが埋まるように明かされていく。
この緻密な物語を、映像という魔法で鮮やかに立体化したのが源孝志監督だ。名匠と豪華キャスト、そして京都撮影所の職人たちが結集し、単なる時代劇の枠を超えた、魂を揺さぶるエンターテインメントを誕生させた。
ほかの共演者たちも、若き菊之助を演じた長尾謙杜の凛とした佇まい、作兵衛役・北村一輝の熱量、そして森田座の面々を演じる瀬戸康史、滝藤賢一、高橋和也らの粋な演技が、群像劇としての厚みを支えている。さらに山口馬木也、沢口靖子、石橋蓮司らベテラン勢が随所で見せる個性豊かな「妙演」は、まさに一幕の贅沢な芝居を観ているかのようだ。
【柄本佑 コメント】
「何を隠そううちの父は木挽町の生まれでして、今作の小説が出た時に「これは読まなければ」と、あまり本を読まない僕が珍しく買って読んでた小説なわけなのですが、まさか自分にお話が来ようとは思いもしませんでした。
源監督は出演数の1番多い監督。
スタッフも勝手知ったる旧知の仲間。
皆さんとのお仕事はいつも楽しいばかり。
加えて京都太秦撮影所でのがっつり撮影ですから、隅から隅まで俺得でしかない現場でした。
原作を読んだことのある方は「あれ、どうやって映画にするのん??」と思われるかもですがご安心を。
流石源監督。ホンを読んで「そうきたかぁ」と唸りました。
是非お楽しみにしていただけたら、これ幸い。」
【源孝志 コメント】
直木賞を受賞して間もない「木挽町のあだ討ち」を映画化したい、監督してもらえないか?というオファーを受けたのは、「赤坂大歌舞伎」「中村仲蔵」など、江戸歌舞伎の世界を舞台とした作品が続いていた時期だった。
正直、私的には歌舞伎ものはお腹いっぱいで、半ば断ろうと思っていた。
思っていたのだが……渡された原作を、ついつい一晩で読んでしまった。
生き場所を失って芝居小屋に流れ着いた江戸の演劇人たち。彼らの細やかな悲しみが丁寧に織り込まれたエピソードが、重層的にストーリーを動かし、次第に仇討へと収斂されていく展開が見事だった。
脚本をどう書くべきか?と悩んでいた頃、別作品のミーティングでたまたま会った渡辺謙さんが、
「『木挽町のあだ討ち』読んだ? あれ、面白いよね。映画にならないかなぁ」
と私に言った。私はシレッと聞き返した。
「謙さんなら、どの役がやりたいですか?」
「そりゃ〇〇〇でしょう?」
「いや、△△の方がいいと思いますよ」
「何それ? 源さんが撮るの?」
「いやいやいや…」
キナ臭い役者と監督の会話である。
この作品を映画化するにあたって、一つ難度の高い問題があった。
私に監督を依頼したプロデューサーは、この人情溢れる物語を、サスペンスタッチのエンターテイメントに仕立て上げて欲しいという。無茶な話である。
この無茶振りに対する打開策を数日ぐるぐると悩み、やがて唐突に「解」を得た。
ダラっと家で見ていた「刑事コロンボ」の再放送が、その「解」をもたらしてくれた。
コロンボの如く、ニュルっと仇討ちに隠された謎に切り込んでいくのは、原作では一言も喋らない男。
すぐに、柄本佑のニュルっとした笑顔が思い浮かんだ。
その前に立ちはだかるのは、渡辺謙率いる、クセ強めの〝森田座アヴェンジャーズ〟。彼らが守ろうとしたものはいったい何なのか? 役者の顔が見えてきたら、脚本は一気呵成に書き終えた。
まだ完成前だが、原作を読んだ読まないにかかわらず、最後まで疾走感を感じるエンターテイメントになっていると思う。」
■作品概要
作品名:
『木挽町のあだ討ち』
原作:
永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』(新潮文庫刊)
監督・脚本:
源孝志
出演:
柄本佑 ⻑尾謙杜 瀬戸康史 滝藤賢一 山口馬木也 愛希れいか イモトアヤコ 冨家ノリマサ 野村周平 高橋和也 正名僕蔵 本田博太郎 石橋蓮司 沢口靖子 北村一輝 渡辺謙
主題歌:
「人生は夢だらけ」椎名林檎 (EMI Records / UNIVERSAL MUSIC)
公開:
2026 年 2 月 27 日(金)全国公開




















