中国・深圳の電子街「華強北(ファーチャンベイ)」。ここがどんなところかと紹介すると、無数のショップが入る大きな商業ビルが何棟もあり、すべて歩いて見ようものなら1日では済まない。ガジェット好きには遊園地のような場所だ。
電子部品ならなんでもあるといってよく、部品を組み合わせて素早く新製品を作ることができるという、他都市にはない強みがある一方、香港と隣り合うことから日本人を含めた外国人バイヤーも多くやってくる。そこで近年は、外国人をターゲットとした完成品を売る店も増えている。
2026年に入り、2025年の華強北で起きたことをまとめる中国発の記事やポストがいくつか登場した。そして紹介された事象は中国に買いに来るガジェットマニア向けの話にとどまらず、世界的な動向の影響を受け、ニーズに合わせて業態を変化していた。ダイナミックな華強北の変化を紹介したい。
AI翻訳イヤホンとAIスマートグラスが大量に店頭に現われる
この地でわらわらと売られはじめたものが、AI翻訳イヤホンとメガネ型のAIスマートグラス。AI翻訳イヤホンは2つセットで、2人がこれを装着し、専用アプリを入れたスマホに話すと相手方に翻訳された音声が届くという製品だ。
こうしたAI翻訳イヤホンは中国国外でも問題なく利用でき、TikTokインフルエンサーを通して「9.9ドルイヤホン」という呼称が使われるようになり、その手軽さからも外国人客にもウケがいいという。
一方のAIスマートグラスもまたLLMの恩恵を受けた製品で、音声で話しかけると音声で回答したり、内蔵のカメラユニットを使って写真を撮ったりできる。レンズに画面を表示するスカウターのような画面表示できるものはない(深圳のことなので作られてるかもしれないが、普通には売られてはいない)。
多くの製品はAI翻訳イヤホン同様に、スタンドアロンではなくクラウドを通して処理がなされる。音声に加えて写真撮影やその保存が必要なので、カメラモジュールとバッテリーパックと複数のセンサーを小さなフレーム内に統合し、処理能力と熱と電力消費の間でバランスを取るため、より複雑でコストも大幅に高くなる。また安定性の面でも、すでに成熟していたイヤホンに比べれば不安定だという報告がある。
なお、スカウター的なAIスマートグラス製品は、今年中には出るだろうと分析する声も。モノとしては面白いが、最初は品質面が不十分であり、ダメ元で買うなら人柱の覚悟が必要だろう。ただそうしたAIスマートグラスが出れば、メーカーも値段を下げて品質に注力せざるを得ず、人柱も大量に出るので、こうした新技術の普及は加速する。ちなみにLLMを使ったAI製品は、会話するぬいぐるみも目立っている。こちらも基幹部品が安く出回ったことで、有象無象の製品が登場した。
メモリー価格は中国でも大幅上昇
ただしお金さえ払えば手に入るのが中国の電子街でもある
パソコンやスマホで発展した華強北の電子街の店々もまた、メモリ価格の影響を正面から受けた。64GBのサーバー向けメモリー価格は、4月の1000元台から11月には4000元台まで上昇し(1元=約23円)、一般的なDDR4/DDR5メモリも何倍にもあがり、ひどいときには1日に数倍の上昇を記録したこともある。
華強北ですっかり少なくなった自作PCショップは、「価格上昇後、1日に数件しか顧客がいない」とさらにニーズが下がり、すっかり閑古鳥が鳴く状況だ。動きがあるのはメモリー専門店で、在庫を確保して、好機を捉えて販売することで、かなりの利益を上げているほか、値段が大きく上昇するのを見込み、転売目的でメモリを買いだめする業者も現れた。
ただし、在庫が減って、値段が爆上がりしても華強北にはモノはある。数十倍、あるいは数百倍ものプレミアムを支払う覚悟さえあれば、華強北では手に入る。この状況は、華強北で生き抜く人々にとっては千載一遇のビジネスチャンスでもあった。
背景にあるのは世界的なAIサーバーのニーズで、サムスンなどの世界的主要企業だけでなく、利益率の高いAIサーバー向けメモリへと生産を移行した。中国にもメモリーチップから作れる長江存儲科技(YMTC)などの企業があるが、中国は中国でアリババやテンセント、バイトダンスといった企業が同様にAIサーバーへの投資を進めており、そうしたニーズへと生産をシフトしたと言われている。これにより、従来のDDR4/DDR5メモリーの供給が逼迫し、価格が急激に上がっているのは同様だ。
ガジェットの価格変動といえば、2025年4月に米中で発生した関税合戦による影響も紹介したい。トランプ政権が中国製品の輸入に対する報復関税を発表すれば、中国は米国製品への関税引き上げを発表。たとえば米国で製造され、中国に販売される半導体には、最大125%の関税が課せられることに。
華強北で国際的なビジネスをする業者にとって、米国はもちろん大きな市場だったが、昨今の中国企業のクラウドファンディング活用や、AliExpressやtemuなどの越境ECサイトを通しての世界展開は進み、華強北の業者も米中のいざこざでは動じなくなった。

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